2020/06/05 No.466米国各州の経済活動再開状況:外出禁止令を残す州はわずか
滝井光夫
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
桜美林大学 名誉教授
コロナウイルス感染分布と州知事
5月28日、米国の新型コロナウイルスによる感染者は10万人を超え、なお増え続けている。3月末、ホワイトハウス・コロナウイルス・タスクフォース(議長はペンス副大統領)のアンソニー・ファウチ博士(国立アレルギー感染症研究所長)は「現状では死者が10万人に達しても私は驚かない」と述べ、同タスクフォースの調整官デボラ・バークス博士は「外出禁止、社会的距離の保持など対策をほぼ完全に実施しても、死者は20万人に達する」と述べた。現状は、まさにこの見通しのとおりに推移している。
感染者と死者が一国として世界最大の米国では、感染者、死者とも知事が民主党の州に集中している。6月3日時点の州別分布をみると、民主党知事州(24州)と首都ワシントンDC(市長は民主党)の合計は、感染者124万2,916人(全米の68.0%)、死者7万9,670人(75.0%)、一方、共和党知事州(26州)はそれぞれ58万4,509人(32.0%)、2万6,532人(25.0%)。民主党知事州の感染者および死者は共和党知事州の2~3倍である(注1)。
突出して多いのがニューヨーク、ニュージャージー、イリノイ、カリフォルニアの4州で、全米の感染者の57.7%、死者の66.20%を占める。これら4州の知事はすべて民主党で、人口が多いだけでなく、アフリカ系、ヒスパニック系などマイノリティ人口が多く、貧富の格差が大きい大都市圏がある。これら地域は2016年の大統領選挙で共和党と民主党が勝敗を分けた州でもある。
経済再開を急ぐトランプ大統領と共和党知事州
米国憲法修正第10条は、連邦政府に帰属する外交、国防、外国貿易、通貨の発行、州際通商など以外は州政府の権限であると規定している。この規定は連邦政府の力が不必要に拡大するのを抑える歯止めとして、1791年の第1回議会で憲法に追加されたものだが、新型コロナウイルス感染のようにウイルスが州内に留まらず、人の移動に伴って州外に拡散する問題では、州政府の行動には限界がある。このため、例えば国土安全保障省の下部機関であるFEMA(連邦緊急事態管理庁)が州政府と連携して統一した対策を打つべきだとの意見もあったが、トランプ大統領は動かず、保健福祉省(HHS)が表面に出てくることもなかった。
そうした中でトランプ大統領は経済活動の再開を急いだ。3月に入ると、トランプ大統領は経済活動の再開に重点を移し、4月12日のイースター(復活祭)までには米国経済を再開させると主張した。しかし、これが不可能となると4月16日、3段階で規制を緩和し、経済を再開させるガイドラインを発表した。このガイドラインは、再開の条件となる全米共通の数値目標は含まず、再開の判断はトランプ大統領が行うとしたが、憲法修正第10条を盾に、ニューヨーク州のクオモ知事などが反対し、再開する業種、日程などはすべて州知事の判断で決めることになった(注2)。
全米50州と首都の経済活動再開の状況はさまざまだが、ウイルス感染者の多い民主党知事州は総じて経済活動の再開に慎重だが、感染者の少ない共和党知事州は積極的である。各州の状況を、外出禁止令をまだ解除していない州、解除したが地域、業種など段階的に再開する州、外出禁止令を実施していない州に分けて以下みてみよう(注3)。
全米50州の経済再開の状況
(1)段階的再開州と外出禁止未解除州
ガイドライン発表後、4月中に外出禁止令を解除したのはアラスカ州(解除日:4月24日)、モンタナ州・コロラド州(26日)、テキサス州・テネシー州・ジョージア州・アラバマ州(30日)の7州にとどまった。しかし、5月に入ると「解除州」は急速に全米に広がり、6月4日時点で外出禁止令を解除していない「未解除州」は7州だけとなった。表1は未解除の7州と段階的再開州の13州と首都ワシントンDCを挙げたが、すべて首長(首都は市長)は民主党である。
表1 外出禁止令未解除7州と段階的再開州(6月4日現在)
「未解除州」7州は外出禁止令を解除しないまま、すでに一部の経済活動を再開している。全米で最初に外出禁止令を出したカリフォルニア州は5月12日から制限付きで小売店、飲食店、25日から教会も郡政府の承認を条件に再開した。オレゴン州は人口の多い地域はまだ解除していない。ケンタッキー州は多くの業種が再開したが、外出禁止令の解除の日を決めていない。
