一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2019/12/28 No.4492020年アメリカ大統領選挙で民主党は政権奪還できるのか

木村誠
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

2020年11月3日のアメリカの大統領選挙まで1年を切った。トランプ大統領が再選されるか、民主党が政権を奪還するか、世界が注目している。第2次世界大戦後に再選を目指す現職の大統領が落選したのは、フォード(共和)、カーター(民主)、父ブッシュ(共和)の3人だけである。最近の世論調査ではトランプ大統領の劣勢が伝えられているが、前回2016年の大統領選でも、メディアは民主党のヒラリー・クリントン圧勝を予測していた。本稿では2020年大統領選挙の行方を占う。

1.世論調査は実像を反映しているのか?

直近の世論調査では民主党の大統領候補はジョー・バイデン前副大統領(ペンシルベニア州出身)がトップを走っており、バーニー・サンダース連邦上院議員(バーモント州選出)、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出)、ピート・ブディジェッジ・インディアナ州サウスベント市長らが追っている(表1)。

これに対して、現職のトランプ大統領を支持しないという声が世論調査では根強く(表2)、民主党主要候補者との支持率比較でみてもトランプ大統領は劣勢である(表3)。

しかし、前回2016年の大統領選直前の世論調査でも、トランプはヒラリー・クリントン候補の後塵を拝していた(表4)。また大統領選挙の予測で定評のあるファイヴ・サーティ・エイトのネイト・シルバー氏は、投開票日直前の最終予測として、クリントン候補の勝つ確率を71.4%、トランプ候補28.6%とし、クリントン候補の圧勝を予測していた。

2020年の大統領選をめぐる今回の世論調査が、そのまま11月の大統領選挙に反映されるとみる向きは少ない。理由は3つある。

第一は、世論調査の不正確さである。先ず、大統領選挙の選挙権は、米国籍者(US Citizen)に限られ、例えばグリーンカード保有者のような永住権者には選挙権が無い。加えて18歳以上であることは勿論であるが、選挙人登録(Voter registration)を行っていることが要件となる。 アメリカでは日本と異なり自ら申請しなければ選挙人名簿には登録されず、投票資格を得ることができない。

一般に、選挙に関する世論調査では、コンピューターで無作為に固定電話や携帯電話の番号を作り出し、コールセンターの調査員が直接電話をかけて回答を依頼するRDD(Random Digit Dialing)が一般的である。その際調査員は、電話をかけた相手が選挙人登録を行っている有権者かを確認するが、最近の世論調査はコストの問題から自動音声電話やインターネットでも行われている。そうした調査の場合、選挙人登録を済ませている有権者のみを正確に抽出しているかは定かではない。

また世論調査は全米の情勢をみる全米調査と州別の情勢をみる州調査に分かれるが、州別調査になると、調査実施機関の予算や機動力の観点から精度が低く、2016年の大統領選挙では勝敗予測が外れる要因になったといわれている。

2点目は、アメリカの大統領選挙制度に起因する実際の選挙結果と世論調査との乖離である。アメリカでは、より多くの票を集めた候補ではなく、選挙区である州ごとの勝者がその州に割り当てられた選挙人をすべて獲得できる「勝者総取り方式」を取っている(メイン州とネブラスカ州は一部異なる制度)。従って、全国の得票数で1位になっても大統領選挙人の獲得数で1位になれない可能性がある。実際、アメリカでは過去4回こうした事態が起きている(注1)。

そして3点目は、世論調査と実際の投票行動が異なる点である。これについては、2016年大統領選挙終了後の全米世論調査委員会の検証で世論調査がなぜトランプ氏支持を過小評価したかが焦点となった。それによると、①民主党の支持基盤の州で、選挙戦終盤まで投票先を決めていなかった有権者がトランプ氏支持に向かった、②低学歴層の支持傾向が変化していたこと、③民主党支持傾向が強いヒスパニック系や黒人の投票率が低下したこと、④共和党支持層の大きさを過小評価したことと、共和党支持層内でのトランプ氏支持率を低く見積もったこと、などが指摘された(注2)。

