一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2015/03/09 No.223ウクライナの経済危機とビジネス環境

田中信世
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

1.東西の狭間で揺れるウクライナ

ウクライナでは、2014年2月に親欧米派市民のデモによりロシア寄りのヤヌコビッチ政権が崩壊し親欧米政権が誕生した。ウクライナの親欧米政権に対してロシアは2014年2月下旬以降、軍事的な圧力を強めた。3月に入ると、ロシア系住民が6割を占めるクリミア半島にロシア軍が展開し、ロシアの実効支配の下でクリミア自治共和国議会がロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施、3月17日にはクリミア自治共和国代表とロシアの間でクリミアのロシア領編入条約を締結した。さらにウクライナ東部ではドネツク州とルガンスク州で独立を求める親ロ派勢力と政府軍の間で軍事紛争が勃発した。

一方、クリミアのロシア領への編入や、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州での親ロ派との軍事紛争の拡大と両州の自治共和国創立宣言などの動きに対して、EUは反発を強めており、2014年3月以降、米国などと歩調を合わせる形でロシアに対する制裁措置を相次いで発表した。制裁措置の内容は、

  1. ロシアおよび(ウクライナ東部での紛争を主導する)ウクライナ人の政治家等個人、企業に対する入国・交流の禁止、資産の凍結(制裁対象者は2014年末までに全体で132人と28団体)
  2. ガスプロム銀行、ロシア農業銀行、スベル銀行、VEB(ロシア開発対外経済銀行)、VTB(ロシア外国貿易銀行)、ロスネフチ(ロシア最大の石油会社)、ガスプロムネフチ(ロシア第5位の石油会社)、トランスネフチ(ロシア最大のパイプライン企業)に対する期間30日以上の新規証券取引または債務証券取引の禁止
  3. 軍用および軍用使用が可能な民生機器の貿易の禁止、深海石油開発および生産、北極海油田開発および生産、またはシェール石油プロジェクトに対するサービス提供の禁止
  4. EU域内企業のクリミア内の不動産や企業などへの投資の禁止(EU内の企業がクリミアでクルーズなどの観光サービスを提供することも含まれる)

などとなっている。

こうした欧米諸国などによる制裁措置の発動に対して、ロシアも激しく反発、2014年8月には、カナダ、オーストラリア、EU、ノルウェーおよび米国からの広範囲の食料品の輸入を1年間禁止する措置を発表した。

欧米のロシアに対する制裁は、ロシアの国営企業など制裁対象企業の資金調達や北海油田開発・シェール石油開発プロジェクトなどに影響を与えつつあり、折からの原油安の影響も加わってロシア経済に大きな影響を及ぼしている。一方、ロシアが対抗して導入した農産物・食料品の輸入禁止措置は、リトアニアなどロシアへの対象品目の輸出比率の高い国の経済に大きな影響を与えるとともに、ロシア向け輸出や投資の停滞、さらにはウクライナ経済への支援などを通じて、低成長に悩む欧州経済全般にも大きな重しとなることが懸念されている。

2.デフォルト危機にさらされるウクライナ経済

ウクライナ経済は2009年の経済危機からの回復が遅れており、欧州復興開発銀行(EBRD)によれば12年の実質国内総生産(GDP)成長率は2%と低迷し、13年にはマイナス0.5%の景気後退となった。13年の景気後退は、干ばつによる農産物生産の不振、対外経済環境の悪化による輸出の低迷、12年の議会選挙後の国内需要の停滞、欧州サッカー選手権(12年に開催)後の投資の大幅な減少などによる。さらに14年についても、ウィーン比較経済研究所(WIIW)によれば、東部地域での紛争の長期化などにより同国経済はマイナス8.0%の大幅な景気後退に陥るものと予測されている。

ウクライナの民間部門と公的部門の債務額は非常に大きく、そのほとんどが外貨建てで返済期限が短い。外部からの資金調達に対する需要は非常に大きいが、世界からの資金調達環境は悪化してきている。また外貨準備は大幅に減少しており、ウクライナの国際金融市場へのアクセスは実質上閉ざされた状態になっている。

