2019/03/11 No.418ミャンマーとインドの連結性と通商関係
AungKyaw
モンユワ経済大学 商学部教授
1.アジアハイウェイ(AH)
ミャンマーにはアジアハイウェイ(AH)のうち、1号線(AH1)、2号線(AH2)、3号線(AH3)、14号線(AH14)の4本が通っている。AH14とAH3は 中国、AH1とAH2はタイ、AH 1はインドとつながっている。これらの道路のうち、AH1は、マラー、タムー、モンユワ、マンダレー、ネピドー、ミャワディを通過するのでミャンマーにとってASEAN、インドとつながるうえできわめて重要な動脈である。AH2 もミャンマー国内を通過して、タイとインドをつないでおり、タチレク-タムー間を通りメイッティーラでAH1と接続している。
AH3は、モングラとチャイントン間をつなぎ、AH2に接続する。AH14は、中国とタイをつなぎ、マンダレーでAH1に合流する。ミャンマー国内を通るアジアハイウェイ総延長は、建設計画によれば、今後3,003 キロメートルに達する(注1)。
インドとミャンマーは、東西経済回廊に沿った拡大メコン経済圏(GMS)道路によってもつながっている。東西経済回廊はミャンマー、タイ、ラオス人民民主共和国、ベトナムをつなぎ、西部経済回廊は、インド、タムー、モーラミャイン、タイをつなぐ。さらに、北西経済回廊はインド、タムー、防城をつなぎ、南部経済回廊はダウェーを終結点としている。ミャンマーは、これら4つの経済回廊のいずれにおいても戦略的に立地しており、インドおよび拡大メコン経済圏にアクセスする拠点となっている。
地政学的には、中心に立地する好条件を活かして発展するために、ミャンマーはインド、中国、タイなど重要な近隣諸国との連結性を向上していく必要がある。
図1 ミャンマーを通過するアジアハイウェイ
2.ミャンマーとインドの関係
ミャンマーとインドの関係は歴史に深く根ざしている。ミャンマーは信仰厚い仏教国であり、インドに発祥した仏教がインドとミャンマーの強固な関係につながっている。ミャンマー人はブッダガヤなどインド国内の有名仏教巡礼地を訪問したいと強く望んでおり、このことも両国の絆の強さにつながっている。それ以外にも、ミャンマーに隣接するインド4州(アーナチャルプラデシュ、ナーガランド、マニプル、ミゾラム)との民族的なつながりと、ミャンマー西部の民族(チン、クキ、カチン)との絆は千年の歴史を持つ (Bhatia, 2011)。両国は1,643 キロメートルの国境で接しており、ベンガル湾とアンダマン海にも長い海上境界線がある。ミャンマーは東南アジア諸国のうちインドと国境を接する唯一の国である。このため、ミャンマーは活力あるASEAN市場にインドが参入するゲートウェイとなり、インド北東部の内陸州とASEANをつなぐ役割も果たしている (Kundu, 2016)。
両国は政治、行政面でも強い関係がある。インドとミャンマーはいずれも1886年から1937年までの期間、大英帝国の一部であり、コルカタ(カルカッタ)を首都とする英国植民地政府の支配を受けた。ミャンマーの旧都ラングーン(ヤンゴン)のカレッジは当時カルカッタ大学の系列校だった。英国植民地時代のラングーン中心部の人口の6割はインド人で占められていたという (Bhatia, 2011)。
今日に至るまでインドとミャンマーはいずれも平和友好国であり、価値観を共有している。両国はBIMSTEC(ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアチブ)やMGC(メコン・ガンガ協力会議)などの地域国際機関を通じて共通の目的に取り組んでいる。両国の関係と協力分野はITから農業まであらゆる分野にわたっており、平和・安全保障プログラム、開発、社会経済、科学技術、教育訓練での協力のほか、農業、電力エネルギー、文化の分野でも協力が行われている。また、人材交流、地域、多国間プロジェクト、インフラプロジェクトも盛んである (Sharma, n.a.)。
3.ミャンマー・インドのインフラ計画
インドとミャンマー間の主要なインフラプロジェクトは次のとおり。
3.1 インド・ミャンマー・タイ3か国ハイウェイ構想
2005年に計画がスタート。インド・ミャンマー間の国境を越えた連結性向上に不可欠なプロジェクトであり、モレー-バガン-メーソット(タイ)間1,360 キロメートルをつなぐというものである(図2)。ミャンマー国内を通過しインドがASEANにアクセスする上で戦略的重要性が高いプロジェクトである。その開通によりインド・ASEAN間の貿易拡大効果が期待されている。また東西経済回廊を通じて(カンボジア、ラオス、ベトナムといった)ミャンマー以外のASEAN諸国とインドとのつながりも高めることが期待される。カレーミョ-ヤジー(120 キロメートル)間の長距離区間以外はすでに開通しており、全シーズンのアクセスが可能。2021年の全区間開通が予定されている。