また、いわゆる「隠れトランプ」の存在が世論調査結果を歪ませる影響を与えた、とする見方も多い。自分のコミュニティではポリティカル・コレクトネスを語る有権者が、一歩投票所に入ると、「建前」とは裏腹に自らの心情に近いトランプ氏に投票する有権者が多かったとみる向きが多い。

世論調査が求める「誰を支持するか」という問いと、「誰が勝利するか」という問いは全く異なる。(表5)はスポーツでよくみられるオッズ(勝率)調査である。自分は熱狂的なジャイアンツ・ファンだが、日本シリーズはソフトバンクが優勝するとみている、というノリである。それによると、2020年のアメリカ大統領選挙では、トランプ大統領が、バイデン候補を大きく引きはなし、圧勝することになる。ぶれやすい世論調査より、オッズ調査のほうがより実態を反映しているかもしれない。

2.民主党候補者の舞台はTV討論会から予備選へ

民主党の大統領選候補者を決める予備選が2020年2月3日アイオワ州を皮切りにスタートする。これまでは20人近い候補者が予備選の前哨戦として、2019年に数回にわたり行われたTV討論会でふるいにかけられてきた。民主党全国委員会(DNC)はTV討論会の参加には、一定以上の献金額を集めることと、世論調査で一定以上の支持を得ていることを条件として課している。1対1で行われる本選挙の討論会とは違い、ここでの発言の持ち時間は限られるため、なによりも目立つこと、そしてトップランナーをたたくことが重要となる。

左派のウォーレン候補とサンダース候補は、大企業や超富裕層の既得権益に切り込み、医療保険制度や教育に関する大胆な政策を打ち出すことによって、世間の注目を集め、そして民主党のトップランナーである穏健中道派のバイデン候補批判を繰り広げてきた。2019年10月の世論調査では、ウォーレン候補が一時バイデン候補を抜き首位に躍り出た。しかしその後は一転して民主党の他の候補者から同議員が提唱する医療制度改革プランのコストの説明がないことなどに批判が集中し、支持率は急落している。バイデン候補は逆に、最近は中道保守的な発言を控え、医療制度改革の必要性に言及するなど政見を中道左派寄りに軌道修正している。このようにTV討論会では、視聴者である国民の反応をみながら各候補者は政見や主張に修正を続け、より現実的な政策を掲げて2020年の予備選に臨んでいくのが一般的である。

3.序盤が重要な大統領予備選

大統領選挙の予備選では、州法の規定から州ごとに投票日が異なり、早期に予備選が行われるアーリー・ステーツ(Early States:アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダ、サウスカロライナの4州)の結果は全体の予備選挙に大きな影響力を与えるとして注目されている。今回は民主党では2020年2月3日、アイオワ州の党員集会が最も早く行われ、その1週間後の2月11日にニューハンプシャー州の予備選挙が行われる。予備選では、各候補が州ごとに割り当てられた選挙人を取り合う。序盤で勝利した候補は資金集めや党内の有力政治家からの支持を取り付けることができるので、各候補はこの序盤戦に力を入れる。

そして3月3日カリフォルニア、テキサスほか11州が投票を行うスーパー・チューズデーによって党の大統領候補が事実上決定する。今回の大統領選挙では、これまで6月に予備選挙を実施してきたカリフォルニア州が大幅に日程を前倒ししてきた。民主党の候補者選びにおける選挙人は全体で3,768人。このうち3月3日に開票されるのは、カリフォルニア州416人、テキサス州228人、ジョージア州105人など合計で1,420人と全体の4割近くがこの日に決定する。そして有力候補の撤退や首位候補による代議員過半数の獲得により、後半の予備選挙は事実上、消化試合となる。

