一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

Menu

フラッシュ

2024/08/15 No.533民主党は、ハリス候補で11月の大統領選挙に勝利できるのか~「中道派」バイデンの撤退と「左派」ハリスの登場~

木村誠
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

はじめに

2024年11月の大統領選挙まで残り3か月を切ったが、民主党、共和党の正副大統領候補が8月に入りようやく出そろった。民主党ではジョー・バイデン大統領(以下、バイデン)が大統領候補を決める党大会直前の7月21日に再選に向けての選挙戦から撤退を表明し、急遽大統領候補を副大統領のカマラ・ハリスに差し替えた。さらにハリスは自身の副大統領候補に激戦州の知事や上院議員ではなく、民主党の無風地帯ミネソタ州のティム・ウォルツ知事を指名した。他方、共和党では7月13日ドナルド・トランプ前大統領が遊説先で狙撃され負傷するという衝撃的な事件が起きた。これまで共和党内穏健派から異端視されていたトランプの下で党が一致団結し、さらに副大統領候補に白人貧困層出身でラストベルトの労働者の怒りや価値観を知り尽くしたジェームス・バンス上院議員を迎えて選挙戦を再スタートさせた。ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は、今年年初に発表した世界の10大リスクのトップに「米国の分断」を掲げたが、その米国の分断劇は民主党ではプレーヤーの直前の交代、共和党では遊説中のトランプ候補暗殺未遂事件もあり、一気に注目度が増している。本稿では、バイデン撤退が何故遅れたのか、ワシントンの政界における長老支配の実態、トリプル・レッドを危惧する民主党議員の危機感、11月の大統領選挙に向けてのハリス候補の勝算を分析する。

バイデン撤退表明で活気づく民主党左派

バイデンは7月21日全米向け演説で今年11月の大統領選挙からの撤退を表明した。バイデンは、トランプ候補(以下、トランプ)との6月のTV討論会以降、高齢と健康不安から支持率を下げてきたが、「前進するための最善の方法は、新しい世代にバトンを渡すことだ。それが私たちの国を団結させる最善の方法だ」と決断した。バイデンが自身の後継としてあげた副大統領カマラ・ハリスが、オンライン形式の投票で代議員の99%の支持を獲得した結果、8月19日からイリノイ州シカゴで開かれる民主党大会で正式に党の大統領候補に指名される。

8月12日付けのReal Clear Politics(注1)によると、各種世論調査の平均値でハリス候補(以下、ハリス)の支持率は47.6%とトランプの47.1%を0.5ポイントながら上回っている。バイデンの撤退表明以降、ハリスの支持率は急上昇しており、トランプとの差は世論調査の標準誤差の範囲内でほぼ拮抗している。Rasmussenの世論調査ではトランプとの差はまだ5ポイントの開きがあるが、Morning Consultの調査ではトランプを4ポイント引き離している。足元でのハリスの支持率急上昇については、共和党は「80歳代のバイデンから50歳代の黒人女性候補ハリスへ世代交代したことで、民主党支持者が『一時的な興奮状態(sugar high)』にあるに過ぎず、ハリスのこれまでの実績のなさ、指導力の欠如などが周知されていくとやがて失速する」見ている。

7月21日バイデンの選挙戦撤退表明から始まった「ハリス劇場」は、8月に入ると予備選で選ばれた代議員によるオンライン投票、その後のハリスによる副大統領候補の指名、さらに8月19日からの党大会開催と政策綱領発表と、1か月にわたって続く。暗殺未遂事件の僅か2日後には党大会での正副大統領候補の指名と政策綱領発表が行われた「トランプ劇場」と比べて、間合いが長く、それだけハリス陣営はメディアの注目をうまく集めている。

バイデンが世論調査でトランプの後塵を拝していたのは、2023年秋からで、今に始まったことではない。バイデン劣勢の要因はひとえに経済政策の失敗にある。米労働省が2024年8月2日発表した7月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は事前予想を大きく下回り、失業率は2021年9月以来約3年ぶりの高水準となる4.3%に上昇した。これを受けて労働市場の悪化や景気後退への懸念が足元で高まっているが、長期に政策金利を高止まりさせてきたFRB(連邦準備制度理事会)が景気をオーバーキルしているとみる向きもある。

