一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2017/09/08 No.350ベトナム中部の要衝ダナン、ITソフトと観光に勢いITIアジアサプライチェーン研究会報告(5)

春日尚雄
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
福井県立大学地域経済研究所 教授

ダナンはハノイから800km、ホーチミンからは850kmと南北に細長いベトナムの中心に位置している。文化的、歴史的にも南北とは異なるベトナム中部地域の中核都市である。ダナンの人口は、周辺部を入れても100万人ほどで、ハノイやホーチミンと比較すると大きな経済圏とは言えない。

初めてダナン空港に降り立った人であれば、この地はリゾート観光開発を積極的に進めているという印象を間違いなく持つ。東京からもダナン直行便が2014年7月から就航しているが、韓国からは毎日10便を超えている。韓国ではダナンブームが起きているようである。

ITIアジアサプライチェーン研究会(公益財団法人JKA補助事業)メンバーでITI客員研究員の春日 尚雄 福井県立大学地域経済研究所教授にダナン市が進める経済開発について聞いた。(聞き手 ITI事務局長 大木博巳 )

‐ダナンには2000年代から度々視察されているとのことですが

私が初めてダナンを訪れたのは2000年代前半で、それから数度、日系企業、ビジネス環境などの調査をしたことがあります。ダナン市の人民委員会で話を聞くことも何回かありました。はじめは、日系が経営する小規模な工業団地があり、ある程度の規模の企業としては、その頃、マブチモーターが進出したばかりでした。

一方、観光業については国際資本のフラマリゾートが進出したことでブームになることは予想されていましたので、観光業と製造業どちらに力を入れるのかと尋ねると「両方やりたい」と答えられて戸惑ったことを覚えています。その時点ではダナン市としてのマスタープランはないようでした。

‐今回の訪問で驚いたことは

今回(8月中旬)の訪問は、3年ぶりでしたが、特に市街地から東側に位置するファムヴァンドンビーチでは前回にもまして国際資本によるホテル開発がおこなわれており、中国資本のカジノホテルを含めて立錐の余地なく工事が進行しているのには驚きました。また至る所に観光客(特に韓国人)が多いのが目立ちました。一方で、大規模な工業団地造成も計画に沿って積極的におこなっているのが私にとっては意外でした。

数年前建設された瀟洒な高層ビルとなった楕円型のダナン市庁舎は、ダナンのシンボルとして、そびえたっています。そこの18階にある投資促進委員会のジャパンデスクも、日本人の駐在員は不在でしたが、突然の訪問にもかかわらず、テキパキとした対応に感心しました。

出来の良い日本語パンフレットがあり、ベトナム人スタッフからダナン市の2030年から2050年に掛けての長期プランの説明を受けることができました。基本的には観光業の振興と共に、特に日本からは直接投資を誘致するための工業団地、ハイテクパーク、新港湾計画など、従来のダナンからは想像を超える規模の開発がおこなわれているという内容でした。

‐ダナン進出日系企業は200社を超えているようです

ダナン日本商工会には2017年現在で115社が加入しており、未加入を含めると200社程度がダナンに来ており、居住している日本人は350名程度のようです。

工業団地への日系企業進出は、市内から北西のホアカイン工業団地に、2006年にマブチモーターダナンが進出しています。マブチ社はホーチミン・ビエンホア工業団地にて、1997年から操業していましたが、ベトナム国内の分工場の設立に際して人件費の比較的安いダナンを選択したとされます。ただ最盛期6000人いた従業員は1/3程度に減少しているとのことで、これはダナンにおける人件費高騰にともない省力化投資をおこなった結果のようです。

かつて進出企業の少なかったホアカイン工業団地も、現在では拡張された地区での入居企業が増えています。ここではマレーシアのタンチョン・モーターと日産自動車が共同運営しているTCIE Vietnamが、日産サニーを生産(組み立て)しています。

ホアカイン工業団地には、山側にダナン・ハイテクパークが造成され、大規模に開発されています。日系では東京計器が入居しており、油圧機器を生産しているとのことです。

市内南のホアカム工業団地には、藤倉電線、フォスター電機などが進出し自動車部品、音響製品などを生産しています。

‐ダナンには、日系ICT企業が多く進出しています。

ダナンには日系のオフショア・ソフトウェア企業が多数立地し始めています。これはダナン市の投資誘致政策とも関連があります。市内市庁舎近くにダナンソフトウェアパークがあり、入居している企業の80%が日系と言われています。

