一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2014/10/01 No.211メガFTAとしてのRCEP~その意義と課題~

石川幸一
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
亜細亜大学 教授

はじめに

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、ASEAN10カ国およびASEANとFTAを結んでいる東アジア6カ国が交渉しているメガFTAである。RCEPは中国、ASEAN、インドというグローバルな生産基地と成長性の高い消費市場を含んでいる。21世紀は「アジアの世紀」といわれるが、「アジア」はRCEPと同義と言って過言ではない。TPP、TTIPと比べると、自由化率が低く新しいルール形成を目指していないが、重要性では決して劣らない。アジアとの連携に活路を求める日本企業の海外事業展開、とくにサプライチェーン構築に不可欠なFTAである。

本論は、RCEPを取り上げ、上記の視点から、第1節で経緯、第2節で内容、第3節で意義、第4節で課題について論じている。

第1節 EAFTAとCEPEAを統合

RCEPは、2011年にASEANが提案した東アジアの広域FTAである。2012年に基本的な内容が合意され、2015年末合意を目標に2013年5月に交渉が開始された(注1)。東アジアの広域FTAは、中国が提案した東アジアFTA(EAFTA:ASEAN+3)、日本が提案した東アジア包括的経済連携(CEPEA:ASEAN+6)の2つの対立する構想が並行して研究されてきたが、RCEPにより統合され交渉に移行した。東アジア統合を巡る日中の主導権争いがRCEPにより終止符が打たれた背景にはTPPの交渉開始がある。2010年3月のTPP交渉開始と10月の日本の関心表明により東アジアの広域FTAが米国主導で進むことを警戒した中国がEAFTAに固執するのを止め柔軟な姿勢に転じたためだ。RCEPの参加国はASEAN+6でありCEPEAと同じである。その結果、広域のアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)に向けては、RCEPとTPPという性格が異なる2つのメガFTAが併行して交渉されることになった。

EAFTAは2005年から2009年まで、CEPEAは2007年から2009年まで民間研究が行われた。2009年の経済大臣会合で4分野(原産地規則、関税品目表、税関手続き、経済協力)について政府間検討に合意し、ワーキンググループにより5つのASEANプラスFTAについての比較検討などが行われてきた。2011年8月には日本と中国が「EAFTAおよびCEPEA構築を加速させるためのイニシアチブ」により、物品貿易、サービス貿易、投資の自由化についての作業部会設置を共同提案した。今まで対立していた日中の共同提案に対し、東アジアの地域統合においてイニシアチブを握りたいASEANはRCEPを提案した(注2)。

2011年11月のASEAN首脳会議で、EAFTAとCEPEAの取組みを踏まえて地域経済統合の一般原則を定めるとともにASEANの中心性を強調する地域包括的経済連携の枠組み(ASEAN Framework for Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP)が採択された。2011年11月の東アジアサミットでは、8月の日中共同提案を踏まえ、ASEANプラスの3つの作業部会を立ち上げることに合意した。

2012年8月にASEANとFTAパートナー国の経済大臣会合が開催され、「RCEP交渉の基本指針及び目的」が採択され、11月にASEANとFTAパートナー国6カ国の首脳によりRCEP交渉立ち上げが宣言された。2013年5月の第1回の交渉以降、計5回の交渉と2回の閣僚会議が開催されている(表1)。

表1 RCEP交渉の推移

第1回 2013年5月 ブルネイ: 物品の貿易、サービス貿易、投資の3分野のワーキンググループ立ち上げ

第2回 2013年9月 ブリスベーン: 関税交渉についてのモダリティの初期提案、原産地規則と税関手続についてのサブワーキンググループ立ち上げ、サービス章の構成と要素、投資でカバーすべき要素、競争政策、知的財産、経済技術協力について議論

第3回 2014年1月 クアラルンプール: 物品の貿易(関税交渉と非関税措置モダリティ、貿易の技術的障害[TBT]、衛生植物検疫[SPS]、税関手続と貿易円滑化、原産地規則)、サービス貿易(市場アクセスの関心分野など)、投資(モダリティと投資章の要素)、知的財産、競争、経済技術協力、紛争解決の4つのワーキンググループ立ち上げ