ビル・クリントン元大統領(民主党)は大統領選に出馬した1992年に、湾岸戦争での勝利を誇らしげに語る当時の共和党大統領ジョージ・ブッシュ(父)に対して、”It’s the economy, stupid”(「経済こそが重要なのだ、愚か者」)と非難し、世論の風向きを急速に変えた。秋の大統領選挙に向けて、トランプ・バンス陣営は、バイデン・ハリス政権の経済政策の失敗に加えて、国境管理の不備を攻撃してくるとみられる。米国民の8割はバイデン・ハリス政権の不法移民対策を評価していない。とくにハリスは、副大統領として移民・国境管理を担当しながら、就任後半年間も米墨国境地域を訪問しなかったことを中立系のメディアからも非難されている。また上院議員時代は、非合法移民の若者のさらなる保護を求めて活動し、移民収容施設の管理改善を訴えていた。

このように現職の副大統領が大統領選挙に出馬する場合、時の政権の評価が低いと、これが選挙戦の足かせとなりやすい。クリントン大統領の下で副大統領を務めたアル・ゴアは、現職副大統領としてのハンディを背負い、共和党候補のジョージ・ブッシュ(子)に競り負けている。このため、ハリスは今回の選挙戦をバイデン・ハリス政権のこれまでの実績を問う戦いではなく、どのような社会をこれから構築していくのかという未来志向にたち、またトランプが直面する数多くの重罪に対するいわば「国民投票」と位置づけようとしている。理由は明白だ。「バイデン政権の実績やそこにおけるハリスの役割が争点になったら、恐らくハリスは負ける」(7月27日付けThe Economist)とみられているからである。

カリフォルニア州司法長官(検事総長)だったハリスが人口妊娠中絶の権利に否定的な共和党の姿勢や、トランプの重罪を糾弾するという構図は、民主党にとっては都合が良い。民主党左派のエリザベス・ウォーレン上院議員は、「現在、有罪判決を受けた重罪犯が共和党候補の先頭に立っている。彼に対抗するには元検察官のハリス以上の適任者はいない」と評している。

ワシントンの政界に淀む長老支配

バイデンが選挙戦から撤退するのが党大会直前まで遅れたことで、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムなど民主党の次の世代のリーダーが選挙戦に出馬する機会を失った。バイデンは何故2期目再選に固執していたのか?バイデンに代わる民主党候補者が何故名乗りをあげてこなかったのか?民主党はなぜこれまでバイデンの「暴走」を止められなかったのか?

理由の1点目は、首都ワシントンの政界に淀む長老支配(gerontocracy)である。アメリカ人の平均寿命は76歳で近年低下気味であり、日本人の84歳を大きく下回る。一時期の新型コロナウイルス感染症の感染拡大や薬物の過剰摂取などが米国人の平均寿命の低下に影響しているといわれている。そうしたなかで、バイデン大統領は81歳と高齢である。原則定年制がない米国では、様々な分野で高齢者が就業している。

ワシントンの政界に限定してみても、80歳を超える上院議員は、チャック・グラスリー(共和党、アイオワ州 90歳)、バーニー・サンダース(無所属、バーモント州 82歳)、ミッチ-・マコーネル(共和党、ケンタッキー州 82歳)など5人いる。マコーネルは共和党ナンバー2の上院院内総務を24年11月に退任するとしているが、議員活動は27年1月の任期満了まで続けると表明している。共和党の最長老グラスリー上院議員は23年に再選され今年で90歳になったが、引退の予定はない。無所属(民主党と会派)のサンダース上院議員は82歳で、彼も引退についてはまったく言及していない。1992年11月から31年間上院議員を務めたダイアン・ファインスタイン(民主党、カリフォルニア州)は、23年2月、翌年の選挙には出馬しないと表明したが、残りの任期途中での引退は拒み続け、同年9月に現職のまま90歳の高齢で死去した。

一方、下院議員では87歳のグレース・ナポリターノ(民主党、カリフォルニア州)を筆頭に80歳以上が16人いる。ナンシー・ペロシ下院議員(民主党 カリフォルニア州 84歳)は、2022年の下院選挙で民主党が多数派を失い、下院議長(大統領継承順位3位)をおりたが、引き続き議員活動は継続するとしている。日本で自由民主党が「衆議院比例代表候補の73歳定年制」を設けているのと比べ対照的で、米国では政界の高齢化が顕著だ。つまり81歳のバイデンにとってみれば、周りには自分の同世代や先輩たちが今なお現役で活躍している。何故今自分が退かなければならないのか、という認識だったろう。