2012年の議会選挙期間中に実施された公的部門の賃金引き上げの結果、同年の財政赤字のGDP比は5.3%に高まり、13年には7%を超える財政赤字が見込まれている。民間部門に対する銀行融資は政府の突然の政策金利の引き上げや、銀行の不良債権の拡大(13年6月現在19%と推定されている)によって抑制された。

2013年の輸出は485億4,600万ユーロ、輸入は590億1,700万ユーロで、104億7,100万ユーロの貿易赤字となった。主要貿易相手国(地域)はEUとロシアである。輸出ではEU向けが全体の26.5%、ロシア向けが23.8%、輸入では全体の35.1%がEUから、30.2%がロシアからとなっており、輸出入ともに全体の半分以上をEUとロシアに依存する構造になっている。このように、貿易関係ひとつとってみても、両国(地域)との経済的な相互依存関係は極めて大きく、ウクライナにとっては、いずれに偏っても経済に大きな影響を受けることは避けられないことは明らかである。ウクライナの輸出全体に占める商品別の構成をみると、付加価値の低い鉄鋼と化学品の割合が高いのが特徴となっている。

こうした中、2014年以降のウクライナ紛争はウクライナ経済に深刻な影響を与えており、ウクライナでは債務不履行(デフォルト)の危機がにわかに高まってきている。ウクライナの対外債務は銀行や民間企業を含めた総額で1,300億ドルを超えて、同国の国内総生産(GDP)の約75%に達し、外貨準備も輸入額の約2カ月分と底をつきかけている。

このため、IMFや欧米諸国が、ウクライナのデフォルトを回避するための緊急支援について協議した結果、2014年3月にはIMFがウクライナからの150億ドルの支援要請に対して暫定政権との間で協議を開始したのに引き続き、米国も10億ドルの債務保証を発表、EUも総額110億ユーロ規模の包括支援策を発表した。

EUの支援策は、①ウクライナの対外収支悪化に伴うデフォルト回避に向けた融資(約16億ユーロ)、②近隣国向け支援制度などを用いた経済開発支援の供与(約14億ユーロ)、③政策金融機関である欧州投資銀行(EIB)によるインフラ整備などへの融資(最大30億ユーロ)、④欧州復興開発銀行(EBRD)による経済構造改革向けの融資(80億ユーロ)、⑤ウクライナの輸送システムの近代化やガス供給支援、⑥FTAを含む連合協定の早期発効、などが柱となっている。

EUとウクライナの連合協定については、ウクライナのEU接近を警戒するロシアの圧力によって、ヤヌコビッチ政権(当時)は2013年11月に至って連合協定への署名を一時中止することを閣議決定した。その後ウクライナで親欧米暫定政権が成立したことにより、暫定政権は、14年3月21日にEUとの連合協定の政治条項に署名した。また、連合協定の経済条項については、同年5月の大統領選挙後の新政権にその取り扱いが委ねられることになり、新たに当選したポロシェンコ大統領が6月27日に連合協定の経済条項に署名した。連合協定の経済条項には「深化した包括的自由貿易協定」(Deep and Comprehensive Free Trade Area=DCFTA) が含まれている。

こうしてようやく連合協定への署名は終わったが、協定発効のためには締結国の議会での批准手続きが必要となる。ウクライナは14年9月に最高会議(議会)で連合協定を批准した。しかし、EUの場合は加盟国すべてで批准手続きが終わるまでに15年末までかかると見込まれている。このためEUはウクライナ支援のため、協定発効までの間、DCFTAに定められた関税引き下げを一方的に(片務的に)実施することになった。

表1  ウクライナの主要経済指標 (単位;%)

 

2009

2010

2011

2012
(推定)

2013
(予測)

GDP成長率

-14.8

4.1

5.2

0.2

-0.5

インフレ率(各年末)

12.3

9.1

4.5

-0.2

-0.1

財政収支のGDP比

-11.3

-9.5

-5.3

-5.3

-7.4

経常収支のGDP比

-1.5

-2.2

-6.3

-8.1

-8.0

純外国直接投資(100万ドル)

4,654

5,769

7,015

6,672

4,500

対外債務のGDP比

88.2

86.0

77.2

76.6

n.a.

