2009/06/30 No.127キャシュ・アンド・キャリー型卸売店の進出が相次ぐインド
増田耕太郎
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹
世界を代表する小売企業が、インドに卸売店を相次いで開店もしくは開設を計画している。主だった企業の進出状況(予定を含む)は、下表のとおり。
進出企業(予定を含む)をみると、小売業の売上高ランキングで世界1位のWalMart(ウオルマート)、2位のCarrefour(カルフール)、4位のTESCO(テスコ)、5位のMETRO(メトロ)があり、いずれも「卸売業」として進出する(売上高順位は2006年度;“STORES”誌2008年1月号を使用)。
表卸売店として進出する小売業企業の例
進出状況(計画を含む)を要約すると、
- インド政府は、一般市民を対象にした量販店やスーパーマーケット分野の外資参入を認めていない。ところが、小売業に対する外資規制の緩和・撤廃が行なわれる可能性を見込み、世界を代表する大手小売業が『卸売店』のカタチで参入している。なお、卸売業の外資規制は2006年2月に撤廃し外資の参入を認めている。
- 卸売店は、ホテル、レストラン、小売店などを対象にしたアウトレット型の卸売の店舗。“CashandCarry“型で、会員制・現金取引のビジネスである。先行するMETRO、新たな進出となったWalMart、開店を予定しているTESCO、Carrefourも、このタイプの卸売店である。
- 外資系企業の出資比率が50〜51%、インド企業が49〜50%を出資する合弁企業を設立している。合弁の形態を採るのは、インド企業がもつインドでのビジネス・ノウハウ、販売する商品の多くを現地で仕入れるためのサプライ・チェーン構築のためのノウハウ、立地等の情報が、進出する外資系企業にとって必要のためである。
2009年5月30日に卸売店の1号店をオープンさせたWalMartの場合、2007年に50%を出資しBhartiEnterprisesと合弁でBhartiWal-MartPvtを設立している。そして2年後、パンジャブ州Amritsarで“BestPriceModernWholesale”の開店となった。業態は“CashandCarry“型の会員制・現金取引のWholesaleOutletである。同社では、6000以上の品目を扱いその90%以上をインド国内で調達し数年以内に15店の開設を予定しているとしている。
小売業がインドに卸売店を開店させる背景は次の点が指摘できる。
- 2006年2月、インド政府は卸売業の外資規制を撤廃し外資参入を認めた。これを契機に外資系企業の卸売部門に進出が相次いでいる。インドの対内直接投資統計では、卸売業は“Trading”(貿易・商事)に計上し、2007年の対内投資額は5億7400万ドル、2008年は6億5400万ドルで、規制緩和が行なわれる前の2005年と比べると、それぞれ20.5倍増、23.0倍増になっている(下図参照)
- 食品や日用品を販売するには、インド国内での調達が最も重要になる。そのため、インド企業と合弁形態を採ることで、インド国内市場を精通しロジスティックスとサプライ・チェーンの展開に必要なノウハウや情報を持つ合弁先を活用しようというもの。
- インドの小売市場規模は、約4300億ドルと推定されている。英国・Independent紙によると2015年までに市場規模は2倍になると見込まれている(2008-8-12付)。経済成長にあわせ中間層が育ちつつあり、世界の大手小売業にとって外資参入が認められていないインド市場に、外資規制が撤廃ないし緩和される前に進出の橋頭堡を築く意義は大きい。そのためにはCashandCarryのビジネスモデルによる卸売業に参入することが早道といえる。
- インドの小売店は零細な事業者が大多数だから、巨大な外資系小売店が小売り部門に進出することによる影響を恐れている。このため、小売業の外資規制の撤廃時期は不確かであっても、外資系小売業企業にとって小売店などを顧客にした卸売店ビジネスに参入し甲斐がある分野といえる。
なお、小売業進出が認められているのは、フランチャイズ形態か、単一ブランドによる小売店である。単一ブランドの商品を販売する専門小売店は外資51%の出資による参入を認められており、高級ブランド品、NIKEなどのスポーツ店、Samsungのアウトレット、ZARAブランドのIndeitex(スペイン)、MarkandSpenser(英国)などがある(計画中を含む)。この分野における進出も増えている。
図 インドの貿易・卸売業分野の対内直接投資額の推移
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