バイデンが再選に固執した2点目の理由は、自分への過信である。心理学者のゲール・サハール(マサチューセッツ州ウィートン・カレッジ)(注2)は、バイデンが選挙戦から撤退を拒んだのは「認知性バイアス」(cognitive biases)が強くでていたためではないかと指摘している。特に高齢者は往々にして、自分の過去の実績を過大評価し、今後深刻な事態や事故に陥る可能性を過少評価しがちである。高齢の親からそろそろ車のキーを取り上げようと子供たちが思っていても、自分はまだまだしっかり運転できると親が言い張るのは、その一例で、この点は米国でも同じだ。バイデンは6月のトランプとの初のTV討論会直後、その場にいた記者に「討論はうまくいったと思う」と語った。さらに7月5日ABCテレビとのインタビューでバイデンは「トランプに勝つのに、私ほど適任者はいない」と答えていた。

数年前、連邦議会議事堂内の薬局の薬剤師が、議員のためにアルツハイマー病の薬を処方していることを明らかにして、話題になった。議員に定年制(Age Limits)を設けることは年齢差別的で恣意的だと考える人もいるため、共和党のニッキー・ヘイリー(元国連大使、元サウスカロライナ州知事)は、「ホワイトハウスは納税者が助成する老人ホームではない。バイデンには大統領として業務を務めるだけのメンタル面での能力が欠けている」として、75歳以上の選挙で選ばれた政治家にはメンタルテスト(mental competency tests)を義務付けることを求めていた。またバイデンの健康不安についても、副大統領時代のバイデンによる機密文書の不適切な取扱いを捜査していたロバート・ハー特別検察官は、バイデンがすでに「記憶力が衰えた高齢男性」であることを理由に2024年2月訴追を見送っている。

インフレや貯蓄不足のために退職する余裕がないという人たちと異なり、裕福で高齢の政治家たちが老いに抗い議席にしがみつくのには理由がある。一つは政治家としての使命感に燃えていること、或いは世界の超大国の首都ワシントンの政界に身をおくことがいわば「生きがい」になっていること、さらには「この仕事ができるのは自分しかいない」、と過信していることなど様々だ。とりわけ分刻みのスケジュールで執務をこなし、エアフォースワンで世界を飛び回る大統領職は魅力的なポストで、よほどの理由がない限り、2期8年を全うしたがる。実際、戦後11人の大統領のうち5人が2期8年の任期を無事勤め上げた。一方、ジョン・F・ケネディ(民主党)は暗殺され、その後任として副大統領から昇格したリンドン・ジョンソンは2期目に立候補せず、リチャード・ニクソン(共和党)は2期目途中で辞任し、後任のジェラルド・フォードは副大統領から昇格したものの、前任のニクソンの残りの任期を消化したままで退任し、ジミー・カーター(民主党)とジョージ・H・W・ブッシュ(ブッシュ父 共和党)、トランプはいずれも2期目再選に失敗している。

米国にはone-term Presidentという言葉がある。文字通り再選されず1期で大統領職を終えたという意味であるが、歴史的には第二代大統領のジョン・アダムスから始まって、最近ではフォード、カーター、父ブッシュなど10人いる。one-term Presidentという言葉には、「一つランクが下」、あるいは「B級」というニュアンスがともなう。党人派バイデンにしてみたら、one-term Presidentで終わることは耐えられなかったとみられる。

大統領選挙は、全米で州ごとに行われる各党の予備選挙や党員集会で代議員を選出し、代議員の支持を一番多く集めた候補者が全国党大会で大統領候補者に指名される。民主党で2024年予備選に立候補したのは、これまで4,000人近くの代議員を獲得していたバイデン以外は、ディーン・フィリップス(ミネソタ州選出下院議員)、 ジェイソン・パーマー(投資家)など知名度が低い人ばかり。国民的な人気の高い政治家、ギャビン・ニューサム(カリフォルニア州知事)、グレッチェン・ウィットマイヤー(ミシガン州知事)、ピート・ブディジェッジ(運輸長官)などは、長老のバイデンに遠慮していずれも息を潜めていた。NRWRR(not running while really running)という言葉がある。現職の大統領が2期目を目指している間、同じ政党からほかの人は次期大統領候補に名乗りをあげにくい。これは民主党、共和党問わず共通している。

