一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2017/05/17 No.335漂流する21世紀の社会主義〜ベネズエラの現状と今後の展望〜

林哲三郎

本稿は、中南米情勢に詳しい経済アナリストの林 哲三郎氏を招き、3月28日にITIで行った講演会の発表要旨をまとめたものです。(文責:大木博巳ITI事務局長)

石油発見で一変したベネズエラ経済

20世紀初頭までのベネズエラは、コーヒーとかカカオなどの農産物を輸出して外貨を稼ぐという典型的な農業国だった。所得水準でいくと、ブラジルと同じぐらい、アルゼンチンあるいはメキシコを大きく下回っていました。

ところが、1913年に石油が発見されて状況が一変する。1926年には、世界最大の原油輸出国となり、1969年までその地位を保ちました。とりわけ1946年から1967年にかけ、原油の生産量は3倍に増加、それに伴い所得水準も急上昇しました。1950年代には所得水準でアルゼンチンをしのぎ、南米で最も豊かな国になりました。ちなみに1950年時点の一人当たりGDPは、アメリカ、スイス、ニュージーランドに次ぐ第4位でした。1960年にはサウジアラビアと共にOPEC結成のイニシアティブを取り、世界の石油ビジネスにおいて大きな影響力を保持していました。

1970年代には2度のオイルショックによる原油価格の高騰で巨額の原油収入を得て、独立以降最も豊かな繁栄期を迎えました。潤沢な石油収入を背景に、近隣諸国への援助を行い、世銀や米州開発銀行などに巨額の拠出金を提供しました。

ちなみに、ジェトロのカラカス事務所が設置されたのが1955年、ジェトロが設置された翌年です。ジェトロの海外事務所としては、ニューヨーク、サンフランシスコ、バンコク、カラチに次いで5番目に設置されており、当時のベネズエラは日本にとっても重要な国だったことが推察されます。

ベネズエラの黄金時代、そして躓き

2014年時点で南米の高層ビルトップ10の実に4割をカラカスが占めています。豊かなオイルマネーを使って建てた近代的な高層ビルは過去の遺産であり、豊かさの名残です。高速道路も、アメリカに次いで早くから整備されました。実は1964年の東京オリンピックを機に構想された首都高建設の参考のためとして、日本から調査団がカラカスを訪れています。

1970年代には、ベネズエラは黄金時代を築きましたが、1980年代に入ると、経済不安定化時代に入っていきます。そのきっかけは、対外債務問題です。ベネズエラ政府は、1970年代に石油だけに頼ってはだめということで、石油産業以外の産業を育成しようと、1976年から始まる第五次5カ年計画で、石油化学工業、鉄鋼、電力などの大型プロジェクトを進めました。ところが、内外のインフレにより総投資額が予想以上に膨らみ、また、その後の石油輸出量の減少などにより石油収入が伸びず、開発資金不足が生じ、それを補填するために対外債務が膨らんでいきました。1982年以降の原油価格下落の追い打ちを受け、1983年には対外債務危機に陥りました。

21世型社会主義の誕生

ベネズエラは1980年からチャベスが政権を取る1999年まで、年次ベースの経済成長率がマイナスを記録した年が7回あります。それ以後、2016年までに8回ありますので、1980年から2016年までにマイナス成長を15回経験したことになります。ベネズエラ経済の軌跡は財政の引き締めと緩和を繰り返した結果、浮き沈みが非常にはっきりしたものとなっています。