総外貨準備高のGDP比

22.6

25.3

19.5

13.9

n.a.

民間部門に対する融資/GDP比

73.4

62.4

56.5

53.7

n.a.

(出所)EBRD(欧州復興開発銀行)

表2 ウクライナの対世界貿易の推移(2008~13年)

(出所)欧州委員会、Directorate-General for Trade

表3 ウクライナの主要相手国・地域別貿易(2013年)

(出所)欧州委員会、Directorate-General for Trade

表4 EUのウクライナとの貿易(商品グループ/HS分類別)(2013年)

3.DCFTAで期待されるEUとの貿易、投資の拡大

連合協定の中の経済条項であるDCFTAは全15章で構成されており、第1章 内国民待遇と製品の市場アクセス、第2章 貿易救済措置、第3章 貿易の技術的障壁、第4章 衛生と植物検疫のための措置、第5章 関税と貿易の円滑化、第6章 設立、サービス貿易および電子商取引、第7章 経常支払いと資本移動、第8章 公共調達、第9章 知的財産権、第10章 競争、第11章 貿易に関連するエネルギー、第12章 透明性、第13章 貿易と持続可能な発展、第14章 紛争の解決、第15章 調停メカニズムとなっている。

DCFTA各章のうち、主な章の内容をみると次のとおりとなっている。

第1章の「内国民待遇と製品の市場アクセス」は、輸入および輸出における関税の撤廃を定めており、協定の発効と同時に商品の広範な関税率が撤廃される。ウクライナとEUの関税撤廃率は貿易額のそれぞれ99.1%と98.1%となっている。

工業製品については、自由化スケジュールはほとんどの製品の現存する関税の即時撤廃を予定している。しかし、一部の品目、特にウクライナの場合の自動車部門など一部に移行期間が設けられている。一方、農産品については、穀物、豚肉、牛肉、家禽肉などのセンシティブ品目についてウクライナに無税の数量割当が認められており、他方、EUによる漸進的な関税の削減は長期的な移行期間(一般的に10年間)を設けて行われる。

関税の撤廃や削減は貿易の機会を増大させることが期待されている。すなわち、ウクライナの輸出業者はEUの輸入関税の引き下げにより年間4億8,700万ユーロの関税を節約でき、他方、ウクライナはEUからの輸入に対して3億9,100万ユーロの関税を撤廃することになる。特にウクライナは、EU向け主要輸出品である農産物についてはEUの関税削減により年間3億3,000万ユーロ、加工食品ついては同5,300万ユーロの利益を得ることになるとみられている。また、関税削減によるEUでの新しい市場機会やEU市場で要求される高い生産基準などが農業部門での投資を促し、ウクライナ農業の近代化を刺激するとともに、労働条件の改善をもたらすものと期待されている。

一方、財の非関税貿易障壁については、協定は、内国民待遇、輸入制限、輸出制限の禁止、国家貿易の原則など、WTOの非関税貿易障壁に関する基本的なルールを取り入れている。

第3章の「貿易の技術的障壁」は、貿易の技術的障壁(TBT)、すなわち、技術的な規則、基準、適合評価手続きなどから生じる貿易への障害を減らすことを目的としており、双方はTBTに関するWTO協定の下でのコミットメントを取り入れるとともに、技術的な要件を簡素化し、技術的要件に関する不必要な相違を避けるために、TBT問題で協力することに合意している。

第6章の「設立、サービス貿易および電子商取引」は、この分野でウクライナをできるだけEU市場に統合することを狙いとしている。すなわち、DCFTAは双方に対して、制限を少なくすることによりサービス部門および非サービス部門の設立の自由を定めており、ウクライナがEUの法体系(アキ)と調和した法体系を整えた場合には、金融サービス、電気通信サービス、郵便サービスおよび国際海洋サービス部門などに対して域内市場を開放することを規定している。これは先例のない統合のレベルをウクライナに認めたものとしてEUでは評価している。