一方、ワシントンポスト紙によると、この数か月間、バラク・オバマ元大統領(以下、オバマ)は、バイデンに対して再選は難しいと繰り返し警告してきたという。実は、2016年の大統領選挙では、オバマはヒラリー・クリントン(以下、ヒラリー)を民主党の候補者に強く推し、バイデンに立候補を諦めさせたといわれている。結局、ヒラリーはトランプに敗れたが、その時バイデンは「私だったらトランプに勝てた」と不満をもらしたと伝えられている。このため、今回そのオバマから選挙戦撤退を促されたバイデンは、これに強く反発したといわれている(米ニュースサイトAxios)。確かに2020年の大統領選挙ではバイデンはトランプ前大統領に勝利しており、「トランプに勝てるのはバイデンだけ」という評価が一時定着した。バイデンにとっても2024年の大統領選挙でトランプを打ち負かせるのは自分だけだとの確信が最後まであったと思われる。

トリプル・レッドを恐れた民主党

6月のTV討論会以降、バイデンの選挙戦からの撤退を声高に要求し始めたのがロイド・ドゲット議員(テキサス州)、セス・モールトン議員(マサチューセッツ州)、アンジー・クレイグ下院議員(ミネソタ州)ら民主党内中道派の下院議員たちである。こうした下院議員が心配しているのは、24年11月大統領選挙と同時に行われる自身の下院選挙である。このうちアンジー・クレイグ下院議員は前回2022年の下院選で、共和党候補に勝利したが、得票数は僅差だった。下院選挙は2年ごとに全議席が改選されるが、4年ごとの大統領選挙と重なる年の議会選挙は、同じ党の大統領候補の人気に大きく左右される。大統領候補の人気が高いと浮動票がその政党に流れて選挙で有利に、不人気だと不利に働く。これは大統領選挙の「コートテール効果(coattails effect)」と呼ばれている。直接選挙でない日本でも、小泉総理による郵政解散時には多くの「小泉チルドレン」が誕生した。

現職の大統領が2期目を目指している間、その政党からほかの人は次期大統領候補に名乗りをあげにくい、と前述したが、それはあくまで大統領選の話だ。バイデンが苦境に陥っていることで、連邦議会選挙への影響を心配する声は民主党内で高まっていた。8月12日付けFiveThirtyEight(注3)によると、次回の下院議員選挙で民主党、共和党どちらに投票するかとの問いに対しては、民主党は共和党を僅か0.8ポイント上回っているに過ぎない。そもそも民主党は前回2022年の選挙で、共和党に下院の多数派を奪われた。民主党は上院ではかろうじて多数派を維持したが、上院と下院のねじれ解消は、司法が保守化しているおり、ホワイトハウスの死守とともに喫緊の課題となっている。

バイデンは選挙戦から撤退を決意して、自身の後継にハリスを指名したが、民主党上層部はその案に直ちに乗った。すでに各州の予備選で4,000人近い代議員を獲得しているバイデンが下りる場合、バイデンを支持した代議員は、それぞれ「自身の良心に従って」党大会で新たな候補者を選出する。各州の予備選をゼロから始めるのは現実的ではないためで、バイデンのラニングメイトのハリス副大統領を新たな民主党大統領候補に差し替えたわけだ。ハリスであればこれまでバイデン支持で集まっていた代議員や寄付金の正統な継承者になりうると民主党幹部は考えた。

しかし州ごとの正式の予備選挙に一度も出ていないハリスを党の大統領候補に選出するプロセスを、共和党は問題視している。議会共和党トップで下院議長のマイク・ジョンソンは「バイデンは、1,400万人の人々による長い民主的なプロセスを経て党の大統領候補として支持を集めた。いわゆる民主主義政党である民主党がどこか裏で候補者を入れ替え、別の人物を候補者リストのトップに据えるというのは非常に興味深い」(CNN)と語っており、民主党の大統領候補選出のプロセスが違法だとして、これを訴える動きにも言及している。

ハリスは、インド系とジャマイカ系移民の娘で、2021年からバイデンの下で副大統領を務めている。それ以前は、カリフォルニア州司法長官(2011年1月~2017年1月)、さらにカリフォルニア州選出の連邦上院議員(2017年1月~2021年1月)などを歴任した。しかし、ハリスは副大統領としての具体的な実績に乏しく、これまではバイデン以上に人気がなかった。FiveThirtyEightの世論調査(8月12日)(注4)によると、有権者の半数近くの48.9%が今なおハリスに否定的で、肯定的と答えたのは41.5%との結果が出ている。

ハリス人気は一時的か?