図2 三か国高速道路(インド・ミャンマー・タイ)
3.2 カラダン・マルチモーダル・プロジェクト
カラダン・プロジェクトはインドとミャンマー間の最大の計画である(図3)。カラダン川はミャンマーの山地を源流とし、インド・ミゾラム州に入ってから蛇行、再びミャンマーに戻り、ベンガル湾に流れ出る。ミゾラム州より下流の地域は500トン級の河船が全域運航可能である。このためインド北東部の商材はカラダン川を下って容易にベンガル湾まで輸送が可能であり、そこからは国内外の市場に向けて積み出しができるようになる。またインドはシットウェ、コルカタ、ヴィシャーカパトナム間のシーレーン開発も計画しており、シットウェがインド北東部向けの石油およびガスの主要供給センターとなる可能性も秘めている。(インドの)ルックイースト政策の一環であるこのプロジェクトは、インド北東部7州(セブンシスターズ)とミャンマーとの交易機会を増大させる (Sharma n.a.)。プロジェクトにはベンガル湾に面するカラダン川河口シットウェ港の港湾インフラの近代化も含まれている。シットウェ-コルカタ間の海路の距離は539 キロメートルである。さらにこのプロジェクトはシットウェとその北部およびインドの内陸州ミゾラム州をカラダン川と陸路を合わせて結ぶ計画も含まれている。カラダン・プロジェクトが実現すれば印緬関係は深まり、同時にミャンマーとインド北東部の内陸州および本土との交易強化にもつながる (Kyaw Min Htun et.al., 2011)。2019年よりインド政府はシットウェ港の事業に着手し、プロジェクトのオペレーションが開始する予定である。
図3 カラダン川マルチモーダル輸送プロジェクト
3.3 インド・ミャンマー・フレンドシップ道路
カレワ、カレーミョ、タムー、モレーをつなぐ全長160キロメートルのインド・ミャンマー・フレンドシップ道路は2001年に着工し2017年に竣工した。モレーはインドとミャンマーの国境地域にあるインド側マニプル州の都市で、タムーはミャンマー側ザガイン地方域の都市。この道路はインド、ミャンマー、タイを結ぶ3か国ハイウェイ・プロジェクトの重要区間でもある。現在、カレーワ-ヤジー間(120 キロメートル)が雨季に不通となるが、インド政府による4車線化が進められており、完成すればオールシーズン、アクセス可能となる。この区間の工事は2021年4月に完成する予定。ASEAN市場への参入を目指すインドの計画においてミャンマーは中心的な役割を果たしている。
3.4 スティルウェル公路
アメリカ陸軍のジョゼフ・スティルウェル将軍にちなんで命名されたスティルウェル公路は第二次世界大戦中に日本占領下の中国を解放する目的で建設され、中国に駐留する連合軍に武器と食糧を輸送するのに戦略的に重要な道路だった。インドのレドと中国の昆明を結ぶこの道路はミャンマーの北部カチン州を横切り、ミッチーナーを経由する (Kyaw Min Htun et.al., 2011)。北部インドから中国の昆明まで続く総延長1,736 キロメートルのスティルウェル公路は、作られた当時の名をレド公路 といい、インド国内を61 キロメートル 通った後、1,033 キロメートルにわたりミャンマー国内を通過し、その後、中国国内を632 キロメートル伸びる。米軍の技術者は1942年に(インドのアルナーチャル・プラデシュ州の)レド を起点とした道路建設に着手し、1945年にミャンマーのムセまでの建設が終わった。今日、中国、インド両政府とも世界の二大人口大国を結ぶ幹線道路となるであろうこの道路をミャンマーが再開通させることを望んでいる。スティルウェル公路はインドと中国の二大人口大国の陸路物資輸送の所要時間を現行の7日から2日に短縮する。ミャンマー政府は、インド国境地帯のミッチーナーからパングサウパスまでの312 キロメートルの道路を修復、再開通させた。インドはスティルウェル公路の国内通過部分を2車線化し、中国は自国通過部分を6車線化している (Pattnaik, 2016)。
4.印緬通商投資協定
