2018/10/01 No.402ヤンゴン・マンダレー高速道路~ITIミャンマー研究会現地出張報告(8)~
藤村学
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
青山学院大学 教授
ミャンマーの高速道路は、2009年にヤンゴンからネピドーまで開通し、その後2011年になってヤンゴンからマンダレーまでの586.2kmが全線開通した。
JICA報告書(ミャンマー国ヤンゴン都市圏開発プログラム形成準備調査、2017年)によれば、高速道路の所有者は政府で、運営は民間事業者10 社によるBOT(build, operate and transfer)で実施されている。1 日の通行車両台数は、5,000 台以上、高速道路の利用は、輸送車両に重量制限(3t 未満)があり、重量を超える場合でも認められているのは10 ホイール車未満に限られている。また、高速道路は、専ら自家用車とバス用に限定され、貨物輸送では、魚介類・野菜類等の鮮度品及び定期刊行物は認められているが、精密機械・部品等の工業製品や乾物の貨物の輸送は認められていない。貨物輸送するには、建設省への許可申請が必要である。高速道路の使用が限定されているのは、渋滞と道路損傷を懸念しているためである。車線を整備するまでは貨物運搬は許可されない見込みである。輸送トラック用に道路の拡張が予定されている。ヤンゴン・マンダレー高速道路について、藤村学青山学院大学教授に伺った。(聞き手はITI事務局長 大木博巳)
ヤンゴン中心部からマンダレー方面行きの高速道路の入り口まで所要時間は。
‐朝のラッシュ時間を避け、7時40分ごろホテルを出発しました。シュウェダゴン・パゴダ通りからPyay通りへ出て、Pyay RoadとParami Roadの交差点を通過し、さらに北上します。反対方向の通行量は多く、信号待ちが長そうでした。
主要幹線道路の信号交差点の間隔が長く、その途中に歩道橋はもちろんのこと、横断歩道がないため、歩行者は6車線の道路を一気に渡り切れず、中央の白線に一度立ち止まっていたりするので、見る側が緊張します。
約15分後、Insein Buteryon Roadを北東方向へ走ります。右手はヤンゴン空港の滑走路が並行します(塀が邪魔をして見えないが)。この道路がそのままNo.(1) Main Road(国道1号線)となって北上します。舗装が傷んでいる箇所が多かったです。
タウチェンの町でPyay方面の2号線とバゴー/マンダレー方面の1号線が分岐します。ここまで出発してから1時間強(8時45分ころ)。
さらに1号線を北上します。しばらくしてヤンゴン管区を出て、バゴー管区に入ります。ここからは舗装が良好でスピードが80km/h程度に上ります。
その5分後、高速道路への分岐点を斜め左へ進むと、料金ゲートを通過します。乗用車はここからネピドーまで5000チャット、ネピドーからマンダレーまで4000チャットです。料金ゲートには4レーンあり、右側2レーンが現金支払い。左側2レーンがETC決済になっています。
バスと自家用車に限定され、貨物車両は原則使用禁止とのことです。走行した日の高速道路の交通量はいかがでしたか。
‐確かに貨物車両は見かけませんでした。想像するに、ヤンゴンとネピドーを往復する政府要人がたくさんいるでしょうから、過積載の貨物車両で道路が傷むことを避けたいという政治的圧力が効いているのではないでしょうか。
この高速道路は開通して最初の2年ほどは一般人には開放されず、VIP用の専用道路だったそうです。そのころ新首都のネピドーはまだ都市づくりの途上でした。
現在は路線バスが夜行便を中心に運行しており、昼間は1時間に1本程度の運行で、交通量は夜間のほうが多いようです。
中央分離帯付き片側2車線の道路は、先進国基準でハイウェイと呼ぶほどには路面がスムーズではないですが、トヨタハイエースは80km/hで走行、大型バスなら制限速度ぎりぎりの100km/hで飛ばすと思います。
高速道路では路肩での駐停車は禁止で、車両が故障しても、駐停車していれば罰金を取られるとのこと。その旨の赤い警告看板があります。
交通量が少ない割には、事故が多いようです。スピードの出し過ぎや無謀運転、路上に立ち往生した車両への追突などのほか、路面の状態が悪いことが挙げられています。
‐道中、沿線の左右はかわり映えのしない田園風景が続き、起伏は概ね少ないです。ただし、路面に穴があいたところをマニュアルで埋める作業をしている場面を散見しました。開通7~8年ほどにして、痛んだ箇所が出てきているようです。補修が間に合わず、放置されている穴もときどきあります。パンクでタイヤ交換している大型バスを見ました。街灯はほとんどないので、夜間走行でこうした穴に入り込んだら非常に危険でしょう。
高速道路は沿線の周囲に対して盛り土をしておらず、フェンスで仕切ってもいないので、農村を突っ切っている箇所では地元農民がおそらく違法に、路肩に侵入して生活道路として利用しています。牛や水牛が迷い込んでいるところもしばしば見ました。
170マイル(276km)地点の対抗車線に横転事故現場を見ました。ハイウェイ警察が現場検証中でした。
高速道路と沿線の主要都市との接続はいかがですか。