前回の民主党の大統領予備選挙ではハリスは最後の7人の候補に残ったが、その中で唯一の黒人女性であるにもかかわらず、アフリカ系黒人有権者からの支持が低く、2019年12月資金難を理由に予備選から撤退した。

当時、2期目再選を目指していたトランプは「残念だ、カマラ、君がいなくなると寂しくなるよ!」と皮肉たっぷりのお別れメッセージを送ったが、ハリスは「心配しないでください、大統領。法廷でお会いしましょう」と返信したという。その後、2020年8月ハリスはバイデンから副大統領候補に抜擢されると、それまでのリベラル色を封印したため、左派のハリスを支持し続けた支援者や側近に失望が広がった。また副大統領としてホワイトハウス入りしてからも、副大統領室での政策推進力やマネージメントが悪く、側近が相次いで離反するなど求心力に乏しい。

このため民主党内には、そのハリスで大統領選に勝てるのかという懸念がある。このため、副大統領候補に誰を据えるかが民主党にとってカギとなる。副大統領候補は大統領候補を補完し、また時には「アタックドック」として敵対する陣営を論破する能力が求められる。ハリスが黒人女性で、カリフォルニア出身であるところから、白人の男性で中西部や南部出身者が望ましいとされていた。

特に接戦州での勝利が重要となるので、ジョシュ・シャピロ(ペンシルベニア州知事)、マーク・ケリー上院議員(アリゾナ州選出)など接戦州の民主党知事や上院議員をラニングメイトに据える可能性があった。特にペンシルベニア州は民主党が選挙戦で死守すべき「ブルー・ウォール」州の一つだ。しかし、ふたを開けてみれば、ハリスは激戦州でもない民主党の無風地帯ミネソタ州のティム・ウォルツ知事を指名した。ウォルツ知事は民主党内でも左派色が強い政治家だ。

シャピロは、かつてペンシルベニア州の司法長官だったが、2022年の州知事選挙で対立候補の共和党ダグ・マストリアーノを56%以上の得票率で圧倒し地滑り的な勝利で破っている。しかしシャピロはユダヤ系アメリカ人で、イスラエル・ガザ紛争が激化しているおり、イスラエルを強く支持するユダヤ系の副大統領候補でいいのか、という懸念が民主党内、とりわけ左派から出ていた。ちなみにハリスの配偶者ダグ・エムホフもユダヤ系である。またハリス陣営で副大統領候補を選定するグループの間では、シャピロが何かと目立ちすぎで、本来ハリスを支えるべき副大統領候補にはふさわしくないとの見方もあったといわれている。

一方、ケリー上院議員(アリゾナ州選出)は、海軍時代湾岸戦争での砂漠の嵐作戦に従軍し、またNASAの宇宙飛行士としてスペースシャトルに4回搭乗するなどで全米での知名度は高い。また配偶者のガブリエル・ギフォーズは、連邦下院議員を務めていた2011年に地元アリゾナ州ツーソンで銃撃され頭部を撃たれて重体となったこともあり、夫婦揃って銃規制派で民主党内での支持が高い。

そのケリー上院議員を副大統領候補に選ばなかった表向きの理由は、ケリーが上院を去ることで、激戦州での上院議席が危うくなる可能性があるためだ。連邦議員(上院議員や下院議員)が大統領または副大統領に立候補する場合には、連邦議員職を辞さなければならないと規定されている。アリゾナ州選出のケリー上院議員が副大統領候補になることで上院議員ポストが空席となる場合、アリゾナ州知事(民主党)は暫定的な後任を任命できるが、議席は2026年の特別選挙で正式に争われることになる。ケリーが上院議員にとどまる場合、次の選挙は任期満了の2028年までない。