印緬国境通商協定は1994年に公式発足した。両国のあいだにはモレー・タムー、ゾコータ・リーの2か所の国境貿易所があるほか、アバクン・パンサット/ソムライに3つ目の交易ポイントの建設が話し合われている。このうちモレー・タムーの国境貿易が全体の9割を占めている。現状ではインドとミャンマーを結ぶ道路の連結性は世界標準と比べて見劣りする状態にある。印緬二国間の貿易は商材の少なさと厳格すぎる規制のせいで、中緬、泰緬などの国境貿易と比べるとその規模はごく小さい(注2)。ミャンマーにとってインドは貿易相手国として5位であり、投資の相手国としては10位(ミャンマーの外国への投資総額でインドが占める割合は1.36%に過ぎない)である。2017年6月末におけるインドのミャンマーへの投資額残高は7億4,064万ドル (Kundu, 2016)。
2016〜17年度に両国間の貿易額は20億ドルを超えた。2007〜08年の貿易額が10億ドル未満だったことに照らせば伸び率は倍増している。一方、インドの輸出入にミャンマーが占める割合は0.33%ときわめて小さい。上述のすべての道路の改良が進み、オールシーズンのアクセスが可能となれば、両国間貿易には成長のポテンシャルがある。ASEAN諸国を重要な貿易相手国と考えるインドはミャンマー経由でASEAN諸国との通商拡大を強く期待している(注3)。3か国ハイウェイが竣工し2020年に開通すれば、ミャンマーを陸路でまたいだインドとASEAN諸国の貿易の流れが巨大となる潜在性は高い。
(★本稿は公益財団法人JKAから補助を受けて実施した研究会の成果の一部である。)
<注>
1. アジアハイウェイがミャンマー国内を通過する区間は次のとおり。1号線: ミャワディ・タムー間 (1,650 キロメートル)、2号線 :タチレク・チャイントン・タウンジー・メイッティーラ間 (807 キロメートル)、3号線 : チャイントン・マイラー間(93 キロメートル)、14号線:マンダレー・ムセ間(453 キロメートル)。
2. インド・ミャンマーの2015-16年の2カ国間貿易額は 20億5,000万ドル、一方ミャンマー対中国の貿易額は96億ドル、対タイ貿易額は57億ドル (Kundu, 2016)。
3. 2013-14年、インドの貿易相手国の上位25位以内にランクされたASEAN加盟国は、3カ国にすぎず、インドネシア(8位)、シンガポール(10位)、マレーシア(21位)だったが、2016-17年は5カ国、インドネシア(8位)、シンガポール(10位)、マレーシア(11位)、ベトナム(19位)、タイ(24位)に増えた (Gottschlich, 2017)。参考文献1. Bhatia, R. K., 2011. Myanmar- Relationship: The Way Forward. India Foreign Affairs Journal, 6(3), pp. 315-326.2. Kudo, M. Z. a. T., 2011. A Study on Economic Corridors and Industrial Zones, Port, Metropolitans and Alternative Routes in Myanmar. In: M. Ishida, ed. In Intra- and Inner-City Connectivity in Mekong Region. Bangkok: Bangkok Research Center, IDE-JETRO, pp. 240-287.3. Kundu, S., 2016. The Current Conundrums in India-Myanmar Bilateral Trade, Noida: Extraordinary and Plenipotentiary Diplomatist.4. Kyaw Min Htun et.al., 2011. ASEAN-India Connectivity: A Myanmar Perspective. In: F. a. S. U. Kimura, ed. ASEAN-India Connectivity: The Comprehensive Asia Development Plan, Phase II. Jakarta: ERIA Reseach Project Report, pp. 151-203.5. Pattnaik, J. K., 2016. Should the Stillwell Road Reopened, s.l.: Economic & Political Weekly.6. Sharma, P., n.a.. India and Myanma: The Future of Growing Relationship, s.l.: s.n.
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