一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

Menu

フラッシュ

2024/05/02 No.530ラオス南部、チャンパサク経済特区の現状~コロナ禍後のラオスの経済特区(その2)~

藤村学
青山学院大学教授

ラオス南部の中心都市パクセはタイ、カンボジア、ベトナムの3か国に通じる要衝の地である。そこにはチャンパサク経済特区(以下、SEZ)があり、傘下に複数のSEZを抱えている。また、ラオス南部のボラベン高原では、コーヒーなどの大規模農園が点在し、日系アグロビジネスも進出している。本稿では2023年9月にラオス南部で視察したこれらの現状を紹介する。聞き手は大木博巳ITI研究主幹。

Q. パクセにあるSEZはチャンパサクSEZと呼ばれています。

A. ジェトロ・ビエンチャン事務所がラオスSEZ国家委員会の情報からまとめた資料によると、チャンパサク県内に、①ワンタオ・ボートング(253ha)、②チャンパーナコーン(58.3ha)、③チャンパサク・ラオ・サービス(800ha)、④パクセ・ジャパン日系中小企業専用(195ha)、⑤シーパンドーン(面積不明、現地英字紙ではSiphandoneともSithandoneとも報道されており正式名が不明。(以下、Siphandone)の5か所が特定経済特区(Specific Economic Zone)に指定されており、これらを総称してチャッムパサックSEZと呼んでいるようです。ラオスの他のSEZはそれぞれ単独でSpecialかSpecificのどちらかのSEZの名前が付いていますが、チャンパサク県ではこのような階層構造になっています。以上の5か所のSEZのうち、2023年9月の現地出張では④、①、⑤の順に3か所を視察しました。

パクセ市とその周辺

出所:OpenStreetMap上に藤村作成

Q. Pakse-Japan SME SEZ(パクセ・ジャパン中小企業経済特区)には日本という名前がついています。

A. ラオスで日系企業がある程度集積している工業団地系SEZは4か所挙げられ、首都ビエンチャン近郊のVITA ParkとサイセタSEZ、中部サワナケート県のサワンセノSEZ、そしてこのPakse-Japan SME SEZです。ちなみに2023年12月、東京の投資セミナーでラオス計画投資省SEZ推進管理局次長が公表した資料では、国内21か所のSEZに地場企業も含め1,350社が投資しており、6万8,483人の雇用を創出しているといいます。そのうち日系企業は39社で、国籍別では中国(757社)、ラオス(118社)、タイ(56社)などに続きます。

Pakse-Japan SME SEZの開発・運営会社の出資者は、ラオス国家経済特区委員会(首相府直轄)・チャンパサク経済特区委員会(30%)、サイサナグループ(30%)、サワンTVSコンサルタント(20%)、西松建設(20%)という構成です。サイサナとサワンTVSは1999年ごろから西松建設のチャンパサク県における地場パートナーであり、西松建設が同SEZの経営を任せられたという経緯があります。

同SEZの事業内容は①30年間の土地使用権の販売、②レンタル工場の賃貸、③レンタルオフィスの賃貸、④各種申請手続きサポート、ほかです。開発面積は既存の第1期開発66haに続いて数期にわけて開発し、全体では195haになります。

Pakse-Japan SME SEZ事務所棟
(藤村撮影2023年9月6日)

Q.ラオス経済全体がコロナ禍で大きな打撃を受けたなか、同SEZも例外ではなかったようですが。

A. 2023年9月時点のヒアリングでは以下のような状況だとうかがいました。

  • コロナによって入居企業は操業率を落とし、日本人幹部も帰国していたが、2022年8月くらいから操業を再開している。ただし、コロナ前には日本人がパクセに8人駐在していたが、コロナ期にある程度リモート管理が可能となったこともあり、日本人は3人に減った。
  • 入居日系企業はコロナ期間にワーカーをおおむね4分の1に減らしてしのいでいた。コロナ明けの今年に操業再拡大しようとしているが、ラオス人労働者の多くが出稼ぎに出てしまって戻らないという問題に直面している。
  • SEZ全体でコロナ前に3,000人ほどが働いていたが、コロナ明けに操業再開した現在でも2,000人ほどに減った。レンタル工場の労働者向け食堂(カンティーン)は休止したまま。
  • 2023年9月現在の同SEZ入居企業は以下の通りです。

Pakse-Japan SME SEZ入居企業一覧(2023年9月現在)

出所:Pakse-Japan SME SEZ作成資料より抜粋

Q.労働者の確保に苦労している一方で、賃金が上がっているようです。

A.ワーカー募集は口コミのほか、フェイスブックなどSNSを使い、事務職系は人材マッチングサイトを使っているという話です。地元のチャンパサク大学などは、高校卒業後、2~3年のプログラムでディプロマを出すそうで、そうした人材は貴重なようです。