しかし、様々な理由や思惑があるにせよ、結果として激戦州から副大統領候補を選ばなかったことが、大統領選に微妙な影響をもたらすことは確かである。またウォルツが州知事を務めるミネソタ州では、2020年黒人男性ジョージ・フロイドが白人警察官に暴行殺害される事件が起きている。この事件をきっかけに黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴えるブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が全米で広がった。ミネソタ州ミネアポリス・セントポール都市圏では略奪や暴動が発生し、ウォルツ知事は州兵を派遣してこの鎮圧にあたったが、ウォルツ知事の初動の遅れについては批判的な声もあった。

さらにハリス選対本部は、基本的にはバイデン選対本部からの半分衣替えだ。中道派のバイデンを支えてきた選挙スタッフのなかには、2020年の予備選で1勝もできないまま撤退した格下のハリスを支えることの不満や葛藤もあるといわれる。さらに副大統領室ではハリスのマネージメントの悪さ、求心力のなさ、首席補佐官などスタッフの離反が露呈したが、その理由の一つが風見鶏のようにころころ変わるハリスの方針、部下に対しての高飛車な姿勢が原因ともいわれている。こうしたハリス陣営内のほころびが、今後再び露呈していくことになるのかにも注目したい。

トランプに吹く「神風」とやまぬ「口撃」力

7月13日ペンシルベニア州バトラー近郊で遊説中のトランプが銃撃され負傷する事件がおきた。犯人はシークレットサービスによってその場で射殺されたが、耳に被弾して血を流しながらも星条旗を背にして拳を突き上げ「Fight(戦え)」と叫ぶトランプ候補の映像が全世界を駆け巡った。アメリカでは大統領経験者には退任後も終生シークレットサービスの警護がつく。今回の事件は警護側の過失としてシークレットサービスの長官が辞任した。しかし、事件の数日前、バイデン大統領が献金者との電話会談で「トランプを標的(bullseye)にする時が来た」との発言があったこと、トランプ候補には数人のシークレットサービスしか配置されなかったこと、また銃撃犯のトーマス・クルックスが狙撃場所の建物屋上に上るのが目撃されながら警備陣がこれを見過ごしていたことなど、真相は謎に包まれている。しかし、今回の事件で、共和党は一気に党内がまとまり勢いづき、また狙撃されながらも軽微な負傷で済んだトランプは共和党支持者の間で神格化され、その時点で選挙戦からの撤退を決めていないバイデンとトランプの支持率の差がさらに拡大した。

トランプに吹いた「神風」はトランプを巡る刑事事件にも表れた。2020年1月6日の連邦議会襲撃事件に関連して、トランプ陣営が訴えていた「大統領免責特権」について、最高裁は24年7月1日その一部を認める判断をした。さらにトランプが大統領退任後も政府の機密文書をフロリダ州の私邸に隠し持っていた事件について、7 月 15 日フロリダ州連邦地裁は、 担当した司法省特別検察官の任命手続きに瑕疵があったとして起訴を棄却した。さらに、不倫口止め料の不正会計処理を巡りトランプが有罪評決を受けた事件で、ニューヨーク州地裁は7月2日、量刑言い渡しを9月18日に延期した。この裁判を担当するフアン・マーチャン判事は大統領免責特権に関する今回の最高裁判断の影響を精査するため、量刑の言い渡しを延期したが、その書簡で「必要であれば量刑を言い渡す」と述べ、陪審員の有罪評決を覆す含みも残した。ちなみに、トランプはハリスとのTV討論会を、9月4日(FOX)、10日(ABC)、25日(NBC)に予定しているが、ニューヨーク地裁の量刑言い渡しがTV討論会の日程にどう影響するのか注目されている。

一方、勢いづくトランプのハリスへの「口撃」はとまらない。トランプは、かねてより男女問わず政敵に対して軽蔑的、侮辱的な発言を繰り返している。最近トランプは「ハリスはこれまでインド系の血を引いていることだけをアピールしていた。数年前、たまたま彼女が黒人になるまで、私は彼女が黒人であるとは知らなかった。そして今(大統領選で多くの支持を得たいため)、彼女は黒人として知られたいと思っている」と発言して、物議を醸した。トランプの発言は、かつてオバマに向けられていた発言「オバマは十分に黒人か(black enough)」と同じで、出自を問うバーサー主義(birtherism)に基づくものである。オバマは「アフリカ系黒人」を自称しながら、母親が白人だったことで、黒人社会からは一時距離をおかれていた。トランプは、周囲が抱くそうした違和感を衝くのにたけている。

