2015/04/02 No.227被災地のSENDAIから新国際防災指針を発信~第3回国連防災世界会議の成果と感じたこと
山崎恭平
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
東日本大震災から4年後間もなくの3月14日から18 日まで被災地の仙台市で開催されていた第3回国連防災世界会議は、2030年までの国際防災方針として「仙台防災枠組」とその政治宣言を採択して閉会した。国連加盟国の殆どと関連する国際機関、それに関連イベントでは政府やNGO関係者、研究者、産業人、多くの一般市民を合わせて予想の3倍、延べ約15万人に及ぶ参加者を得て、世界は防災の主流化に合意し国際協力の新たな時代を迎えた。世界が持続的な発展を図る上で、日本では気象変動枠組条約における京都議定書、生物多様性条約における名古屋議定書、そして世界の防災における取組では神戸会議を継承する仙台会議が歴史的な成果を実現した。この成果は、9月の国連サミットで合意される新開発アジェンダと年内に合意を目指す新温室効果ガス削減取り決めに反映されることが期待されている。過去最大級の国際会議に被災者の一人として関連イベントのいくつかに参加し感銘を受けたので、地元マスコミの報道ぶりを中心に所感を含めて報告する。
1.「仙台防災枠組」2015-2030と「仙台防災協力イニシアティブ」
国連防災世界会議は、第1回が横浜市で1994年に、第2回が神戸市で2005年に開催されたのを受け、第3回は東日本大震災の被災地である仙台市で開催された。日本は災害大国であり防災先進国として世界会議の開催地に選ばれ、仙台会議は神戸会議の成果である「神戸行動枠組」を検証し気象変動や大規模災害の新しい課題を踏まえた新防災方針を策定する狙いであった。特に、開発における防災重視の「主流化」(mainstreaming of disaster risk reduction )を進め「ビルト・バック・ベター」(被災前より災害に強い復興を図る)のコンセプトでより実効を上げるべく、世界レベルの減災目標を設定する計画であった。)防災の主流化とは、国家や地域の開発計画に①防災を政策の優先課題とし、②あらゆる開発政策や計画に防災の視点を取り入れ、③予防策を含めて防災投資を拡大して、開発効果を最大化しつつ災害に強い経済社会の構築を目指す国際防災戦略の基本的概念で、日本のODAや海外災害支援の基本理念のひとつである。
減災目標は、①災害による死亡率、②被災者数、③経済損失、④医療や教育施設の被害、⑤防災戦略を持つ国の数、⑥発展途上国支援、⑦早期警報システムの7項目からなる。具体的な数値を設定することは発展途上国の抵抗が大きく実現しなかったが、各目標に大幅削減や大幅増加などと方向を示すことで合意し、神戸会議の成果より減災の目標が前進した。その背景には、2005年から14年の10年間に世界各地で大規模な自然災害が相次ぎ、それによる死者が70万人、被災者17億人、被害額は1兆4,000万ドル(約165兆円)に上る大きな被害を被ってきた現実がある(注1)。
被害はアジアを中心に発展途上国がより大きく、2国間レベルの防災供与額で世界全体の3分の2を支援してきた日本は、今後も国際的な協力の意向を示した(注2)。安倍総理大臣は会議の初日に「仙台防災協力イ二シアティブ」を発表し、今後の防災における国際協力の基本方針として①長期的視点に立った防災投資、②「より良い復興(Build Back Better)」、③中央政府と民間企業、NGO、CSO(市民社会組織)等の多様な主体(マルチ・ストック・ホルダー)との連携の3つの政策を重視し、防災協力の実施に当たっては①「人間の安全保障」のアプローチと女性の参画、②気象変動の影響への適応の観点を踏まえた協力、③日本の知見や技術の活用の3つの視点を念頭に置くと訴えた。
そして、具体的には(1)制度支援、人材育成等のソフト支援、(2)インフラを中心とするハード支援、そして(3)グローバルな協力と広域協力のために、2015年から18年の4年間に総額40億ドルを支援し、計4万人の人材を育成すると約束した。
2.多彩な市民参加フォーラム、経済界はILC誘致シンポも