第8章の「公共調達」では、ウクライナは今後数年かけて、現在および将来のEUの公共調達の規則を採択することにより、国防関連の調達を除き、ウクライナの供給業者やサービス・プロバイダーはEUの公共調達市場への完全なアクセス権を持つと規定している。この章は、非EEA(欧州経済領域)国のEU単一市場への統合という面で先例のないケースとされている。

第11章の「貿易に関連するエネルギー」は、ウクライナが、エネルギー憲章条約の締結国になっていることや、ウクライナがロシア産天然ガスのEUへの輸送の重要な中継地になっていることを考慮に入れて設けられたものである。ウクライナとのDCFTAは、EUが締結したFTAの中では、貿易に関連したエネルギー問題に関する特別な条項が盛り込まれた最初のFTAとなっている。この章は電力、原油および天然ガスを対象とし、エネルギー製品の価格設定、エネルギー製品のトランジットの妨害やトランジットからのエネルギー製品の抜き取りの禁止など4つのルールを規定している。

以上のように、DCFTAは関税撤廃等を内容とする自由貿易協定であると同時に、ウクライナにおける法規制等の諸々のルールをEUの法制度や諸基準に調和させていくことにより、ウクライナのEU域内市場への一層の経済的統合を図る内容となっている。ウクライナにとっては、この調和のために必要な諸改革が今後の重要な政策課題になるが、ウクライナの経済改革が進みEUアキ(EUの法体系)への調和が進展した場合には、EUなどからの投資の拡大に大きく寄与することが期待されている。

4.市場経済化の進展では中欧諸国の後塵

1991年のソ連崩壊後、旧ソ連邦を構成していた東欧の社会主義国は政治的には自由選挙や複数政党制などの民主化を進める一方、経済面では市場経済への移行を開始した。東欧の旧社会主義国でいち早く90年代の初期に市場経済への移行を開始したいわゆる移行先行国はハンガリー、チェコ、ポーランドなどの中欧諸国であり、これよりやや遅れて、ブルガリア、ルーマニアなどの東欧諸国の市場経済への移行が始まった。ウクライナの市場経済への移行が始まったのはこれよりさらに遅く90年代の後半になってからである。

中央計画経済から市場経済への移行国(移行経済国)における市場経済化に向けた改革の進展状況を毎年取りまとめている欧州復興開発銀行(EBRD)の「トランジション・レポート(市場経済移行報告書)」(2013年度版)によりこれら諸国の移行の進捗状況をみると、移行先行国や、国の規模が小さく市場経済化を進めやすかったバルト3国などでは、EBRDの移行指標(表5の注参照)でほぼ「先進工業国並み」に市場経済化が進んだ項目が多いのに対して、後発のウクライナでは特に企業統治や競争政策などの面での遅れが目立つ。

表5 国別の移行指標(2013年)

 

企業

国内販売および貿易

 

大規模企業の民営化

小規模企業の民営化

企業統治・企業改革

価格の自由化

貿易・外為制度

競争政策

ハンガリー

4

4+

4-

4↓

4↓

3+↓

ポーランド

4-

4+

4-

4+

4+

4-

スロバキア

4

4+

4-

4+

4↓

3+↓

ルーマニア

4-

4-

3-

4+

4+

3+

ブルガリア

4

4

3-

4+

4+

3

エストニア

4

4+

4-

4+

4+

4-

ラトビア

4-

4-

3+

4+

4+

4-

リトアニア

4

4+

3

4+

4+

4-

ウクライナ

3

4

2+

4

4

2+

注)表の移行指標の数値は、中央計画経済時代と比べてほとんど変化のない状態を「1」とし、先進工業国の基準に達した状態を「4+」として、移行の進展度合いをEBRDの専門家グループが数値化したもの。数字の右側の上下の矢印は前年より1ランク上がった(または下がった)ことを示す。
(出所)EBRD“Transition Report 2013”より作成