現在のベネズエラ経済は非常に厳しい状況にありますが、では、チャベス政権以前は良かったのかと言うと、必ずしもそうではなかったことがお分かりいただけたと思います。

経済が浮き沈みを続ける中で、政治指導者の腐敗が発覚、富裕層主導の政権が国民の6割を占めていた貧困層への対策を軽視したことから、国民の既存政党への不満が非常に高まり、貧困層対策強化を訴えたチャベスが1998年の選挙で圧勝しました。チャベスは、「中南米をアメリカの影響力と新自由主義から解放する」と宣言し、アメリカと対立関係にあるキューバ、イラン、ロシア、中国などとの関係を強化しました。ちなみに、カラカスには北朝鮮の大使館もあります。また、経済政策面では、「21世紀型社会主義」を標榜し、経済に対する政府の介入を強め、市場メカニズムを無視し、経済合理性を欠く為替管理、価格統制、労働者の解雇禁止、貧困層向け社会支出の拡大、外資を含む民間企業の接収・国有化といった政策を推進しました。貧困層向けの支援策の具体例としては、住宅の無償貸与や高等教育を含む教育の無償化などが挙げられます。ちなみに「21世紀型社会主義」はドイツのハインツ・ディーテリヒという人が1996年に言い始めた言葉です。彼によれば、「産業資本主義」も「社会主義国の社会主義」も貧困、飢餓、搾取、経済的抑圧、性差別、天然資源の浪費や参加型民主主義の不在といった人類の課題を真剣に解決しようとしてこなかった。マルクスの労働価値説を基に、市場経済原理ではなく、生産に携わる労働者の直接民主制による経済政策を押し進めるべきであると主張しています。

幸運に恵まれたチャベス

チャベスという人は、ある種非常に、運がいい人でした。彼の政権が始まる前の原油価格は、バレル20ドルを切っていましたが、政権を取った後は、ほぼ右肩上がりに原油価格が上がっていき、高いときでは、145ドルぐらいまで上がり、ばらまきの原資に困ることはなかった。彼がやったばらまき政策のボロが出ずに済んだのは、ひたすらこの原油価格が右肩上がりに上がったという幸運のおかげであったと言えます。

しかし、チャベスが為替管理と価格統制を強めたことにより、物不足とインフレ、闇市場が跋扈する状況を生み出しました。とりわけ、過大評価された固定相場制の下で、為替は、公定レートのほかに、並行レート、分かりやすく言うと闇レートが横行する状況を生みました。この二つのレートの間には、当然、乖離が生じます。そして、この乖離は、マドゥーロ政権になって、さらにひどくなっています。今年の3月2日現在で見ると、公定レートと並行レートのレート差は何と433倍に拡大しています。とんでもない乖離幅になっているのです。中南米諸国は歴史的に見て、他地域に比べ、インフレに悩まされてきましたが、中でも、ベネズエラのインフレが際立っています。

チャベスの経済政策

チャベス時代に、政府による内・外資の民間企業接収・国有化が行われましたが、その数はだいたい1,200件ぐらいです。接収・国有化された企業は、例外なく、経営効率と生産性を落とし、その結果、国全体としても供給力の低下というマイナスをもたらしました。ところで、外資接収の補償をめぐっては、世銀の傘下にある国際投資紛争解決センターに持ち込まれることが多いのですが、同センターが抱える199件案件中、ベネズエラ政府が被告となっている案件は26件あって、国別ではトップです。当然のことながら外資のベネズエラに対する意識や評価を悪化させました。

先ほども触れましたが、市場メカニズムを無視した為替政策、価格統制、あるいは企業接収が経済を非常に歪めました。また、労働者の解雇禁止は労働者の勤労モラルを非常に低下させ、生産活動を停滞させました。加えて、成長戦略を欠く貧困層向けの社会支出の拡大は、結局石油で得た国富を減少させただけで、いわゆる経済の足腰を強めるというところには全く使われませんでした。接収が続く中で、外資のベネズエラ離れもどんどん進んでいきました。

最近のアジアの発展を見ても、外資をいかにうまく活用するかが重要なポイントになってくるわけですが、ベネズエラ政府はまさに真逆の外資が逃げていくようなことをやってしまったということです。

チャベス路線を踏襲するマドゥーロ大統領

前述のとおり、チャベスの負の遺産というのは明らかだったわけですが、マドゥーロ大統領は、その負の遺産をそのまま引き継ぎ、しかも全然その政策を変えようとしなかった。

多くの不正選挙工作が指摘される中、薄氷を踏む僅差でやっと大統領選に勝利したマドゥーロにはその政権発足当初からその正当性に大きな疑問符が付きつけられました。まして、カリスマとリーダーシップに欠けるマドゥーロにとっては、チャベスに後継指名されたことだけが、彼の正当性の根拠でした。そのため、チャベスを神格化し、彼がやったことをとにかく踏襲していく以外のことは全くやらなかったのです。