第4回 3月~4月 南寧: 物品の貿易(テキストおよび4つの分野についての議論)、サービス貿易(テキストの要素、規定の範囲、市場アクセスの約束へのアプローチなど)、投資(テキスト、モダリティの要素)、知的財産、競争、経済技術協力のワーキンググループの活動開始

第5回 6月 シンガポール: 物品の貿易、サービス貿易、投資、知的財産、競争、経済技術協力の各章テキストの要素、TBT、SPS、税関手続と貿易円滑化は公式交渉が開始

(出所)New Zealand Ministry of Foreign Affairs & Trade,” Regional Comprehensive Economic Partnership (RCEP)”

第2節 包括的なFTAを目指す

RCEPは、ASEANのFTAパートナーおよびその他の経済的パートナーと包括的な経済連携協定を作ることを目的としており、ASEAN中心性、衡平な経済発展と経済協力強化についても言及している。交渉の原則は、①WTO整合性、②既存のASEAN+1FTAよりも相当程度改善した、より広く深い約束、③貿易投資円滑化とサプライチェーンへの参加国の関与、④CLMVへの特別待遇と柔軟性、⑤参加国間のFTAの存続、⑥ASEANのFTAパートナーの参加が可能、⑦技術協力と能力開発、⑧包括的でバランスの取れた成果のための併行した交渉の8点である(注3)。

対象分野は8分野(物品貿易、サービス貿易、投資、経済協力、知的財産、競争、紛争解決、その他)である(注4)。物品貿易では、包括的な関税交渉を行い、品目数および貿易額の双方で高い割合の関税撤廃を行ない、非関税障壁は漸進的に撤廃するとしている。TBT、SPS、原産地規則、税関手続と貿易円滑化、貿易救済措置も対象となっている。サービス貿易では、GATSおよびASEAN+1FTAの約束を基礎としてサービス貿易に関する制限と差別的な措置を実質的に撤廃する。投資では、促進、保護、自由化、円滑化の4つの柱を含む。経済技術協力では、開発格差の縮小を目指し、ASEANおよびFTAパートナー国との既存の取決めを基礎とする。電子商取引およびその他の分野が含まれる。知的財産では、知的財産の利用、保護、執行における協力の推進により貿易投資に対する知的財産関連の障壁を削減する。競争では、能力・制度の差異を認識しつつ競争、経済効率、消費者の福祉の促進、反競争的な慣行の抑制に関する協力を行う。紛争解決では、効率的かつ透明性ある紛争解決メカニズムを目指している。その他ではRCEP参加国のFTAに包含されている事項などを検討するとしている(注5)。

TPPの21分野に比べ8分野は少ないように見えるが、TPPでは独立した分野になっているTBTやSPSを物品貿易に含めるなど分類が異なるためであり、包括的なFTAを目指している(注6)。

表2 RCEPの交渉分野

  1. 物品貿易(関税、非関税障壁、貿易の技術的障害(TBT)、衛生植物検疫(SPS)、原産地規則、税関手続きと貿易円滑化、貿易救済措置)
  2. サービス貿易
  3. 投資
  4. 経済技術協力(電子商取引を含む)
  5. 知的財産
  6. 競争
  7. 紛争解決
  8. その他
(出所)New Zealand Ministry of Foreign Affairs & Trade,” Regional Comprehensive Economic Partnership (RCEP)”

第3節 市場・生産基地として重要な意義

1.大きな市場の成長可能性
RCEPはTPP、TTIP(環大西洋貿易投資連携)とともにメガFTAといわれている。TPP、TTIPと比べると、人口では世界の人口の48.8%を占め圧倒的に大きく、GDPでは28.7%である。RCEPの魅力は、今後も成長が期待される新興市場が主要メンバーとなっていることであり、市場の成長性では最も有望なことだ。アジア開発銀行の「アジア2050」によると、2050年にアジアのGDP(名目、市場価格)の世界シェアは51%に達すると予測している(注7)。アジアの成長を牽引するのは、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、タイ、マレーシアの7カ国であり、この7カ国で2050年のアジアのGDPの9割を占める。7カ国は全てRCEPの参加国である。同報告書のいう「アジアの世紀」のアジアはRCEPとほぼ同じであり、RCEPの魅力は市場の大きな成長可能性にある。