こうした市場経済化の遅れを反映して、ウクライナではビジネス環境の改善の遅れが指摘されている。世界の国々のビジネス環境については世銀と国際金融公社(IFC)がビジネス環境調査(Doing Business report)を実施して毎年ランク付けしているが、同調査ではウクライナはビジネス環境の改善が進んでいない国のひとつに挙げられている。

このためウクライナではビジネス環境の改善が喫緊の課題となっており、特に制度改革の推進や根強い汚職の撲滅が当面の優先課題になっている。また、政府の増税策が企業経営を圧迫しており、政府による企業への付加価値税の還付の遅れも指摘されている。

このため、政府は2012年末に、徴税効率の向上と課税管理の簡素化を図るため、課税と関税機関の責任官庁を、新たに創設した歳入・国税省に統合した。さらに13年には一連の汚職防止関連法を採択した。また、ヤヌコビッチ大統領(当時)は世銀のビジネス環境調査におけるウクライナのランキングを引き上げるというコミットメントを宣言した。そしてこのコミットメントに基づき政府は、企業の登記手続きの簡素化や電子課税システムの導入を含む各種の政策を実施するための法律を発効させた。

金融部門では、預金保証基金を2012年末に支払協会(pay-out institution)から本格的な銀行解散処理機関(bank resolution agency)に移し、13年1月には商業銀行会計の国際財務報告基準(IFRS=International Financial Reporting Standards)への移行を実施した。さらに、13年6月、議会は国際金融機関(IFIs=International Financial Institutions)に自国通貨フリヴニャ建て国債を発行することを許可する法律を採択し、中央銀行は国際金融機関によるフリヴニャ勘定の利用を自由化した。政府はまたプロジェクト関連の資金調達を容易にするために、プロジェクトに融資を行う国家開発銀行の創設を発表した。

こうした一連の改革が功を奏して、2014年版の世銀・国際金融公社(IFC)のビジネス環境調査(13年6月実施)においてウクライナは189カ国中112位と前年よりランクを28も上げ、さらに15年版調査(14年6月実施)ではウクライナ東部での軍事紛争が続く中にあっても189カ国中96位と16のランクアップを果たすなど、近年ウクライナのビジネス環境は大幅に改善してきている。しかし、こうした近年のビジネス環境の顕著な改善にもかかわらず、ウクライナのビジネス環境は依然として、欧州・中央アジア諸国の中ではポーランド(32位)、ベラルーシ(57位)、ロシア(62位)、モルドバ(63位)などの後塵を拝しており、同地域の平均(68位)をも下回る水準にとどまっている。15年版調査において特にランクの低かったビジネス環境指標は、電力調達(185位)、国境を越えた取引(154位)、破産処理(142位)、投資家保護(109位)、課税(108位)などであった。

表6 欧州・中央アジア地域におけるウクライナのビジネス環境の位置付け

国/地域

ビジネス環境ランク

ビジネス環境のDTFスコア(注)

ポーランド

 32

73.56

ベラルーシ

 57

68.26

地域平均(欧州・中央アジア)

 68

66.67

ロシア

 62

66.66

モルドバ

 63

66.60

カザフスタン

 77

64.59

ウクライナ

 96

61.52

キルギス共和国

102 

60.74

注)ランキングは2014年6月の調査時点における世界189カ国中の順位。DTFスコア(distance to frontier score)は、当該国における各ビジネス環境指標のベストパフォーマンス国からの差を表している。DTFスコアは0から100の間の数字で表され、0はパフォーマンスが最も悪い(ベストパフォーマンス国との差が最も大きい)ことを示し、100はトップパフォーマンスの状態であることを示す。
(出所)Doing Business 2015, Economy Profile 2015 Ukraine、World Bank Group

表7 ウクライナのビジネス環境指標別のランク(189カ国中のランク)(2014年)

ビジネス環境指標

ランク

ビジネスのスタート

 76

建設許可の取得

 70

電力の調達

185

不動産登記

 59

資金調達

 17

少数投資家の保護

109

課税支払

108

国境を越えた貿易

154

契約の履行

 43

破産処理

142

(出所)表6と同じ。

表8 ウクライナのビジネス環境指標別のDTFスコア(2014年)