イリノイ州はニューヨーク州の翌日、外出禁止令を解除し、6月3日にシカゴ市は再開第3段階に入る。ニューヨーク州は州内を10地域に分け、数値目標をクリアした地域に対して経済活動の再開を認めているが、ニューヨーク市は6月8日に再開の第1段階に入る。ニューヨーク市に隣接するニュージャージー州、さらにペンシルバニア州、デラウエア州、バージニア州では再開した業種が極めて少なく、首都ワシントンDC では小売店や図書館でも商品や本の受け取りは駐車した車の窓越しに行われる(カーブサイド・ピックアップ)状況で、経済活動はほとんど再開していない。大統領選挙の焦点のひとつであるミシガン州は、外出禁止令を6月12日まで延長したが、5月18日からは自動車生産の再開を認めた。なお、本稿ではstay-at-home order を「外出禁止令」としたが、外出禁止令は不要不急の外出を厳格に禁止し、違反すれば罰金なども科され、ロックダウン(都市封鎖)に通じる対策である。
(2)経済活動を再開した37州
50州のうち上記(1)の13州を除く37州は、すべて経済活動を再開した。4月中に再開した州は9州(共和党知事7、民主党知事2)、5月中に再開した州は20州(同9、11)、外出禁止令を出していない州が8州(すべて共和党知事、後述)である。アラスカ州は外出禁止令を最も早く解除し、飲食店を全米で最も早く再開した。テキサス州、ジョージア州、メリーランド州も経済活動の再開に極めて積極的である。これらはすべて共和党知事州である。
表2 経済活動を再開した37州の一部
なお、11月の大統領選挙で焦点のひとつとなっているウイスコンシン州では、民主党知事が外出禁止令を5月26日まで延長する予定だったが、共和党多数の州議会が反対し、州最高裁の票決により知事の延長方針は却下され、5月13日で外出禁止令は解除された。しかし、同州では再開業種は限られており、州知事は経済再開に慎重な姿勢を続けている。
これら37州では、ウイルス感染者や死者が少ない州もあるが、マサチューセッツ、コネチカット、メリーランド、ルイジアナといった各州は感染者も死者も多いだけに、今後の感染の収束状況が注目される。表2は、37州のうち特徴的な14州を外出禁止令解除日順に挙げた。
(3)外出禁止令を出していない8州
西部山岳地帯のワイオミング、ユタ、中西部のノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカ、アイオワ、南部のオクラホマ、アーカンソーの8州は、州知事が外出禁止令を出していない。知事はすべて共和党で、感染者も死者も少ないが(10万人当たりの感染者が最も多いのはネブラスカ州の706人、死者はアイオワ州の17人)、ソルトレークやデモインのような大都市もある。しかし、外出禁止令が出されなくとも、経済活動は一部閉鎖されていたようで、多くの州では5月1日からビジネスを再開している。
なお、上記(1)~(3)のほぼすべての州に共通しているが、外出禁止令の有無にかかわらず、K-12までの小中高の学校は、6月までの今学期がすべて休校となった。ただし、モンタナ州は少ない例外のひとつで、5月7日から地域によって学校の再開が選択できるようになった。また、前述のファウチ国立アレルギー感染症研究所長は、「経済再開によって再び感染爆発が起これば、経済の再生自体が危うくなる」とし、トランプ大統領とは考え方を異にしている。
〔注〕
1. CDC COVID Data Trackerによる。連邦機関であるCDC(疾病予防管理センター)は2020年1月21日から米国の各州および属領からCDC本部に報告されたウイルス感染データを毎日発表している。
2. ガイドライン発表後、米国北東部、中西部、西部の各州知事は相互に協議し、調整して経済再開の手順を決めるとしたが、結局は地域内の調整が成果を挙げたとは言い難い。
3. 各州の外出禁止令の発令、解除、再開業種と日程などは、主にニューヨーク・タイムズに拠った。ウエッブ版のニューヨーク・タイムズは「50 州の再開状況」(See How All 50 States Are Reopening)と題して、各州と首都の最新状況を連日更新し、図表付きで詳細に報じている。
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