表3 メガFTAの経済規模(対世界シェア)と主な目標(単位:%)

 

人口

GDP

輸入

対内直接投資

TPP

11.4%

37.5%

26.9%

31.5%

RCEP

48.8%

28.7%

28.5%

23.5%

TTIP

11.7%

46.2%

41.3%

29.9%

(注)人口、GDP、対内直接投資は2013年、輸入は2012年。
(資料)「ジェトロ世界貿易投資報告書2014」、IMF(2013)Direction of Trade Statistics Yearbook 2013など。

2.アジアのサプライチェーン構築のツール
生産面では、RCEPは日本企業のアジアサプライチェーン構築の重要なツールとなる。RCEPは、グローバルな製造業生産拠点である中国、ASEAN、インドを含むFTAだからだ。多くのIT製品の生産は圧倒的にRCEP参加国で生産されており、世界の自動車生産でもRCEPは5割を超えている。ジェトロ調査によると、RCEP参加国に進出している日系企業の部品調達先に占めるRCEPのシェアは多くの国で90%を超えている(表3)(注8)。RCEPはサプライチェーンの構築に最も役立つFTAとなる。

さらに、RCEPにより日本は中国、韓国というFTA未締結国とのFTAを締結できる(注9)。中韓は電気機械、一般機械、精密機械など日本の主要輸出製造業品の輸出先の3-4割を占める一方で、たとえば電気機器では中国が平均8.8%、韓国が同8.9%など工業品の関税が残存している(注10)。また、日系進出企業は部品調達先のうち日本が占める割合は中国では27.9%、韓国では38.9%と高く(表3)、サプライチェーンの効率化の点でも効果が大きい。

表4 アジアにおける日系企業の部品調達先  (単位:%)

 
RCEP
現地
日本
ASEAN
中国
タイ
93.5
52.7
29.7
4.6
6.5
インドネシア
91.6
40.8
32.7
13.5
4.6
マレーシア
88.7
42.3
27.9
11.5
7.0
ベトナム
90.8
32.2
34.8
12.4
11.4
フィリピン
88.8
27.9
41.6
10.7
8.6
シンガポール
90.9
40.4
27.3
15.9
7.3
カンボジア
92.1
10.7
22.5
36.6
22.3
ラオス
94.9
11.0
18.7
42.7
22.5
中国
95.0
64.2
27.9
2.9
 
韓国
94.2
47.9
38.9
2.0
5.4
インド
95.4
43.4
32.2
12.1
7.7
豪州
78.5
48.2
19.7
5.7
4.9
ニュージーランド
75.3
55.1
17.4
1.4
1.4
(出所)梶田朗・安田啓(2014)「FTAガイドブック2014」日本貿易振興機構。
〈注〉部品調達額に占めるRCEP地域および各国地域の比率。

第4節 RCEPの課題

1.高いレベルの自由化は可能か
RCEPの自由化は「既存のASEAN+1FTAを相当程度改善した、より広く深い約束」を目指している。ASEAN+1の自由化レベルは、ASEAN豪州ニュージーランド(AANZFTA)が最も高く、ASEAN中国(ACFTA)とASEAN韓国(AKFTA)が90%台、ASEAN日本(AJCEP)は80%台後半であり、ASEANインド(AIFTA)は70%台と異例の低さである(表4)。インドはタイとのFTAで8品目のアーリーハーベストを実施したところタイからの対象品目の輸入が急増し、タイとの貿易が黒字から赤字に転換した経験からFTAに対する産業界の警戒心が強く、高い自由化率実現の障害となることが懸念される。2014年8月の閣僚会議で自由化目標に合意できなかったのは、各国が80-90%の自由化率を提案する中でインドは40%を提案しためであり、インドを除いて合意する案が浮上していると報じられている(注11)。

