2020/03/25 No.455ITIタイ研究会報告(9)タイの経済・産業・インフラ開発・長期展望(2019年末時点の状況)~その2タイのインフラ開発と投資政策~
JIradaPrasartpornsirichoke
カシコンリサーチセンター シニアリサーチャー
ITIタイ研究会では2019年時点におけるタイ経済・産業の現状について、カシコンリサーチセンター シニアリサーチャーJirada Prasartpornsirichoke氏よりご寄稿いただいた。コロナ禍で2020年のタイ経済は大きく悪化するものと見込まれるが、ベンチマークとして2019年時点におけるタイ経済の現状について3回に分けて報告する。
- タイ経済・産業の現状(2019年)(前回)
- タイのインフラ開発と投資政策 (今回)
- タイ経済の長期展望:タイランド 4.0の現状(次回)
(本報告は公益財団法人JKAの補助事業によるものである)
インフラ開発
国家経済社会開発庁(NESDC)は、2017年~2026年間に行われる公共インフラへの投資需要について、国営企業39社と関連する政府機関から情報を収集している。それによると、この10年間のインフラへの投資需要は総投資予算額約6.507兆バーツである。内訳は、主に運輸・交通に約56.13%、エネルギー(発電)に約41.96%となっている。投資需要全体の大半を占める約76.9%は、国営企業によるものである。
第12期国家開発計画(2017年~2021年)に含まれるインフラ開発のガイドラインによると、40件の計画は第12期国家開発計画に沿ったインフラへの投資需要であり、投資予算の総額は約3.099兆バーツである。第12期開発計画期間中にこの額が支出される予定であり、この額の大半を占める約2.27兆バーツ(年間平均約454,000百万バーツ)のうち運輸・交通に約1.49兆バーツ(65.69%)、エネルギーには約0.63兆バーツ(28.15%)が投資される。
表1 第12期国家開発計画に基づくインフラプロジェクト(2017年~2021年)
インフラに対する投資プロジェクトは、今後も支出の増額が続く見込みである。2019年5月現在、2016年のアクションプランのうち20プロジェクト、2017年のものが36件、2018年のものが9件進行中である。これらの投資プロジェクトの進捗状況は以下のとおり。
- 2016年度アクションプランで進行中のプロジェクト:建設部門の2つの投資プロジェクトが完了しており、投資額は4,809百万バーツである。他の12プロジェクトは現在進行中で、これらに対する支払限度額は732,490百万バーツとなっている。前年同期は、完了している建設プロジェクトは1件であった。残り13件のプロジェクトは総予算額703,637百万バーツであるのに対し融資限度額は1,864百万バーツで、既に建設途上の状態にあった。
- 2017年度アクションプランで進行中のプロジェクト:建設部門において、総予算1,113百万バーツの投資プロジェクトが1件完了している。残りの4プロジェクトの総予算は4,513百万バーツで、既に建設段階に入っている。
- 2018年度アクションプランで進行中のプロジェクト:総融資限度額2,043百万バーツの投資プロジェクトが1件、既に建設段階に入っている。
- 東部経済回廊(EEC)計画に基づくプロジェクト:5件のプロジェクト詳細は以下のとおり。(1)3つの主要空港間(ドンムアン、スワンナプーム、ウタパオ)を結ぶ高速鉄道(2)マープタープット工業港プロジェクト第3期は入札を経て、官民連携(PPP)案の審議を受けるため既に政府に提出済(3)ウタパオ空港に航空機の整備施設を設置するプロジェクトは、国営企業政策局の審議を受けるため、官民共同出資を検討中、(4)東部へのウタパオ空港および航空機整備・製造会社の設置(5)レムチャバン港プロジェクト第3期はEEC政策推進委員会による入札段階にある。同プロジェクトは、2019年6月に民間との契約に合意する見通しである。
アクションプラン進捗状況
① 2016年度のプロジェクト名
- チラジャンクション―コーンケーン複線鉄道(建設中)
- パタヤ―マープタープット高速道路(建設中)
- バン・パイン―ナコーンラーチャシーマー高速道路(建設中)
- オレンジライン・文化センター区間―ミンブリーナコーンパトム―チュンポーン複線鉄道(建設中)
- マップカバオ―チラジャンクション複線鉄道(建設中)
- ロッブリー―パークナムポー複線鉄道タイ・中国高速鉄道(建設中)
- バンコク―コラートバンヤイ―カンチャナブリー高速道路(建設中)
- ピンクライン・カエライ―ミンブリーイエローライン・ラートプラオ―サムロンスワンナプーム国際空港開発第2期(建設中)
- 郊外高速鉄道網ライトレッドラインとダークレッドラインパープルライン・タオプーン―ラットブラナ3空港を結ぶ高速鉄道(入札/契約待ち)
- バンコク―ホアヒン高速鉄道(NESDC承認申請中)
- タイ・日本鉄道(バンコク―ピッサヌローク)(NESDC承認申請中)
② 2017年度のプロジェクト名
- 主要輸送ルートのトラック停車場(ブリーラム、ウドーンターニー、カンペーンペット)チェンコーン貨物輸送中継センター
- ヤラー県べトン空港
- サコンナコーン空港
- ラマ3世通り―ダオカノン―西バンコク外郭道路をつなぐ高速道路スワンナプーム国際空港のバゲージコンベアシステムの改善(入札/契約待ち)
- クラビ空港(入札/契約待ち)