ラオスの最低賃金は物価高騰と通貨急落に伴ってキープ建てでは上がっています。2022年11月の月額112万キープから23年5月に130万キープ、さらに10月には160万キープとなりました。ところがこの増額を相殺する以上のキープの対ドルレートが急落し、ドル換算では最低賃金が以前の月額120ドルから80ドル程度に下がりました。輸入必需品の高騰により平均的ラオス人家計の生活は苦しくなり、国外で少なくとも2年以上出稼ぎして家計を支える必要があるといったケースが増えたようです。そこで日系企業も従業員確保のためすでに月額170万キープ程度(ビエンチャンでは200万キープ程度)に賃上げしているとのことです。

Q. パクセから西方向42kmに位置するワンタオ国境の手前約2km地点にドライポートが完成し、そこを中心に新SEZを開発中です。その現状は?

A.西松建設駐在員の方のご厚意・仲介によってドライポート事務所を訪問・ヒアリングしました。

2015年にワンタオ国境のSEZに関するフィージビリティ・スタディ(F/S)が実施された後、JICAがラオスの8か所の国境についてドライポート設置のF/Sを実施しました。その対象にワンタオ国境が含まれていました。ワンタオでのドライポート建設は、タナレン(ビエンチャン郊外)とセノ(サワン・セノSEZの一部)に次いで3か所目です。

その後、2016年5月に国営Lao Logistics State Enterprise (30%)と民間のDuangdy Bridge and Road Construction Company (70%)が出資し、Vangtao-Phonthong SEZ設立で合意しました。政府から253haの土地に99年間の開発権を得て、2.5億ドルを投じて開発する計画です。マスタープランには免税店、駐車場、物流ステーション、産業廃棄物処理場、不動産開発などが含まれます。2016~20年のフェーズ1、21~25年のフェーズ2、26~30年のフェーズ3に分かれ、フェーズ3には工業団地整備が含まれます。

ドライポートは2022年、SEZ敷地内の一部22haに完成しました。2023年9月の訪問時は稼働開始後3年目で、雇用規模はオフィスで働く100人強と、現場作業員が約300人とのことです。

コロナ禍前は、SEZ内に計画する免税店その他の商業施設などの投資に関心を持つ投資家が来訪していましたが、コロナ禍中は途絶えたと聞きました。SEZフェーズ3の具体的内容は決まっておらず、来訪投資家の問い合わせ相談を受けている段階とのことです。

Q. 国境ゲートの様子とドライポートを通過する越境物流の動きは?

A.ビエンチャンのタナレンのドライポートと同様に、タイのトラックやトレーラーが国境を越えてラオス国内に入ったあと、ドライポートで貨物を積み替える必要があります。コンテナ貨物はドライポートでトレーラーヘッドをスイッチし、ラオスの物流会社・ラオス人ドライバーに切り替えます。ただし、石油、ガス、風力発電用機材などの特殊貨物は例外だとのことです。

越境貨物については、コロナ禍期間は減ったものの、ドライポートは運営継続できたといいます。現在は物流量が回復してきたものの、コロナ前よりはまだ少ないそうです。タイへの輸出は野菜(タピオカ、キャッサバ、キャベツなど)やバナナの貨物量が安定しています。輸入は建設資材、ガソリン、飼料、肥料、薬、日用品などです。

最近の新しい貨物としては、木質ペレット(九電みらいエナジーが出資するチャンパサク県立地の企業が生産)の輸出と、風力発電用タービン(三菱商事とタイ企業が出資する企業がセコン・アタプー県に建設中の風力発電所向け)の輸入などが挙げられるとのことです。

ワンタオ国境ゲートは、2018年3月にここからタイへ越境するときに訪れた時と比べ、変化が見られました。まず、前回訪問時に建設中だったイミグレ施設が完成しています。古いイミグレ施設が使用中止のまま放置され、その周辺が行商人たちの即席路上マーケットになっています。一方、国境手前約600mにある屋根付きのマーケット(ワンタオ市場)は前回訪問時と変わらない様子です。

パクセ~ワンタオ(ラオス側)・チョンメク(タイ側)国境

出所:OpenStreetMap上に藤村作成
(藤村撮影2023年9月6日)

Q.パクセから東方向のベトナム国境へ向かう国道16号線沿いは、ボラベン高原で獲れるコーヒーや野菜、果物の物流ルートとなっています。

A. ベトナム南部のチャンパサク県、セコン県、アタプー県にまたがる面積約5,800km2のボラベン高原は、標高1,200mの台地が広がり、一年中冷涼な気候で、雨量は3,000mmを超え、様々な農作物の栽培に適しています。伝統的にコーヒー栽培が盛んですが、近年はビエンチャン方面やパクセを経由してタイへ輸出される野菜や果物の栽培へと多様化してきました。