現在、様々な経済上の問題が噴出していますが、マドゥーロ大統領が国民にその原因をどう説明をしているかというと、モノ不足やインフレの原因は貪欲な資本家・企業経営者が仕掛けている経済戦争にある。この経済戦争の背後には、アメリカがいて、貪欲な資本家とか経営者が売り惜しみをしたり、買い占めをしたり、あるいは勝手に値段を引き上げたりするからインフレやモノ不足になるのだ。経営者が不当な利益を得るために、高い値段を付けるから物価が上がっているのだと。さすがに政府のこうした説明を信じる人もだんだんいなくなってきていますが、にもかかわらず、政府は相変わらずこういうことをまことしやかに主張するだけで、本質なところには一切メスを入れず、ひたすらチャベスがやったことを続けている。当然のことながら、油の値段が下がる中で経済状態が一層悪化する事態になっています。

ベネズエラの原油生産量の低下

チャベスの時代は原油価格が右肩上がりで上昇しましたが、マドゥーロ政権になってからは、右肩下がりになった。2014年6月時点で原油価格はバレル115ドル、これはWTIの価格ですので、ベネズエラの超重質油はもっと値段が安い。これが2016年には、バレル21.5ドルと、だいたい5分の1ぐらいになってしまった。ベネズエラの外貨の96%を石油が稼いでいる。それで、1バレル1ドル値段が下がると、石油収入は、年間で6億ドルから7億ドルぐらい減少するとされているので、この原油価格の大幅な下落は、ベネズエラ経済に当然のことながら、大ショックを与えています。

実は、価格の減少だけでなく、ベネズエラの原油生産量そのものも落ちてきています。2014年時点で、日量236万バレルあったものが、2016年6月時点では、209万バレルに低下、20数万バレルほど日量で落ちてきており、価格・量両面から石油収入を押し下げていることが分かります。

生産量の低下が何故起きたかというと、原油の生産量を維持するには、枯渇する油田の生産を補うために常に新しい油田を採掘し続けなければなりませんし、製油所のメンテも必要です。ところが、これらに十分な投資を行ってこなかったことが響いているのです。

無策のインフレ対策、価格統制に走る

外貨不足と通貨供給力の拡大で、足元は、ハイパーインフレと言っても良い状況に陥っています。ハイパーインフレの定義は、1カ月当たりのインフレ率が50%以上ということのようで、政府の経済統計の公表が2016年からストップしているため、IMFなどの推定値に頼るしかありませんが、ハイパーインフレに近いインフレを今経験しているようです。

インフレというのは、経済学的に言うと、通貨供給量で説明できるようですが、1999年に、チャベスが政権を取った当初から2016年までの通貨供給量の推移を見ると、300倍ぐらい通貨供給量が増えています。紙幣を刷りまくっている。ゴルフに行くにも、もう袋いっぱいお金を持っていかないといけない。とてももう通貨の役割を果たしていないというのが現状です。

では、インフレ対策として何をやっているかというと、有効な手立てを何もしていない。政権は、貪欲な資本家とか経営者が値段をつり上げるからインフレになるというロジックを振りまわし、価格を抑え込むことこそ正しい対策と主張、公正価格法という法律に基づき、かなり多くの品目について統制価格を敷いています。生産者は、国際水準と比較し、あまりにも低い価格を押し付けられ、採算が取れない。結果、生産の意欲がわかない。場合によっては、廃業してしまう。では、安い価格で得られた物資が適正に供給されているかというと、そうではないのです。第三国へ持っていき、転売すれば、大きな利益が生まれるわけですから、密輸に回る。あるいは、限られた量しか供給されないために、買い物に並んだけれども購入出来なかった人が、道端で統制価格の数十倍で売られている転売品を買わざるを得ない。結局は、インフレを抑え込むことが全くできていないどころか、モノ不足を悪化させる状況を生んで、ますますインフレを加速する結果になっているのです。