メインの会議とは別に、多彩な一般向け公開行事のパブリック・フォーラムが開催され、内外の多くの市民が参画し防災意識を高めた。テーマ別のシンポジウムやセミナーは仙台市を中心に石巻市等他の宮城県都市、そして福島県、岩手県、青森県の被災地で開催され、件数は350を超えた。展示会も防災産業展をはじめ内外の関連機関、NGO等が200件以上開催され、ポスターや写真展示が100を数えた。イベント数が予想を上回る盛況ぶりからそれぞれに参加して成果を活用するには消化不良となり、これだけの行事は大変もったいないと感じた。仙台港近くの夢メッセみやぎで開催された「防災産業展in仙台」には160社・団体、消防庁、自衛隊や東北大学等産学官が640小間に防災製品や最先端の防災技術を展示、市内とはシャトル・バスのサービスが開設され、外国人来場者も多く見られた。また、中には開催前に参加者多数で締め切られたシンポやセミナーも少なくなく、参加者も防災の関係者、研究者、産業人だけでなく女性や被災者、学生、子供達を含めて多彩で、全体としてはかなりの盛況であったといえよう(注3)。
外国人の参加も目立った。国際都市を目指す学都仙台市内では、日ごろ留学生は目につくものの海外からの観光客はまだ少ない。会議中は、秋保や作並温泉の宿泊施設は期待外れであったが、市内のホテルやショッピング街が外国人参加者でかつてないにぎわいを見せた。また、太平洋沿岸の被災地を中心にバスのスタディ・ツアーが25系統ほど企画され、参加した外国人には震災の大きさを目の当たりにし、住民との交流もあって好評であったと地元の新聞報道等が伝えていた。震災遺構への見学ツアーを含めて、被災地が発信する防災ツーリズムの可能性を示す企画であったようである。
昨年訪日外国人観光客が1,300万人を超えて観光振興が話題になる中で、東北への訪問外国人はまだ全体の数%にとどまる。したがって、東北地方にとっても外国人観光客の誘致や観光振興が図られており、経済界の東北経済連合会は、パブリック・フォーラムで東北の観光振興と国際プロジェクトのILC(International Linear Collider)誘致のシンポジウムを企画した。参加者は300名の定員を超える盛況で、前者では大震災からの復興を機に今後の東北の観光振興策が議論され、後者では被災地東北の復興だけでなく日本の再生にとっても大いなる可能性をもつILC誘致の意義が議論され発信された。特に、後者の模様は、誘致の候補地を抱える岩手県の岩手日報紙がシンポ翌日の3月16日付けで詳しく紹介している。ILCプロジェクトとの国際的重要性については、東北と首都圏の国民レベル、メディア等で認識度のギャップが依然大きいと地元関係者は感じている。
3.原発事故の扱いや発信の仕方に批判も
今回の国際取り決めで大きな成果を上げた防災(disaster risk reduction)は自然災害を対象にしており、東電福島第1原発の事故は、技術災害として主な議題にはなっていない。しかし、地震と津波被害を受けたものであり、被害の大きさから見れば福島県を中心に深刻な放射能汚染の問題が残り、世界的にも初のケースである。被災者をはじめ外国からもこの問題に当然の関心を持つが、本会議での扱いや議論は十分ではなかった。今回の防災会議は全般的には主催地日本の貢献が高く評価されている一方、この問題は政府ができるだけ話題になるのを避けているのではないか、そしてまともには取り上げられなかったと、地元や外国からの参加者からは不満が寄せられている。
「福島原発の事故は、①何よりも大切な住民の安全安心な生活を脅かし、②開発においては新しい概念の 「人間の安全保障」を守らなければならないことと③これからのエネルギー政策で原子力発電をどう位置付けるかに大きな課題を発信した。
前政権トップの「原発事故は収束した」という表明、そして東京オリンピック誘致時における現政権トップの「放射能汚染はコントロールされている」との説明は、十分に説得力を持って受け入れられているとは言えない。事故当事者の東電だけでなく国家も国民に対する説明や情報開示が欠けており、この問題に対する本質的根本的な議論はできるだけ話題になるのを避けていると観察され、この姿勢が批判や不安の基にあると思われる(注4)。
昨年初め、仙台で観光庁主催の東北の観光振興に関するシンポが開催され、東北各県の知事も参加して活発な意見交換が行われた。議論のひとつは福島原発事故による放射能汚染の風評被害であったが、主催者はこれをなくすべく対外広報等の必要性に言及するのみで、事故後も続く除染の遅れや汚染水流出問題に対する対応に触れなかった。このような姿勢が被災地の住民には理解されず不満や不安を残し、その後も改善されていないと思われる。遅れている物理的な復旧復興はいずれ見届けられるが、放射能問題は目に見えず情報開示や説明不足では不安感が残り、特に福島県の避難民で「帰還難民」と言われる人々の多くが感じているものである。政府は原発の再稼働や海外へのプラント輸出を進めようとしているが、そのためにこそ福島原発の事故から学んでリスクにはきちっと真摯に向き合い、人々に安心安全の発信を図るのが王道というべきであろう。