ソフトウェアパークでインタビューに応じてくれた日系企業2社はいずれも産業機器系で、計測機器に組み込まれる制御ソフトウェア、あるいは配電盤の筐体から回路図まで設計していました。エンジニアは全て日本語を理解した上で、日本の仕様書に従って図面もしくはプログラムを日本の設計部門に供給しています。

人材はほとんどがダナン工科大学卒であり、この2社ともに、日本における長期研修を経て日本語の能力と企業内スキルを上げていました。ただソフトウェアパーク内の1区画オフィスのスペースは狭く、10数名程度しか収容できず、駐在員事務所程度の規模となっています。そのため市内北部に新規のソフトウェアパークが建設されるとのことです。

‐人材を送り込んでいるダナン工科大学は

ダナン工科大学では副学長と面会しました。同校は1975年設立、国立ダナン大学の傘下にあり学生数は13,000人、14学部の技術系総合大学です。ICT関連の学生は250人でそのうち女子は30%とのことです。投資促進委員会の資料にも、ICT人材の供給機関としてダナン工科大学が出ています。できればベトナム中部に留まって働きたいという学生も多く、ダナンに進出する日系企業への就職や連携、日本の大学との提携も積極的におこないたいとの話が聞けました。

‐ベトナムIT大手のFPTのダナンソフトウェアパークはいかがでしたか

FPTコーポレーションは1999年チュオン・ザー・ビン氏が食品加工業として創業して、テレコム、携帯電話、ソフト受託などIT関連事業に転換して大きく成長した企業です。連結売上高が約2,000億円、従業員約3万人、本社はハノイにありますが、視察したホアラック・ハイテクパークでは、研究施設と「FPT大学」が新設されていました。ダナンでは、市内から南に数10分の場所に、FPTソフトウェアパークをつくって、関連企業が集まっていました。

ダナン支社の建物内部にはわずかに入れましたが、従業員の服装始め大変自由な雰囲気が感じられました。またFPTソフトウェア(FPTコーポレーションの子会社)としては、日本の顧客からのソフトウェア受託が売上の大きな比重を占めているとのことで、支社ホールにあった来客者のサインボードにも日本人の名前が見られました。

‐東西経済回廊については、ダナン進出日系企業の間ではあまり関心がなかったようですが

東西経済回廊は、GMS(大メコン圏)プログラムのフラッグシップ・プロジェクトとして、インドシナ半島の東海岸の積み出し港をダナン港(ティエンサ・ターミナル)とし、ハイヴァン・トンネルを経由、ドンハーからラオス、タイを通過しミャンマーまで達する1450kmもの横断道路で2006年に完成しました。

国境を跨ぐ道路が整備されることで経済活動が活発になることが期待され、特に企業物流において調達、製品出荷がリードタイムの短い陸路で結ばれることは大きなメリットになると考えられていました。

しかし完成から10年以上が経過していますが、東西経済回廊の利用は予測より少なく、越境輸送を利用したサプライーチェーン構築は、ダナンにおける聞き取り調査を通じても極めて限られたものでした。

こうした陸路越境交通の課題は東西経済回廊に限りませんが、特に東西経済回廊は人口の多い都市を通ることがないため、産業集積を結びつけるような効果が少ないことがこうして現れていると思います。但し、地域経済の発展によりダナン港の内航船を含めた貨物扱い量は着実に増えているようです。

‐ダナンの将来についてどのような見通しを持ちますか?

ダナンもしばらくは観光業を中心としたサービス業の伸びが支えると思います。ただ、リゾート開発や工業団地開発などの不動産投資がバブル化しているような懸念を感じました。ベトナムそのものが7%近い経済成長をしていますので、強気でいいのかも知れませんが、どこかで歪みが出るはずです。

製造業投資については日系も慎重なスタンスを崩していないと思います。人口と労働力供給の点でダナンは労働集約的な産業には元々厳しいのと、賃金の上昇によりすでにそうした産業には不向きになりつつあります。

代わって登場しているICT産業が、ダナンの将来の主力産業になり得るかどうかだと思います。ベトナムの中部地域という、ある意味閉鎖的な労働市場でICT人材の育成と定着が図られたら、ハノイ、ホーチミンの大市場とは違った特徴ある地場産業となる可能性も十分あると思います。

また2017年11月にはダナンでAPEC首脳会議を含む会合がおこなわれる予定で、ダナン市にとってはその存在をアピールする大きなイベントになります。市内ではAPEC会議までの時間を示すカウントダウンのサインボードが設置されていました。

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