統制価格品の購入ということになると、これは、曜日ごとに割り当てられたIDナンバーを保有している人だけが買えるということで、店頭に並ぶ人の行列が、街中の至るところで見られます。この行列に並ぶのに、相当な時間を皆さん、使っています。だから、国民経済的に見ると、大変なマイナス。こういうことが毎日毎日毎日起きています。

インフレ対策のその2は、賃金改定です。マドゥーロ政権下で、実は最低賃金の改定を頻繁に行っています。今年に入って3月にも改定をしていますので、マドゥーロが大統領に就任した2013年4月以降、計15回行っています。最低賃金プラス無償で買える食糧チケットを配ります。これと併せて生活をしていくということです。ベネズエラの月最低賃金は、1982年の2,162ドルから、2015年には8ドル。2017年では10ドルぐらい、並行レートでドル換算すると極めて低いのです。賃金改定はインフレの速度に全く追いついていないのが実情です。


「ベネズエラには何にもない」

モノ不足は深刻です。特に食料、医薬、日用品などモノ不足が常態化しています。

抗議デモで見かけたおばさんの掲げていたプラカードには、「ベネズエラには何にもない」と書かれていました。

結局、何もないため、物がある所から盗むという略奪行為が起きています。動物園の肉食獣は、肉が不足し、与えられるのはマンゴーだけというひどい状況になっており、痩せ細っています。それから、昨年8月半ばにコロンビアとの国境を1年ぐらい閉めていたものを、5日ぐらい開けたところ、最初の2日だけでなんと16万人のベネズエラ人が国境を越えて買い物に走った。5日間でその数は32〜33万人に達したとされています。

かつては、南米有数の豊かさを誇ったベネズエラに、コロンビアから職を求めてどんどん入り込み、その数は400万人に達したと言われていました。今や、もう買い物も自国内では満足に出来ないという状況になり、人の流れは逆流して、国を離れる人の数も増えています。

非常に深刻なのは、医薬品と医療機器の不足です。注射針がない、降圧剤がない、抗生物質がない、医療機器も補修部品もない。しかし、医療機器が非常に危機的な状況にあるということを、政府は全然認めず、海外からの医療援助というのをひたすら断ってきました。しかし、さすがのマドゥーロ大統領もこの3月、ようやく、国連に対して、医薬品の人道援助を求めるとの声明を出しました。ベネズエラ医薬品連盟の発表によると、必要な医薬品のわずか5%ぐらいしか供給できていないという相当危機的な状況になっているようです。それから、医師も給与や勤務環境が非常に悪いため、この2〜3年で、2万人近い数が国外に流出しています。人材面でも、物質、ハード面でも、非常に危機的な状況に陥っていると言えます。

2016年7月、エル・ナシオナル紙が国内86の大手病院に対し実施したアンケート調査によれば、医薬品の不足率が76%、手術用の機材が81%不足、カテーテルも87%不足、ベッドはほとんど稼働していない。水も十分供給できていない。手術室も満足に使えていないと言ったひどい状況が明らかになっています。

治安の悪化と政権の支持率低下

治安は非常に悪い。10万人当たりの殺人件数は、1998年の20件から、2015年には90件と、殺人件数が右肩上がりにある。治安が改善しない大きな要因は、一つは、やはり貧困。二つ目は、銃器、麻薬がまん延しているためです。三つ目は、警察の待遇が非常に悪い。だから、命を張ってまで守らない。場合によっては犯罪グループと手を握ることすらあります。

2014年上半期に実はこうした、経済もひどいし、治安もひどいし、人権も十分に守られていないということで、これは学生のデモから始まったわけですが、2014年の2月から約半年、全国で反政府デモが吹き荒れました。この間、43名も死者が出ました。このときに、野党陣営のリーダーや学生が逮捕、いまだに刑務所に収監されています。その代表格が、大衆意志党という急進右派政党のリーダー、レオポルド・ロペス(Leopoldo Lopez)で、満足な裁判もなしに実刑14年を受け、現在、軍の刑務所に収監されています。