政府機関が主催する被災地の復旧復興を進める事例の紹介で、成功例を10例ほど各10分程度で紹介するフォーラムがあった。聞いていて感じたのはきれいごとに過ぎるきらいがあり、日本では可能であったが海外にはあまり参考にはならないとの指摘があった。海外、特に動員できる資源に制約がある発展途上国では、日本の成功例よりもむしろ失敗例がその原因糾明を含めて役立つことが少なくなく、現地からも共に学んで防災を共有できないかといった問題提起があった。海外協力を進める際には、支援する側も押し付ける姿勢ではなく謙虚に現地と協働する在り方を示唆され、まともな議論で心すべきと参考になった。
4.防災を知り日ごろから備える
会議期間中、仙台市役所の広場や隣接の勾当台公園では、地震の体験や防災体験の催しが併設された。防災教育のフォーラムでは、学校教育での教科化や様々な試みが紹介され、海外にも発信された。災害は避けられず、防災減災のためには災害を知り、日ごろから備える必要がある。
仙台会議では、この当たり前のことを様々な形で内外に発信できたのではないかと思われる。日本では南海トラフ地震や首都直下地震が発生すれば東日本大震災以上の被害が想定されるので、今から防災減災に備える必要がある。仙台会議の成果は今後各国の実施に移されるが、隔年ごとに国際フォーラムが開催され、フォローアップが行われる予定である。また、今年9月の国連サミットで決定される運びの新開発アジェンダ、そして年末までに策定が図られる地球温暖化対策の温室効果ガス削減目標にどのように反映されるのか注目される。不備が指摘されてきた災害に関する統計整備については、防災科学国際研究所を立ち上げた東北大学にUNDP(国連開発計画)と連携し災害統計グローバル・センターが併設されることになった。
注
1. UNISDR(国連防災戦略)による。災害には台風、洪水等気象変動に起因するものを含み、件数の多い順位に①中国、②米国、③フィリピン、④インド、⑤インドネシア、⑥ベトナム、⑦アフガニスタン、⑧メキシコ、⑨日本、⑩パキスタンと、アジアが多い。
2. 東日本大震災で日本赤十字に寄せられた外国からの義援金は、2012年末までに179カ国・地域、227億円に及んだが、外国は欧米諸国や中国、台湾、韓国、インド、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、シンガポール等アジア諸国を中心に世界にまたがり、アフガニスタン、東ティモール等30の重債務最貧国からも義援金が寄せられた。日本のODAや過去の災害支援の実績ゆえに、義援金を送ってきた国・地域の広がりが見られたと考えられる。
3. 阪神淡路大震災の際には「ボランティア元年」と言われたようにボランティアの活躍が目立った。東日本大震災の際にはさらに活発となり、企業や他の自治体が社員や職員を派遣するようになった。大学が教育の一環として学生を送るケースも増え、「学都仙台コンソーシアム」圏内21大学・短大でボランティア養成講座や災害復興学のカリキュラムを組んだ。そして、話題となった防災における女性の活躍だけでなく、町内会やコミュニティの重要性、マスコミは報道の在り方、心のケアでは宗教界の役割等も問われることになり、防災技術展における企業や産業界を含めてマルチ・ステイク・ホルダー(多様な主体)がそれぞれフォーラムで議論を行い、問題意識を共有し、提言等を行った。過去に例がない成果で、世界会議仙台開催実行委員会がまとめネット配信される予定の報告書が期待される。
4. 本会議ではなく関連事業としての一般人向けパブリック・フォーラムでは、いくつか原発関連のテーマが取り上げられた。例えば、3月17日には福島市で国連防災会議関連事業in福島として「原発事故の克服に向けて」とのワークショップが開催され、内外から300人の参加を得て、①被災者の生活再生を実現し、人間の尊厳を取り戻すことを復興再生の最重要課題とする、②誰でもアクセスしやすい透明性の高い情報プラットフォームの構築、③生活再建やふるさと復興再生に対する合意形成システムを構築する との「ふくしま行動宣言」をまとめている。また、16日には仙台シルバーセンターで東北大学主催により「IT環境、原発災害と防災」に関するシンポが開催され、福島医大主催の「原発事故への福島医大の対応と県民の健康」のテーマのセミナー等が行われた。
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