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2023/02/24 No.517自動車産業の大変革期を迎え、日産・ルノー・三菱自は勝ち残れるか― 急速なEV化が日仏企業連合の提携関係の転換を促す-

田中友義
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

日産・ルノー、懸案の対等出資に合意、相互15%保有

日産・ルノー・三菱自動車の3社連合は本年2月6日、3社の首脳がロンドンで共同記者会見して、仏自動車大手ルノーが保有する日産自動車株比率引き下げやルノーが近々設立する電気自動車(以下、EV)新会社「アンペア(仮称)」への出資などで合意したと発表した。1999年に始まった日産・ルノー連合の資本関係は四半世紀を経て新たな段階を迎えることになった。

日産・ルノー連合の歴史は1999年3月に遡る。当時、2兆円超の有利子負債を抱えて深刻な経営危機に陥っていた日産にグローバル化を推進するルノーが6,000億円超を投じて日産株を37%取得(現在43.4%)するなど資本提携を強化し、事実上ルノーの傘下に入って、日産の経営立て直しを支援することが合意された。

日仏連合の資本関係は、現在ルノーが日産株43.4%、日産がルノー株15%をそれぞれ保有する。また、フランス政府もルノー株15%を保有する筆頭株主である。なお、日産は2016年、燃費不正問題で経営が悪化した三菱自動車に出資、三菱自動車株34%を保有したので、3社連合となった。ただ、フランスの法律によって、40%以上の出資を受け入れる子会社の日産は、親会社のルノー株15%を保有していても議決権がなく、ルノーが主導権を握る資本関係が長年維持されてきた。

ルノーが日産を救済するために多額の出資をした1999年の両社の企業業績を見てみると(ルノー12月期、日産3月期)、売上高、連結最終損益、販売台数は、ルノーが375億ユーロ(約4兆5,000億円)、5億3,400万ユーロ(約650億円)の純益、230万台に対して、日産は5兆9,770億円、6,843億円の損益、241万台となっていた。

ルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)(当時)は、完成車や部品など5工場を閉鎖するといったドラスチックな「日産リバイバルプラン」などの経営再建策を断行した。V型回復を果たした日産は2年後の2001年3月期に連結最終損益で3,310億円と過去最高益を達成、息を吹き返した。近年は日産が売上高、連結最終損益、販売台数でルノーを大きく上回るようになった。2021年の事業実績は、売上高、連結最終損益、販売台数がそれぞれルノーが462億ユーロ(約6兆円)、8億8,000万ユーロ(約1,100億円)の純益、269万台に対して、日産が8兆4,245億円、2,155億円の純益、387万台となっている。

今や、事業規模で日産はルノーを上回り、持ち分法利益や配当金の形で日産がルノーの業績を支えるなど、両社の関係は逆転しているものの、資本関係が長年不平等な状況にあることを問題視する声が日産側で根強かった。2019年には15%のルノー株を保有の筆頭株主である仏政府の意向(エマニュエル・マクロン大統領)を受けたルノーが日産へ経営統合を提案したが、日産側が強く反発したため、撤回された経緯がある。

提携関係の合意内容、出資比率・EV新会社・新規事業が戦略の柱

日産・ルノー・三菱自動車の3社連合の今後の提携関係について、2月6日の共同声明で明らかになった合意内容は別表のとおりである(注1)。日産・ルノー連合の資本関係(事業効率の向上)、EV新会社「アンペア」設立(戦略的な機敏性の向上)、新規の事業展開(連携の再構築)の3つの領域が合意の主要部分である。

まず、日産・ルノー連合の資本関係については、議決権の平等化による連携強化を目指す。具体的には、ルノーが保有する日産株43.4%のうち28.4%をフランスの信託会社に移す。信託分を売却した後、最終的には両社は15%の株式を相互に保有し、それぞれ15%まで議決権を自由に行使できる。日産にとってルノーとの資本関係の平等化は20数年来の悲願であったことから、日産・ルノー連合は大きな転機を迎えることになる。