- ウタパオの航空機整備センター(入札/契約待ち)
- デンチャイ―チェンライ―チェンコーン複線鉄道(内閣承認済)
- ナコーンパノム国境輸送センター(調査/EIA/PPP)
- ナコーンパトム―チャアム高速道路(調査/EIA/PPP)
- プーケット県カトゥー―パトン高速道路(調査/EIA/PPP)
- パークナムポー―デンチャイ複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- チラジャンクション―ウボンラーチャターニー複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- コーンケーン―ノーンカーイ複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- チュンポーン―スラーターニー複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- スラーターニー―ハートヤイ―ソンクラー複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- ハートヤイ―パダンブサール複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- デンチャイ―チェンマイ複線鉄道(調査/EIA/PPP)
- ダークレッド郊外鉄道網ランシット―タマサート大学ランシットセンター(調査/EIA/PPP)
- ライトレッド郊外鉄道網タリンチャン―シリラートとタリンチャン―サラヤ区間(調査/EIA/PPP)
- 国境貨物ステーション7か所の開発(調査/EIA/PPP)
- 地域貨物ステーション5か所の開発(調査/EIA/PPP)
- オレンジライン・バンクンノン―タイ文化センター(調査/EIA/PPP)
- プーケット大量輸送システムの構築(調査/EIA/PPP)
- レムチャバン港第3期開発(調査/EIA/PPP)
- タイ湾奥部で東部および西部海岸を結ぶフェリーターミナルの長期的開発 (調査/EIA/PPP)
- 35基の電気自動車用充電スタンドの建設(調査/EIA/PPP)
- ブルーライン・バンケー―プッタモントン4区間(調査/EIA/PPP)
- ダークグリーンライン・サムットプラカーン―バンプー(調査/EIA/PPP)
- ダークグリーンライン・クーコット―ラムルッカ(調査/EIA/PPP)
- ハートヤイ―タイとマレーシア国境を結ぶ都市間高速道路(調査/EIA/PPP)
- 北部高速道路パートN2と代替パートN1(調査/EIA/PPP)
③ 2018年度のプロジェクト
- コーンケーン空港開発(建設中)
- ドンムアン―ランシット―バン・パイン都市間高速道路(調査/EIA/PPP)
- トンブリー―パクトー、バンコク―マハチャイを結ぶ都市間高速道路35号線(調査/EIA/PPP)
- バンコク―チェンマイ高速鉄道(調査/EIA/PPP)
- チェンマイの大量輸送システム(調査/EIA/PPP)
- ナコーンラーチャシーマーの大量輸送システム(調査/EIA/PPP)
- コーンケーンの大量輸送システム(調査/EIA/PPP)
- コーンケーンの内陸港の開発(調査/EIA/PPP)
出典:NESDCEEC
計画下の投資
- 3空港を結ぶ高速鉄道(ドンムアン―スワンナプーム―ウタパオ)(入札/契約待ち)
- マープタープット工業港第3期(入札/契約待ち)
- ウタパオの航空機整備センター(入札/契約待ち)
- ウタパオ空港開発プロジェクトと東部航空都市(入札/契約待ち)
- レムチャバン港プロジェクト第3期(入札/契約待ち)
タイの投資政策
タイ政府は、過去5年間にわたり、外国投資受け入れに関する政策を数多く変更してきた。その目的は、外国企業を誘致してタイへの投資額を増加させるだけでなく、タイ国内企業の水準および革新性を高めることにある。タイ投資委員会(BOI)は政策を変更し、特定の地域や工業団地への企業誘致から、タイランド4.0政策に従って対象となる10産業にふさわしい業種を誘致することとした。
BOIはこれまでタイおよび諸外国による投資の推進を担ってきている。また、タイ国内の競争力を推進して投資を刺激するため、高付加価値商品、研究開発(R&D)、イノベーションによって企業をサポートするほか、中小企業(SMEs)が技術、創造力、イノベーションの面でタイを変革していけるよう、こうした企業の支援にも取り組んでいる。また、タイ経済の再構築を目指した2015年~2021年までの7か年投資促進戦略について、主な6点を次のように述べている。
- R&Dとイノベーション、農業・工業・サービス部門の価値創造、中小企業、公正な競争、包摂的成長を推奨することで、国家としての競争力向上に役立つ投資を推進する
- 環境にやさしい活動や、エネルギー削減・代替エネルギーの活用によって、バランスの取れた持続可能な成長を推進する
- 動きを推進する地域の可能性に応じて集中的に資本を投下し、バリューチェーンを強化するクラスタを推進する
- タイ南部の国境地域の地域経済発展を支援するため、同地域への投資を推進するこの動きによって、同地域におけるセキュリティ強化活動を促進する
- 特に国境地域の経済特区や国内外の工業団地の設置を推進して近隣諸国との経済的つながりを構築し、ASEAN経済共同体(AEC)への加盟に備える
- 世界経済におけるタイ企業の競争力およびタイの役割を強化するため、タイによる海外投資を促進する