マドゥーロ大統領の支持率ですが、就任当初の50%から、直近では20%を切っています。マドゥーロの不支持率とインフレ率がシンクロしており、経済状況の悪化とともにマドゥーロの支持率が落ちてきていることは明らかです。そして、そういった不満が、ついに2015年12月6日の国会議員選挙の結果に表れたということで、野党連合が地すべり的な勝利を得て、167議席中112議席を抑えました。

最高裁を支配して政権維持、国民に広がる無力感

この国会議員選挙ですが、ベネズエラの場合は一院制です。普通の民主国家であれば、国会を押さえたということは非常に大きな意味を持ちます。現に憲法上は、大きな力を付与しています。大臣の罷免も可能なこの112議席というのは、スーパーマジョリティとも呼ばれています。しかし、政権側が何をしたかというと、最高裁を使って、野党側の3名については選挙違反があったとして、当選を無効にした。スーパーマジョリティの状況を力づくで解消したのです。当然国会を野党側が握るわけですから、いろんな立法、法律を出してきますが、これもことごとく全て最高裁を使って憲法違反だとして潰す。せっかく野党側が国会を制圧しても、実際には何事も変わらないという状況となり、変化を求めて投票したのに何も変わらないという無力感が、野党側は当然ですが、国民の間にもどんどん広がっています。

実は、国民の80%以上は、マドゥーロ大統領の罷免を支持しています。国民の支持を背景に昨年の4月あたりから、マドゥーロ大統領罷免に向けた動きを野党連合が始めました。大統領を直接投票で罷免できるという仕組みをつくったのは、実はチャベスです。チャベスいわく、1992年に自分はクーデターを試み、失敗した。民主的に大統領を罷免できる仕組みがあれば、自分は間違いなくそれを利用しただろう。自分はまさに民主的に、大統領を罷免できる仕組みをつくるんだということで、実はチャベスがこの仕組みをつくったのです。憲法上もこれが認められているわけです。

野党連合は、国民の支持をバックに、この大統領罷免に向けた動きを始めますが、今度は全国選挙評議会というところを使って、いわゆる手続きの不備をあげつらい、手続きをどんどん遅らせ、結局昨年の10月には、年内の大統領罷免投票というのは、もうできないことにさせた。年内に出来ないということは、どういうことかというと、年内に罷免投票をやって、罷免可能な得票以上のものが得られれば、大統領選挙に持ち込んで、野党陣営が擁立する候補を大統領に据えることが出来る。マドゥーロ大統領の残りの任期を別の大統領に変えられる。ところが、2016年内、もっと正確に言うと、今年の1月10日までに罷免投票が行われないと、どうなるかというと、仮にそれ以降にこの大統領罷免投票をやって、うまくいったとしても、大統領選挙は行われず、残りの任期を副大統領が埋めるというだけの話になってしまうのです。

これからどうなるか

最後に、これからどうなるか?論点を二つに絞って話をしたいと思います。第1は、「デフォルトはあるか」、もう一つは「マドゥーロ政権は任期を全うできるか」。

デフォルトを見る場合には、対外債務残高がどのぐらいあって、その償還スケジュールはどうなっているかというのを、まず押さえる必要があります。この対外債務残高の推移をみると、2000年に入り、右肩上がりで上がっている。特に、2007年から12年までの間に対外負債が急増している。公的部門では借り入れ、中長期債の債務が拡大している。そして、全体の債務総額でいくと、1,389億ドルまで積み上がっている。

外貨準備は、チャベス政権末期の2012年12月末時点で295億ドルぐらいありました。このうち7〜8割は金でした。これが、2016年の11月に、108億ドルに落ち込んでいます。2017年の2月時点では、104億ドルです。