次に、ルノーが設立するEV新会社(アンペア、仮称)についての合意である。3社連合が成長戦略の柱に据えるのがEV化である。日産は最大限15%出資する意向である。これによって、日産の欧州市場でのビジネスチャンスと新規事業が期待されるとしている。三菱自動車も出資を検討する意向である。新会社に米半導体大手クアルコムが出資するほか、米IT大手グーグルとの協業を進める見通しである。

日産・三菱自動車は、ルノーが設立する低排ガスエンジン・駆動装置新会社(ホース、仮称)への出資はしないが、エンジンの供給を受ける方針である。中国自動車大手の浙江吉利控股集団が出資する見通しである。

3社連合は、次世代電池として期待される全固定電池、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転などの分野での協業を推進する。

連携強化の3つ目の分野は新事業の展開、特に、今後成長が期待されるインドや中南米などの新興国およびEV化が急速に進む欧州市場での次世代型EVや新型車プロジェクトなどの推進である。中南米で4プロジェクト、インドで2プロジェクト、欧州で5プロジェクトが検討されている。

折しも、日産・ルノー連合は本年2月13日、インドのタミル・ナドゥ州政府との間で新たな投資に関する覚書を締結、インドで初のEV生産計画を開始すると発表した(注2)。

表 日仏企業連合の主要な合意内容

出所:日産プレスリリース(2023/02/06)から抜粋

合意の背景と今後の見通し

百年に一度といわれる世界の自動車産業は大きな転換期にあり、熾烈なEV化競争の渦中、勝ち残るのは容易なことではない。

経営不振に苦しむルノーは2022年2月、EV事業を分社させる構想を打ち出し、同年5月に日産・三菱自動車にEV新会社への参画を求めてきたことが提携関係の見直しの交渉の契機となった。ルノーは、欧州で急速に進むEVシフトへの待ったなしの対応に迫られていた。欧州自動車市場でのEV販売シェアは2018年に日産が第1位(20.3%)、ルノーが第2位(19.3%)であった。しかし、最大手の独フォルクスワーゲンや、新興勢力の米テスラに押されて、2022年はルノー(9.23%)、日産(2.16%)ともに第5位以下に落ち込んでしまった。劣勢から反転攻勢をかけるには、経営資源をEV分野に集中する必要がある。それには日産のEV技術と資金が欠かせない。

両社の交渉は「資本関係の見直し」と「EV新会社への出資」をパッケージにして本格化した。交渉の最大の障害となったのが、日産がルノーと共同開発したEV関連の知的財産の第三者(クアルコム、グーグルなど)への流出を懸念したことである。最終的には、ルノーが知的財産の利用を制限するという譲歩案を提案し、両社は折り合った。

ルノーの筆頭株主であるフランス政府がルノーの日産への支配力低下(資本関係の平等化)を容認した背景には、EV化競争を勝ち抜くには日産との協力が不可欠との認識があった。ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、経営不振に陥っているルノーがEV開発競争から脱落し、大幅な人員削減など雇用へ影響しかねないことを恐れたとみられる。2023年1月、マクロン大統領は日仏首脳会議の場で、資本比率の見直しを支持することを表明した。日産・ルノー・三菱自動車は、今回の合意に法的拘束力を持たせる「企業連合(アライアンス)契約」を本年3月末までに締結する予定である。

今後の課題は、連合の再定義である。日産・ルノーは、これまで自動車産業のグローバル化の進展と相まって、「規模の経済」を最大の目標にして、車台の共同開発や部品の共同購買などを進めて、コスト体質の強化を追い求めてきた。今後は規模の経済に代わって、技術開発能力が競争力の決め手になるだろう。日仏連合が生き残るためには、巨額の電動化投資やソフトウェア競争への備えを加速する必要があろう。

1. 日産自動車プレスリリース(2023/02/06)
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/release-68e713c2b2ade440f89b7fbd8906c248-230206-01-j

2. ジェトロビジネス短信(インド、日本、フランス)日産自動車とルノー、インドで初となるEV生産開始を発表(2023/02/15)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/02/263ff3494bc92253.html

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