RCEPは「ASEAN中心性」を交渉の基本原則としている。ASEAN経済共同体(AEC)での自由化のレベルやルール形成がRCEPの自由化の範囲を決めるであろうが、TPPのように新しいルールを創ることは期待できない。しかし、ASEANは東アジアの地域統合では最も進んでいる。ASEAN自由貿易地域(AFTA)の自由化率は先行6カ国間では99%台と高く、2015年末のAEC創設に向けて、サービス貿易、投資、熟練労働者移動の自由化を進めている。ASEANは、経済格差、政治制度、宗教などの多様性、歴史に根ざす対立などがありながら時間をかけて統合を進めてきた(注12)。こうしたASEANの統合の経験と知恵は同様に多様性に富むRCEPの交渉に役立つであろう。

表5 ASEAN+1FTAの概要

 

FTA目標年

自由化率

原産地規則(実質変更基準のみ)

特徴

ACFTA

2010年(2015年)

92.0%
94.6%(中国)

付加価値基準40%

AFTA型協定、自動車、オートバイ、家電製品などを例外とする国が大半。

AKFTA

2010年(2015年)

91.6%
92.2%(韓国)

付加価値基準40%と関税番号変更基準(HS4桁)の選択

AFTA型協定、北朝鮮の開城工業団地の生産品を対象。

AJCEP

2018年- 2026年

89.1%
86.2%(日本)

付加価値基準40%と関税番号変更基準の選択

7カ国とは包括的な二国間協定を併せて締結。

AIFTA

2013年- 2018年

76.5%
74.3%(インド)

付加価値基準35%および関税番号変更基準(HS6桁)の併用

AFTA型協定、関税削減・撤廃制度は極めて複雑。

AANZFTA

2020年- 2025年

94.6%
100%(豪州NZ)

付加価値基準40%と関税番号変更基準(HS4桁の選択

自由化率が最も高い、包括的(政府調達は含まれない)

(注)概況を示すものであり詳細は協定を参照。日本とのEPAは2国間協定のほうが自由化水準が高い。原産地規則は、ほかに完全生産基準と加工工程基準がある。目標年次のカッコ内は新規加盟国の目標年。
(出所)各協定から作成。自由化率はERIA久野新氏による。

2.使いやすいルールと手続き
FTAは企業の利用がないと絵に描いた餅になる。FTA企業に利用されるためには使いやすいルールが必要だ。物品貿易では、原産地規則、関税譲許表、HSコードなどルールや手続きなどの統一が不可欠である(注13)。

サプライチェーン構築に重要なのは原産地規則である。FTAごとに原産地規則が異なり複雑化する「スパゲッティボウル現象」は企業のFTA利用を妨げる。RCEPのベースとなるFTAの原産地規則は同じではない。AFTAとおよび日本、韓国、豪州・ニュージーランドとのFTAの4つが40%付加価値基準と4桁の関税番号変更基準の選択方式である。中国とのFTAは40%付加価値基準のみ、インドとのFTAは35%付加価値基準と6桁の関税番号変更基準の2つの基準を満たさねばならない併用方式であり最も厳格である(表4)。RCEPでは柔軟で利用しやすい選択方式で統一することが望ましい。

東アジアの製造業は、日本、ASEAN、中国、インドなど東アジア域内から大半の中間財を調達しており、多数の中間財を多くの国から輸入する国際分業が形成されている。こうした国際分業を促進するのが、FTA加盟国の付加価値の累積を認める累積原産地規則である(注14)。さらに、第3国の物流倉庫で製品の一部を保管、注文に応じ輸出する「商流も物流も第3国経由」の場合に使われるのが第3国で発給するバック・トゥ・バック原産地証明書である。この場合、第3国は同一のFTA参加国でなければならないため多数国が参加するメガFTAほど使いやすくなる。

原産地規則は現在の取引形態に即している必要がある。FTAは直送を原則とするが、シンガポールなど第3国の統括会社、物流会社や商社を経由でインボイスを切り替える「物流は直送、商流は第3国経由」の取引が少なくない。この第3国インボイスはAFTAとASEAN+1FTAで認められているが、原産地証明へのFOB価格記載や複数の第3国経由の適用など運用上の問題が指摘されている。