パクセ市東部で13号線から16号線に入るとすぐ右手にダオフアン(免税店運営で知られる)のコーヒー工場が見えてきます。以前得た情報では、この工場には2棟あり、1棟ではインスタントコーヒーを、もう1棟ではドライフルーツなどを製造しているということです。16号線沿線の農家の庭では、コーヒー、ドリアン、アボカドなどを栽培しています。今回視察時は道路沿いの軒先でドリアンを売る農家を多く見かけました。

(藤村撮影2023年9月7日)

パクセから約50km東へ走ると、ボラベン産農産物の集散地であるパクソンに着きます。パクソンへ向かう途中の沿線では、農家がキャベツを集荷して小型トラックに詰め込んだり、韓国製Daehanトラックがキャベツをパクセ方面に運んだりしているところを見ました。キャベツは本来冬に収穫されますが、ボラベン高原は標高が高いので、1年を通して収穫されます

パクソン近くにはSinouk Coffee Resort、Thaten Farm Resortといった地場コーヒービジネスによる行楽地があります。また、中国支援の農業試験場やタイ資本のアグロビジネスの拠点もあります。例えばラオス-タイ合弁のAGRO VEGE Farmではビニールハウスで野菜を栽培しています。パクソン中心部から約5km東にはタイ・ベトナム・ラオス資本の合弁会社Paksong Highland社の現地最大のプランテーション(標高1294m)の拠点があり、訪問者用のカフェ兼展望スポットを設営しています。

Q.ボラベン高原では「イノチオ農場Inochio Farm」を訪問しました。

A. パクソンから16号線沿いに北東へ約30km走るとセコン県に入り、さらに約10km走るとターテン(Thaten)の町に入り、東へ走る16号線と北上してサラワン県方向の20号線つながる分岐点があります。その分岐点から北方向約12kmの地点にイノチオ農場があります。標高600mの土地で62haの圃場を運営しています。ヒアリング概要は以下の通りです。

  • 日本本社は愛知県豊橋市のイノチオHD。ラオス側パートナーは地場KPグループで、ラオスでは多くの日本企業の現地パートナーとなっている。
  • 訪問時点で圃場栽培していたのはサツマイモとバタフライピー(染色、化粧品材料など用途は多様)。
  • 管理職スタッフは日本人1名とラオス人3名。ワーカーは一日平均で60人程度を雇用するが、コーヒー、キャッサバ、ゴム、自宅のコメ栽培など、他の収入機会と競合するため、固定したワーカーが毎日出勤してくることを期待できない。
  • サツマイモについて:日本では夏から冬にかけて年1回の収穫しかできないが、ここは気候の変化が少ないため、植え付けから収穫まで平均128日と連作が可能。圃場を2~3haずつに区切り、毎月植え付け・収穫のローテーションを組んで連作を試しているところ。
  • 焼き芋用の「紅はるか」ブランドのサツマイモがシンガポールでは1kgあたり12ドル(1,800円)、バンコクでは同399バーツ(1,600円)というように高級食材の地位を得ていることから、ラオス産サツマイモの参入機会があるとみている。バンコク圏へ輸送するとすれば陸路でワンタオ・チョンメク国境を経て3~4日かかる。
(藤村撮影2023年9月7日)

Q.イノチオ農場からさらに東へ走り、セコン橋まで行きました。

A. ターテンの分岐点へ戻り、16号線を東方向へ約40km走るとセコン県の県都にあたるラマーム郡に入ります。同郡の北部で東方向の16B号線と南方向の11号線に分岐しており、その分岐点から16B号線を進んだ約5km地点にセコン橋があります。西方向ではタイとのワンタオ国境から179km、パクセから135km、パクソンから85km、東方向ではベトナムとのダクタオーク国境(2020年開設)から約100kmという立地です。

セコン橋(Laos-Japan Friendship Bridge)は日本の無償資金協力(約22億円)で2014年11月に起工し、2017年3月に完工し、長さは300mです。

(藤村撮影2023年9月7日)

セコン橋からそのまま国境へ続く16B号線をしばらく走ったところ路面はスムーズでした。今回国境まで行く余裕がありませんでしたが、同様の舗装状態のまま約2時間で着くようです。