米国社会には、人種や民族などの属性による分断が依然として残っていて、黒人も白人も同じ人種間の結婚に固執する人が少なくない。オバマは同じ黒人のミシェルを伴侶に選んだ。ハリスはジャマイカ生まれの父親とインド生まれの母親との間に生まれたが、7歳の時に両親が離婚し、その後はシングルマザーの母親によって育てられた。ハリスは母の強い勧めで全米屈指の黒人名門大学であるハワード大学で学んだが、2014年上院議員だったハリスはユダヤ系の白人弁護士ダグ・エムホフと結婚し、彼の2人の子供の継母となっている。ハリスには、アフリカ系、インド系の血が流れ、さらに白人ユダヤ系の家族を構成しており、まさに多様なアメリカ社会を象徴している。アイデンティティー・ポリティクスが広がると、不寛容な人々が増え、分断が深まり、社会の安定が損なわれかねない。

ハリスと同じインド系をルーツに持つ移民2世である共和党のヘイリーは、「ハリスに関しては、彼女がどんな風貌かは関係なく、語るべき問題がたくさんある。彼女が何を言ったのか、何のために戦ってきたのか、そしてそれが原因で何も成果がなかったことが問題なのだ」(CNN)と批判している。ヘイリーのこうした発言の方が、トランプより受け入れられやすいはずだが、トランプ劇場を見つめる有権者の心情はもしかして違うところにあるのかもしれない。

「レームダック」バイデンの最後のミッション

バイデンは大統領選挙からの撤退を表明したものの、残りの任期は、引き続き大統領としての職務に専念するとして、共和党が求める即時の辞任を否定した。合衆国憲法修正25条第1節によると、大統領が死亡・辞任・免職などにより欠けた場合は、副大統領が大統領に昇格する。過去には、ニクソン(共和党)が大統領2期目半ばで辞任し、後任のフォードが副大統領から昇格したケースがある。仮にこのタイミングでバイデンが辞職して、副大統領のハリスが大統領に昇格する場合、短期間でもハリスは大統領としての実績を示すことで、11月の大統領選挙に向けて無党派層の支持を獲得できるかもしれない。

しかし大統領が辞任する場合、副大統領が大統領に昇格するが、その場合新大統領は、新たな副大統領を指名して、上下両院の過半数で承認を得なければならない(合衆国憲法修正25条第2節)。現在上院は民主党が多数を占めていて、新副大統領の承認はつつがなく行われるはずだが、下院は共和党が多数を占めていて、新副大統領の承認は難航することが予想される。仮に新副大統領の承認を巡って議会が混乱し、上院議長も兼務する副大統領ポストが空席となる場合、その非難は大統領に向かう。さらに副大統領が欠員のまま「ハリス大統領」が何らかの理由で職務不能となる場合、大統領継承順位3番目の下院議長である共和党のジョンソンが大統領に就任することになる。議会政治にたけているバイデンは、そうしたリスクを避ける意味で、25年1月20日午前0時までの残りの任期を全うする選択をしたものとみられる。

そのバイデンの支持率が、皮肉にも選挙戦撤退を表明してから上向いている。残りの任期半年間、バイデンはこれまでの50年にわたる政治家としてのキャリアをどう締めくくるのか注目されている。通常想定されるのは、8月の党大会での演説を皮切りに、全米各地でのハリス候補の選挙活動を支援することだ。しかし「党がバイデンを候補者にしたくなかったのは明らかで、ハリス陣営がバイデンに選挙活動支援を望んでいるとは到底考えられない」(Politico)との見方がある。バイデンはハリスにスポットライトがあたる部分の多くを譲り、一方で、向こう半年間で起きるかもしれない新たな失策は、ひとりで背負っていくことになる。

11月大統領選挙は激戦州での戦いと無党派層の投票行動がポイント

11月の大統領選挙の行方については、まだ3か月近くあるので、情勢は見通しにくいが、カギを握るのは激戦州での戦いと無党派層の動向である。

先ず激戦州であるが、11月の大統領選で激戦州となることが予想されるのはアリゾナ(選挙人11、以下同)、ジョージア(16)、ミシガン(15)、ネバダ(6)、ノースカロライナ(16)、ペンシルベニア(19)、ウィスコンシン(10)の7州だ。2020年の大統領選挙では、バイデンが、ノースカロライナを除く6州で勝利した。しかし米国の中立的な政治サイト270toWin(注5)によると、バイデンが撤退表明したのちに行われた最新の世論調査では、アリゾナ、ジョージア、ノースカロライナの3州でトランプの支持率がハリスを上回っている。一方ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州はハリスの支持率がトランプを上回り、ネバダ州は同率タイとなっている。まさにデッドヒート状態だ。

