一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2009/01/21 No.118EU、自動車CO2排出規制で妥協成立〜欧州議会と議長国が合意

田中信世
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

欧州連合(EU)は欧州委員会が策定した自動車のCO2排出規制問題を巡って紛糾を続けてきたが、2008年12月1日、欧州議会と議長国(08年下半期の議長国はフランス(注1))との間で、基準値達成までに暫定期間を設けることなどを内容とした妥協案で合意に達した。

欧州委員会は07年2月、EUで販売される新車の二酸化炭素(CO2)の排出許可量を2012年以降、①自動車メーカーのエンジン改良等により120グラム/kmに削減、②タイヤの改善やバイオ燃料の利用促進による削減分を10グラム/kmを上乗せして、両者を合わせて、EUで販売されるすべての新車の平均排出量を130グラム/kmにする、という規制案を発表した。さらに欧州委員会は、排出量規制が車輌重量を考慮していないというドイツなどの加盟国の批判に応えて同年12月に、次の項目を内容とする規制の具体案を発表した(08年1月22日付フラッシュ106号「ドイツ車に厳しい自動車CO2排出規制案〜欧州委員会が規制案の詳細を発表」を参照)

  1. CO2排出許可量を車輌重量ごとに設定し、排出許可量を「130+a×(M−MO)」(M=車輌重量〔キログラム〕、MO=12890.0〔定数〕、a=0.0457〔係数〕)の計算式で算出することとする。
  2. 規制値を達成できない自動車メーカーには罰則規定として単位排出量未達1グラムにつき1台当たり12年20ユーロ、13年35ユーロ、14年60ユーロ、15年以降95ユーロの罰金を徴収する。

この欧州委員会の規制案に対して、欧州自動車工業会(ACEA)など業界団体は規制の内容が厳しすぎるとして激しく反発、特に自動車重量の大きい高級車、大型車の生産が多いドイツ自動車メーカーは、欧州委員会案の重量別規制値が導入された場合でもドイツ車は、フランスやイタリアなどの小型車と比べて不利を被るとして、政府も巻き込んで、EUに対して激しいロビー活動を展開していた。

<完全実施までに暫定期間、罰金も大幅に緩和>

ドイツの経済紙ハンデルスブラット紙(08年12月2日付)によれば、今回、欧州議会とEU議長国(フランス)との間で合意に達した妥協案には次のような内容が盛り込まれている。

  1. 新車に対する120グラム/kmの規制値達成を、12年には新車販売台数の65%、13年には同75%、14年80%とし、15年にすべての新車に対して適用する(すなわち当初案の12年完全適用を15年に延ばし大幅な暫定期間を設ける)。
  2. 規制値(CO2排出許可量)は、(ⅰ)自動車メーカーのエンジン等の改良によるものが120グラム/km、(ⅱ)タイヤの改良やバイオエネルギーの利用による上乗せ分を10グラム/km、(ⅲ)電動部品の改良など部品メーカーの技術革新による上乗せ分を7グラム/kmとし、全体の規制値を137グラム/kmとする。
  3. 規制値を達成できない場合の罰金は、(ⅰ)12年以降、超過分が1グラムの場合は5ユーロ、2グラムの場合15ユーロ、3グラムの場合25ユーロ、超過分が3グラムを上回る場合は4グラム以上の1グラムにつき95ユーロとし、(ⅱ)19年以降は超過1グラム当たりの罰金を一律95ユーロとする。

上記合意案は今後欧州議会の本会議における採決、閣僚理事会での承認を経て、法制化される予定である。今回の決定について、欧州議会の産業委員会のニーブラー委員長は「今回の決定は困難な状況にある欧州の自動車業界に対して大幅な暫定期間を導入することで配慮すると同時に、長期的に気候変動に対して貢献するもの」と述べ、今回の規制案が欧州議会の本会議で承認されることに対して自信を示している。また、ハンデルスブラット紙(08年12月2日付)によれば、ドイツ自動車産業や政府も、?欧州委員会の当初の規制案が全体として大幅に緩和されたこと、?特にドイツが主張していた部品メーカーの技術革新が規制値の上乗せ分として認められたことなどから、今回の合意成立を成功と受け止め歓迎している。

しかし、欧州議会と議長国(フランス)が、長期的な目標として2020年の排出基準値を平均95グラム/km(ドイツは110グラム/kmを主張)にすることでも合意したと伝えられるなど(同上紙)、自動車のCO2排出規制を巡るEU加盟国の確執はまだまだ続きそうである。

ちなみに、欧州運輸・環境協会(European Federation for Transport and Environment)の「新車のCO2削減;2007年の主要メーカーの進展に関する研究」(2008年8月)によれば、欧州で新車を販売している主要メーカーの07年における新車販売台数と平均CO2排出量は次表のとおりであった。

表 主要メーカーの新車販売台数と平均CO2排出量

メーカー 販売台数 ( 2007 年、 1,000 台) 平均 CO2 排出量( g/km )
2006 2007

BMW

765 184 170 -7.3

ヒュンダイ

341 167 160 -3.9

ダイムラー

796 188 181* -3.5*

トヨタ

818 153 149 -2.4

フィアット

1,157 144 141 -2.0

フォルクスワーゲン

2,776 166 163 -1.8

マツダ

213 173 171 -1.4

PSA プジョー・シトロエングループ

1,903 142 141 -0.9

スズキ

240 164 162 -0.8

GM

1,611 157 156 -0.6

日産

279 168 167 -0.5

ルノー

1,192 147 146 -0.5

フォード

1,565 162 162 -0.2

ホンダ

262 154 156 +1.1

 

       

ドイツ・グループ **

  173 168 -3.2

フランス・グループ ***

  144 143 -0.7

日本グループ ****

  161 157 -2.3

 注)上記データーはEU18カ国をカバーしたもの(EU15プラスハンガリー、リトアニア、スロベニア;EU27の市場の94%)。
*=クライスラーとの合併解消の効果を含む。
**=フォルクスワーゲン、ダイムラー、BMWを含む。
***=PSAおよびルノーを含む
****=トヨタ、ホンダ、マツダ、日産、スズキを含む。
(出所)欧州運輸・環境協会の上記資料より作成

注1)2008年下半期の欧州連合(EU)の議長国であったフランスが、EUの自動車生産国を代表して欧州議会と折衝を行ってきた。

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