関税削減スケジュールの統一も必要だ。ASEAN+1FTAでは、関税削減スケジュールがバラバラなことに加えて、同じFTAでも相手国により撤廃スケジュールが異なっている場合があり、FTA利用手続と実務を煩雑かつ多大の時間とコストをかかるものとしている。そのため共通関税譲許表とすることが望ましい。RCEPはTPPと異なり共通関税譲許表採用で合意している(注15)。

3.効果大きい貿易円滑化
多くの産業でコストとスピードの厳しいグローバルな競争が起きている。スピードの面で重要になるのはリードタイムの短縮である。リードタイム短縮により、商品を迅速かつ時機を得て供給でき、在庫を削減させ、倉庫費用の圧縮も可能になる。効果があるのは調達に必要な時間の短縮であり、通関手続きの簡素化、電子化などの貿易円滑化を進めることがFTAに求められる(注16)。

世界銀行の調査によると、RCEP参加国で貿易手続のコスト、時間で問題があるのは、ラオス(世界189ヶ国中のランク161位)、インド(132位)、カンボジア(114位)、ミャンマー(113位)、中国(74位)、ベトナム(65位)である。一方で、シンガポール(1位)、韓国(3位)、マレーシア(5位〉などは効率的で低コストの手続きが高く評価されている。たとえば、ラオスをマレーシアと比較すると輸出書類は2.5倍、輸出手続き日数は2倍、輸出費用は4.3倍である(表5)。税関手続の簡素化、貿易円滑化には、ソフトとハードのインフラ、人材育成などが必要であり、一朝一夕には出来ないが、企業のサプライチェーンの観点に加え、貿易と対内投資の促進のためにも必須である。ASEANでは、経済共同体創設に向けて通関申告書の統一、貨物通過制度整備、統一関税分類(注17)など税関手続簡素化、シングルウィンドウなど貿易円滑化を積極的に進めており、RCEPでも同様な取組みが求められる(注18)。

表6 輸出入関連手続の必要時間とコストの例

 
輸出書類数
輸入書類数
輸出手続き日数
輸入手続き日数
輸出費用(コンテナ当たり米ドル)
輸入費用(コンテナ当たり米ドル)
ブルネイ
19
15
705
770
インドネシア
4
8
17
21
615
660
マレーシア
4
4
11
8
450
485
フィリピン
6
7
15
14
585
660
シンガポール
3
3
6
4
460
440
タイ
5
5
14
13
595
760
カンボジア
22
24
795
930
ラオス
10
10
23
26
1950
1910
ミャンマー
9
9
25
27
670
660
ベトナム
5
8
21
21
610
600
日本
3
5
11
11
890
970
中国
8
5
21
24
620
615
韓国
3
3
8
7
670
695
インド
9
11
16
20
1170
1250
豪州
5
9
7
8
1150
1170
ニュージーランド
4
6
10
9
870
825
(出所)World Bank (2014) ”Doing Business 2014”, Washington DC, World Bank

おわりに

RCEPは、TPP交渉の開始と日本の関心表明が交渉開始の契機となった。日EUのFTA、TTIPもTPPの交渉開始がなければ浮上しなかった可能性が大きい。このように、メガFTAの交渉は相互に影響を与えている。とくにTPP交渉の進展と合意内容はRCEPの交渉に大きな影響を与える。TPPとRCEPの双方の交渉に参加している日本の責任は大きい。まずは、高いレベルの自由化に向けてTPP交渉の早い時期の合意を目指すべきであり、同時にRCEPを自由化レベルが高く使いやすいFTAにするべくイニシアチブをとることが期待される。インドは高い自由化に消極的であるが、RCEPの魅力の一つはインドが参加していることである。インドの脱落はRCEPの魅力を大きく減らしてしまう。ASEANの自由化の経験を活かし高いレベルを目指しながら柔軟な自由化を進めるべきであろう。

<注>

1.RCEPの経緯および参考文献については、石川(2013)、助川(2013)、清水(2014)を参照。

2.東アジアの地域統合と地域協力でASEANが中心となることをASEAN中心性(Centrality)と呼んでいる。くだけた表現では、「運転席に座る」とも言う。

3.ASEAN Secretariat (2012)

4.Ibid.