ビジネス環境指標

DTFスコア(注)

ビジネスのスタート

87.35

建設許可の取得

75.29

電力の調達

32.65

不動産登記

74.82

資金調達

75.00

少数投資家の保護

48.33

課税支払

70.33

国境を越えた貿易

53.96

契約の履行

66.25

破産処理

31.17

(注)(出所)とも表6と同じ。

5.経済再建に不可欠な停戦の定着

前述の欧州復興開発銀行(EBRD)の「トランジション・レポート(市場経済移行報告書)」(2013年度版)は、今後、ウクライナ経済が持続的な回復を図るためには、政府による徹底的な制度改革の実施が必要と指摘している。

同報告書によると、天候の回復に伴う農業生産の回復、および農産物に対する高い対外需要によって、農業部門の成長が持続することが期待される一方、金融部門は2008~09年の金融危機の時期に積み上がった不良債権に引き続き苦しんでおり、自国通貨フリヴニャ建ての長期の貸付資金は引き続き限られている。金融部門では欧州全体の銀行が欧州債務危機で大きな変化の過程にあることから、ウクライナの銀行も対外金融市場へのアクセス能力がより限られたローカルのオーナーに取って代わられており、このことがウクライナの国際金融市場からの資金調達を困難にしている。また、鉄鋼などウクライナの伝統的な輸出品に対する外需は低迷しており、国内需要を刺激するための金融部門の能力も限られている。こうしたことから、今後ウクライナ経済が発展するためには、外国からの直接投資を積極的に誘致するとともに国内投資を活発にすることが不可欠になっており、そのためには、更なる経済構造改革や世界市場へのアクセス(特に連合協定の締結を通じたEUへのアクセス)を強化する必要があると同報告書は指摘している。

ちなみにOECDの投資統計によれば、2011年におけるOECD諸国のウクライナへの直接投資額(ストック)は全体で132億8,700万ドルとなっており、外国投資の受け入れがピークであった2007年(255億6,900万ドル)と比べるとほぼ半減している。11年の主要な投資国はドイツ31億6,200万ドル(全体の23.8%)、オーストリア19億6,700万ドル(同14.8%)、スイス18億4,900万ドル(同13.9%)、ポーランド10億5,500万ドル(同7.6%)となっており、この4カ国でOECD諸国からの投資全体の約6割を占めている。なお、日本からウクライナへの投資(フローベース)は2011年300万ドル、12年600万ドルとまだ極めて少ないが、15年2月に日本・ウクライナ間で投資後の内国民待遇や投資保護規定、投資紛争解決などを規定した投資協定が締結されたことから、今後の投資拡大によりウクライナ経済の改善に寄与することが期待されている。

表9 ウクライナのOECD(主要国)からの直接投資の受け入れ(ストック)(単位;100万ドル)

 

2007

2008

2009

2010

2011

2012

ドイツ

12,865

2,594

2,459

2,833

3,162

n.a

オーストリア

5,446

3,444

n.a.

2,834

1,967

2,275

スイス

1,059

685

1,098

1,386

1,849

2,320

ポーランド

899

657

747

1,310

1,055

1,091

OECD合計

25,569

13,433

9,820

13,178

13,287

10,886

(出所)OECD.Stat Extracts, Foreign Direct Investment Statisticsより作成

ウクライナ経済は、今回の紛争による軍事費の増大、東部地域の生産設備やインフラの破壊などで大きな打撃を受けており、今後の生産活動や経済構造改革にも大きな影を落とすことになるのは必至と思われる。当面の経済危機を回避するためのIMFからの支援は紛争の終結が前提となっており、また、経済再建のテコと期待される外国からの直接投資の拡大のためにも、最低限、紛争の早期終結が必要であろう。ウクライナの経済再建のために、そしてひいては欧州全体の政治・経済の安定化のために、一日も早い停戦の定着が望まれる。

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