セコン橋から数キロ先に見つけた自営運送業の家計で聞き取りしたところ、ベトナム方面との越境物流はまだ活発ではないが、将来的に活発化することを期待しているそうです。ただ、ダナンからの国際バスはパクセまで運行しているものの、乗客はほとんどベトナム人だそうです。反対方向でベトナムに行くラオス人はほとんどいないとのことです。国境に小さなマーケットがあるそうです。

筆者が2018年3月に開通まもないこの橋を訪れたときは、ダナン~セコン~パクソン~パクセ~ウボンラチャタニと、ベトナム・ラオス・タイ3か国を斜めに横切る「東西経済回廊サブ回廊」とも呼ぶべきルートが物流を担って発展していくのではないかと期待しましたが、コロナ禍の影響が大きいのか、今回の視察で、このルートの物流はまだほとんどないことを確認しました。

ちなみに、ラオスとベトナムは2,000km超の長い国境で接しており、陸路の国際国境はダクタオーク国境を加えて9か所(下表)となります。ラオス経済が順調に発展できれば、長期的には東西方向のサブ経済回廊が組み合わさり、碁盤の目のようなネットワークになるのかもしれません。

ラオスとベトナムの国際国境

出所:ジェトロビジネス短信2020年2月18日付
「ラオス南部ダクダオーク国際国境が近くオープン、ベトナム・ダナンの結節点に期待」の付表を藤村編集

潜在的な東西経済回廊サブ回廊

出所:OpenStreetMap上に藤村作成

Q. シーパンドーンSEZは、捉えどころがない経済特区でした。
 
A. チャンパサク県南端に位置するシーパンドーンSEZの正確な地理的情報は把握できていません。2021年3~5月時点の現地英字紙Vientiane Timesの報道からは、同SEZは、2018年6月、9,848haのエリアを対象に、香港拠点の企業が80%、ラオス政府が20%を出資する合弁会社が99年の開発権を得たということです。計画投資額は90億ドル規模、うちインフラ投資が13億ドル規模と報道されています。コーン島(ドン・コーンDone Kong)~デット島(Det島)~Khon島~カンボジア国境にわたる広範な地域が対象のようです。工業団地型ではなく、リゾート型住宅投資などが中心のようです。四川省~パクセの直行便が出ており、中国人観光客誘致を狙っているとみられます。

13S号線から西へそれてコーン島へ渡す中国援助によるメコン川架橋があります。説明パネルを読むと、2011年に着工し、2014年に完工したとあります。これほど早期にラオス最南端に中国援助による橋ができていたことには驚きました。

この橋を通ってコーン島へ渡ったすぐの地点に漢字表記の説明版があり、以下のような内容でした。

  • 開発企業:四千美島総合開発有限公司Sithandone Joint Development Co., Ltd. (SJD)
  • 工程名称:占巴塞省孟孔県孔島珠島路道路与橋梁工程
  • 監理単位:合肥市工程建設管理有限公司
  • 監督単位:四千美島総合開発有限公司
  • 建設面積:246,000m2(24.6ha) 
  • 工程造[人介]: 1,000万美元 
  • 項目工期:730天

上述の英字報道の一部に、“SJD has already built 21 villas in the resort complex,…, 43.5km concrete road around the perimeter of Don Khong island…”とあります。中国援助の架橋完成後少なくとも4年以上経過したのち、おそらくコロナ禍前までに、コーン島の周縁道路が整備されたという経緯のようです。建設工事を担ったのは中国企業であろうと推測されます。同行通訳氏によれば、島内に飛行場をつくる計画もあるといいます。

(藤村撮影2023年9月8日)

13S号線沿いに「四千美島・美思高尔夫度假村Four Thousand Islands Mels Golf Resort」と書いたゲートを見ました。中国資本によるゴルフリゾート開発と推測されます。その少し先(南方向)には「Southern Construction Co.」と書いたゲートがぽつんと立っていました。門の先には未舗装道路しか見えず、コロナ禍で開発を中断しているのかもしれません。

(藤村撮影2023年9月8日)

ラオス南部の目玉観光スポットであるコーンパペンの滝もシーパンドーンSEZの中にあります。この滝は、カンボジア国境から約5km、パクセ市内から152kmのところにあります。ちなみに滝園の入場料は1人3万キープ(10年前と同じでした)と良心的です。入り口の説明版には世界の10大瀑布が紹介されています。コーンパペンは滝つぼの高さでは21mと第9位ですが、流量は毎秒1.1万㎥と断トツ1位です。

(藤村撮影2023年9月8日)

パクセ~ノンノクキャン(ラオス)=トロペアンクリル(カンボジア)国境

出所:OpenStreetMap上に藤村作成

競輪の補助事業 このレポートは、競輪の補助により作成しました。
https://jka-cycle.jp

フラッシュ一覧に戻る