5.ニュージーランド政府資料では、その他の分野に政府調達、中小企業、労働、環境が含まれうるとしているが、政府調達、労働、環境はASEANが合意しない可能性が大きい。

6.福永佳史氏(ERIA上級政策調整官)によると、TPPの対象分野の中でRCEPでカバーされないのは、政府調達、労働、環境、分野横断的事項の4分野である。

7.中所得の罠に陥る悲観的シナリオではGDPの世界シェア32%にとどまる。ADB(2012)

8.椎野〈2014〉98ページ。

9.RCEPとは別に日中韓FTA交渉が2013年に開始された。ただし、2012年に開始された中韓FTA交渉が先行している。梶田・安田(2014)28-34ページ。

10.米山(2014)32ページ。

11.9月18日付け日本経済新聞「東アジア経済連携交渉 インドを除く合意案浮上」

12.ASEANの発展については、山影進編著(2011)『新しいASEAN』アジア経済研究所を参照。

13.本項は、上ノ山〈2014〉および国際貿易投資研究会での同氏の報告によるところが大きい。

14.原産地規則、原産地証明については、椎野(2014)および安田(2014)が詳細な説明を行なっている。

15.米山(2013)11頁。

16.電気電子製品の貿易と通商問題の専門家である飯塚博氏によると、電気製品では生産リードタイムを3ヶ月とすると調達が30-60日を占めているという。

17.上ノ山陽子氏によると、輸入国と輸出国でHSコードの解釈が異なる場合、輸出国側が輸入国のHSコードで原産地証明を発給しないとFTAの特恵を享受できない。たとえば、3Dテレビ用眼鏡は、テレビ用アクセサリ(8529)、メガネ(9004)、新製品(その他の8543)の3つの分類の可能性があるという。

18.ASEAN経済共同体については、石川・清水・助川(2013)を参照。

参考文献

石川幸一(2013)「TPPと東アジアのFTAのダイナミズム」、石川幸一・馬田啓一・渡邉頼純編著『TPPと日本の決断』文眞堂。

石川幸一・清水一史・助川成也(2013)『ASEAN経済共同体と日本』文眞堂。

馬田啓一(2013)「TPPとRCEP」『季刊国際貿易と投資』91号、国際貿易投資研究所。

梶田朗・安田啓〈2014〉『FTAガイドブック2014』日本貿易振興機構。

木村福成(2014)「経済連携の潮流と日本の通商戦略」、馬田啓一・木村福成編著『通商戦略の論点-世界貿易の潮流を読む-』文眞堂。

清水一史〈2014〉「RCEPと東アジア経済統合」、『国際問題』No.632,2014年6月 日本国際問題研究所。

椎野幸平(2014)「アジア太平洋地域のFTA動向」梶田・安田(2014)所収。

菅原淳一「RCEP交渉15年末合意に黄信号」みずほインサイト2014年9月1日付け。

助川成也(2013)「RCEPとASEANの課題」、山澤逸平・馬田啓一・国際貿易投資研究会編著『アジア太平洋の新通商秩序』勁草書房。

三浦秀之(2014)「TPPとRCEP:米中の相克と日本」、馬田・木村編著所収。

安田啓(2014)「物品・サービス貿易に関するルール」梶田・安田(2014)所収

米山洋〈2013〉「RCEP 東アジアでサプライチェーンを」『ジェトロセンサー』2013年12月号、日本貿易振興機構。

米山洋(2014)「日本のFTAの現状」梶田・安田(2014)所収。

上之山陽子「FTA活用上の問題点」国際貿易投資研究所国際貿易投資研究会〈2014年4月21日〉配布資料。

ASEAN Secretariat (2012) “Guideline Principles and Objectives for Negotiating the regional Comprehensive Economic Partnership”

Asian Development Bank (2012) “Asia2050: Realizing the Asian Century”, Manila, Asian Development Bank

Christopher Findlay eds. (2011) “ASEAN+1FTAS and Global Value Chains in East Asia”, ERIA research Project Report 2010 No.29, ERIA

New Zealand Ministry of Foreign Affairs & Trade,” Regional Comprehensive Economic Partnership (RCEP)”

World Bank (2014) ”Doing Business 2014”, Washington DC, World Bank

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