民主党は2020年7月13~16日ウィスコンシン州ミルウォーキーで党大会を開催し、党の大統領候補および副大統領候補を決定する。

共和党は、8月24-27日 ノースカロライナ州シャーロットで党大会を開催する。その後は各党の大統領候補が3回、副大統領候補が1回、9月末~10月にテレビ討論会に臨み、11月3日に一般投票を迎える。

4.民主党勝敗のポイントはラニングメイトとなる副大統領候補か

前回2016年の大統領選の時は、7月の民主党大会の5日前にヒラリー・クリントン候補がバージニア州選出の連邦上院議員であるティム・ケインを副大統領候補に指名した。副大統領は、大統領が死亡・辞任・免職などにより欠けた場合は、大統領に昇格することが、合衆国憲法修正25条第1節で定められている。しかし大統領選挙期間中は「アタック・ドッグ」と呼ばれ、対立候補を攻撃する役割が期待されている。

2016年の大統領選の予備選でクリントンと党の大統領候補を最後まで争ったのが、バーニー・サンダース氏である。民主社会主義者を自称するサンダース氏はクリントン氏を既存の支配層の代表と位置付け攻撃し、若者の心をつかんでいた。エスタブリッシュメントであるクリントン氏の予備選勝利と、サンダース氏の撤退は、民主党を支持する若者たちの間に一種の喪失感を残したとされ、その「サンダース・ロス」現象が、民主党大統領候補クリントンの本戦での求心力を削ぐ一因になったともいわれている。

今回も穏健中道派のバイデン候補がリードし、左派のサンダース候補やウォーレン候補がこれを追っている。仮にバイデン候補が最終的に民主党の大統領選候補者になった場合、民主党の左派勢力をうまく取り込まないとバイデン候補はクリントン氏の二の舞となるかもしれない。

民主党のオバマ前大統領自身は、乱立気味の民主党立候補者で誰を支持するかは明確にしていない。民主党主要候補者の政策は、ヘルスケアや富裕税導入など国内経済政策にフォーカスがあてられている。左派色の強すぎる政策にはオバマ前大統領は警告を発している。しかし、穏健派のバイデン候補については、トランプ大統領を倒すのは現状難しいだろうという声が民主党内でも出ている。

決め手はラニングメイトである。大統領候補の弱点を補完するため、副大統領候補は大統領候補と支持基盤や政治信条などが異なる人物が選ばれる。2008年の大統領選挙予備選では大統領候補の指名を確実にした進歩派のバラク・オバマ氏は、同じ予備選を争ったバイデン氏を副大統領候補に指名した。バイデン氏は上院議員時代に司法委員長や外交委員長を歴任した民主党の重鎮である。これがアメリカ史上初となる黒人大統領候補への不安を一掃する「ドリーム・チケット」となり、オバマ氏は大統領選に勝利した。こうした意味で、2020年の大統領選挙で民主党が政権奪還できるかは、民主党の大統領候補者がラニングメイトに誰を選ぶかにかかっているといえよう。

(注1) 1876年一般投票で51%の得票をしたティルデン(民主党)は、獲得選挙人数で共和党のヘイズに184対185という僅差で敗れている。1888年には、クリーブランド(民主党)が、一般投票で共和党のハリソンに48.6%対47.8%と差をつけたものの、獲得選挙人数は168対233で敗退した。2000年には、一般投票ではゴア(民主党)がブッシュより得票数を上回っていたものの、獲得選挙人数が267対271という僅差で敗れている。2016年には、クリントンがトランプ候補に得票数を上回ったものの、選挙人獲得数で大敗した。いずれも民主党候補者が大統領選挙制度に壁に阻まれて敗退している。

(注2)An Evaluation of 2016 Election Poll in US https://www.aapor.org/Education-Resources/Reports/An-Evaluation-of-2016-Election-Polls-in-the-U-S.aspx

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