‐ヤンゴン料金所から201マイル(318km)、実質4時間ほどでネピドー方面の出口に着きます。その付近のサービスエリアから、ネピドー市南部にあるホテルゾーンが遠方に見えます。官庁ゾーンは30分ほど走らないと着けません。
さらに284マイル(453km)地点にマンダレーまでの4箇所目のサービスエリアがあります。こからメイティーラの街まで東へ12kmです。料金所の脇にハイウェイ警察の車と運転手のライセンスチェックポイントありました。
292マイル(467km)地点でタウンジー方向へ右折する分岐点を通過します。5年前、ネピドーからタウンジー行きの夜行バスでそちらへ行き、タウンジーに早朝3時に着きました。あのときはカローあたりの高原地の休憩が寒かったのを覚えています。
352マイル(563km)地点で料金所を通過し、ここからマンダレー空港は西方向へ8kmです。その後、高速道路は国道1線の西側を並行しながらマンダレー市街の南側から入ります。このあたりの左右の低地の村は雨期で冠水していて、住民は盛り土をしている高速道路沿いに生活場所を避難させていました。
365マイル(587km)地点で最後の料金所を通過し、ここからは片側2車線のままですが、道路規格が少し落ちた印象です。Welcome to Mandalayというサインのあるロータリーを経て、市街に入ると一気に交通量が増え、スピードが落ちます。
片側3車線の舗装の良い郊外道路へ出てから北へ向かいます。ただし、道幅は広いですが、マンダレー市内はオートバイが自由に走れるので、運転には注意を要します。
ヤンゴン市街からマンダレー市街までの実質走行時間は約9時間でした。
高速道路の石製標識にはマイル表示で走行距離が表示されていました。
‐通訳ガイドさんによれば、ミャンマーの一般生活ではメートル法でなく、マイル・ヤード・フィート・インチを使っており、日本語通訳は日本人に距離を説明するときにメートル法に暗算換算しますが、英語通訳はそのままマイルを使うらしいです。
東南アジアでメートル法に統一していないのはミャンマーくらいではないでしょうか。軍事政権時代のネ・ウィン将軍が英国嫌いで道路交通を右側通行に変更したのと同様に、度量衡も非メートル法を採用したのかもしれません。
高速道路沿いは、石製標識はマイル法で1/10マイル刻みに、青い金属板標識はメートル法で500km刻みに標識が律儀に並んでいます。石の標識は、道が真っすぐの区間では墓石が並んでいるように見えます。マンダレーまで約400マイルなので、その「墓石」が約4000個並んでいることになります。
途中のサービスエリアの様子はいかがでしたか。
‐ヤンゴン郊外の入り口からマンダレーまで39マイル(62km)、115マイル(184km)、201マイル(322km)、284マイル(454km)と4箇所にサービスエリアがあります。
39マイル地点のサービスエリアでは、150mぐらいの幅の敷地に5~6軒のレストランが入っています。駐車場は昼間ということもあり、バスは見かけず、乗用車のみでした。新しめの日本の中古SUVを見ました。ガソリンスタンドはNilar Yomaブランド。通訳ガイドさんによれば、ヤンゴン市内は有力財閥のMaxグループがガソリンスタンドを独占していて、他のグループは市外でしか営業できないとのことです。
サービスエリアとは別に、76マイル地点に忽然とKFCが見えました。
115マイル(184km)地点のサービスエリアでランチをとりましたが、ここは大型バスが何台か入っており、賑やかでした。停まっている長距離バスの半数がスウェーデン製SCANIAでした。敷地内のガソリンスタンドはDENKOというブランドで、その後マンダレーなど地方都市で頻繁に見かけました。
201マイル(318km)地点(ネピドーへの出口近く)のサービスエリアでトイレ・給油休憩しました。ここのガソリンスタンドはRegencyというブランドでした。
284マイル(453km)地点のメイティーラ方面出口に近いサービスエリアで最後のトイレ休憩をとりました。今回立ち寄った4カ所のサービスエリアのなかでは最ものんびりした雰囲気でレストランの数は1~2箇所だったと思います。駐車場内に露店マーケットが自然発生し、ソーラーパネルで電球用電気を発電しているお店も見ました。
マンダレー市内の運転には注意を要するということでしたが
‐マンダレー市内は道路が格子状に直角に交わるので東西南北の方角がわかりやすいです。一方、幹線道路以外は信号がないので、運転手の強気・弱気が優先通行の基準となります。交差点での運転はヤンゴンより気を遣いそうです。
ヤンゴンでは日本の中古車のプレゼンスが相対的に小さくなったようですが、マンダレーは通勤の足として、オートバイのほかにトヨタ Lite Aceや元幼稚園送迎バスなどが、物資輸送にはいすゞ、日野、日産の中古トラックや中古ダンプカーが活躍しています。
オート三輪に関しては、新しいインド製のBajajというブランドが市内を多数走っているのを見ました。運転手の1人と片言の英語で話したところ、2017年製で調子がよいとのこと。筆者を日本人と見てか、中国製はダメだとのコメントを追加しました。
タタ製のゴミ収集車も見かけました。マンダレー経済は中国のプレゼンスが拡大しているのでしょうが、車両に関しては今のところ、日本の中古車とインド製車両が頑張っているようです。
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