ベネズエラ国債とPDVSA(ベネズエラ国営石油公社)債の償還スケジュールは、ここ数年、厳しい状況が続いています。だいたい、100億ドル近い数字です。2016年はこの利息分と元本払い含めて返済額は98億ドル、2017年は100億ドルちょっとあまり変わっていません。2017年の返済の山場は、4月(30億ドル弱)にありました。次の山が、今年の10月あるいは11月ということで、合わせて30億ドルぐらいあります。これが乗り切れるかどうか。デフォルトの回避策は、外貨の入りをいかに大きく、出をいかに小さくするかの2つです。

政府がやっている主な入りの方策は、石油産油国に対する減産の働き掛け、新たな融資の獲得。ベネズエラはロシアから、昨年末、約15億ドルの新規融資を得たという情報が最近入ってきました。それから、インドからも今年は借り入れができるだろうという話も伝わってきています。いよいよ駄目なら、海外に保有する資産も売却すればという話です。

一方、出を抑える主な方策は、中国への返済がカギを握っています。中国は、ベネズエラにおいて、非常に大きなプレゼンスを持っています。中南米全体で、中国が融資、投資している金額は、1,200億ドルぐらいありますが、その半分がベネズエラ1国で占められています。ほとんどのその返済は、原油でもって返済をしています。現物です。現物返済のスケジュールを調整すれば楽にはなります。

結論から言うと、債務返済額は、2016年とあまり変わらない中、資金調達面では原油価格が少し上向きになっていること、ロシアからの借り入れが確保でき、インドからも借り入れができれば、何とかこの2017年については、しのげるのではないかとみています。もちろん、必要物資を含め、引き続き輸入を極力抑える必要があり、国民の生活に大きなしわ寄せがいくことを覚悟せねばなりません。

マドゥーロ政権は任期を全うする可能性が高い

それから、政治のほうはどうか。マドゥーロ政権は、この2019年の初旬までの任期を全うできるだろうかということですが、考慮しなければならない要因は、1番目は経済動向。ベネズエラの場合、圧倒的に石油に頼っていますので、原油価格の値段がどうなるかという点。経済運営については、先ほど言いましたように、全く核心に迫るような政策を打つ気はないので、これは全く期待できない。

第2が政府与党の結束力。結束力については非常に強いと思います。政治力はどうかというと、実は、国会は野党側に握られましたけども、残りの権力全てを政府与党側が握っています。つまり、司法、行政、それから警察権力、国軍、軍隊ですね。それから、マスメディアも、全て握っている。立法も最高裁を使って無力化することに成功しており、野党側を封印できる。全ての力を依然持っているということです。

第3に野党陣営の結束と政治力ですが、野党陣営というのは、30ぐらいの政党の寄せ集めで、結束力がもともと非常に弱い、そして、政権側から国会の無力化攻撃を受け、閉塞状況にある中で、ますます結束が弱まっている。政治力というのは、本来は国会を握っていれば相当な政治力を発揮できるのですが、政権側が最高裁を使ってことごとく野党が繰り出す立法を握りつぶしており、これも期待できないというのは痛いところです。

第4は、軍隊。軍隊はどうかというと、本来は中立であるべき軍隊に対して、マドゥーロ大統領は、細心の注意を払っています。軍の取り込みに非常に腐心している。全閣僚ポスト40のうちの13ポストを軍関係者に与えています。しかも、利権に絡む重要なポストに当てています。特に食料の供給は、ほとんど国軍が牛耳っています。それから、州知事ポスト。23州中与党知事が20州を占めています。このうちの10名が軍出身者。それから、利権の絡む重要ビジネス・ポストにも軍の出身者を置いています。給与の見直しとか物資の配給、それからいろんなローンですね。自動車ローンとかいうのも、軍人が優先されています。それから、国軍のポストも乱発しているということで、今や、政権と一体化しているような状況なので、国軍の離反というのはなかなか考えづらい。

残りの要素は国際社会の関与ということですが、アメリカ、ヨーロッパの国々が政府の民衆への人権侵害はひどいというような批判をしていますが、何ら有効な策は打てていない。

以上を踏まえ、今後を見通せば、経済が余程悪化しない限りは、マドゥーロ政権が狡猾にあらゆる権力を動員して任期を全うする可能性が高いとみています。

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