これら激戦州の有権者の最大の関心は経済問題である。イプソスがミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州、ジョージア州、ノースカロライナ州、アリゾナ州で実施した世論調査(8月8日)(注6)によると、これらの激戦州に住む有権者の間では、インフレ(52%)が最大の関心事で、次に移民(32%)が重要な問題と答えている。逆に銃規制・犯罪(21%)、ヘルスケア(18%)、住宅(17%)などは有権者の関心が相対的に低い。この点でバイデン・ハリス政権の経済政策や不法移民対策を批判しているトランプ陣営にとっては、選挙戦で有利に働く可能性が高い。

一方、共和党の副大統領候補となったバンスは、オハイオ州ミドルタウンの貧しい家に生まれ、幼いころに両親は離婚し、その後まもなく、母親の3番目の夫の養子に迎えられた。高校卒業後は海兵隊に入隊し、2005年からイラクに派遣され従軍した。除隊後は、オハイオ州立大学のあと、エール大学で法律を学び法学博士号を取得している。さらにベンチャーキャピタルのCEOなどを経て2023年1月から上院議員をつとめた。白人貧困層出身のバンスは、自身が育ったアパラチア地方ラストベルトの白人労働者の怒りや価値観を自伝『ヒルビリー・エレジー』で描いている。夫人のユーシャ・バンスは同じエール大学の同窓で法律家、ユーシャの両親はインド人だ。

大統領選挙で二つ目のポイントとなるのは無党派層の動向だ。アメリカは民主党と共和党の2大政党制の国だが、実は国民の相当数は民主党にも、共和党にも属さない無党派層だ。ギャロップの調査(注7)によると、2024年7月1~21日時点で、共和党に属すると答えた人は30%、民主党と答えた人は28%で、どの党派にも属さないと答えた人が41%で、無党派層の比率が高い。こうした無党派層は、大統領選挙ごとに投票先の候補者を変える傾向にある。アメリカでは民主党と共和党の分断が進んでいて、選挙でどちらかが圧勝することにはならない、とみる向きもあるが、実は分断が起きているのは全体の半数を占める民主・共和両党間である。その意味で残りの無党派層をどう取り込むのか、ハリス、トランプ両候補にとって喫緊の重要課題となる。

23年秋以降、ハリスの支持率は上司のバイデン大統領とリンクして低く、有権者の大半はバイデン・ハリス政権の仕事ぶりを評価していない。特にバイデン就任後2年間は、インフレが高止まりしたことで、有権者は日々の生活が悪化したと感じている。加えて高齢のバイデンの健康状態の悪化により、政権に対する評価は大きく低下し、しかも現在も政権への好感度は低いままだ。

Real Clear Politicsによる最新の好感度調査(7/22~8/6)(注8)によると、ハリスを「好ましい(favorable)」とする有権者は44.5%で、「好ましくない(unfavorable)」とする有権者は49.2%となっている。世論調査をみる際に注視しなければならないのは、「好ましくない(unfavorable)」と思っても、他の党の候補者と比較して仕方なくその候補に投票する、或いは棄権する場合がある点である。すなわち候補者への評価と実際の投票行動にはギャップが存在する。

また無党派層の動向を探るうえで留意したいのは、第3の候補者であるロバート・ケネディ・ジュニアの存在である。少し前まではバイデン、トランプの2者択一の世論調査では、トランプがバイデンを上回っていたものの、ケネディをいれた三択では、トランプの支持率を下押しする要因になっていた。しかし、トランプ候補への暗殺未遂事件、民主党候補者の変更などで、ケネディ候補の存在感が急速に薄れている。ケネディは資金難から選挙戦からの撤退や政権入りを条件にトランプ支持を模索するなど、揺れ動いている。

さらに不確定要素となるのが、投票の1か月前の10月あたりにおきる選挙戦に大きな影響を与えるオクトーバー・サプライズである。最近では、2016年大統領選挙直前の10月28日にFBIのジェームズ・コミー長官が民主党候補ヒラリーの国務長官時代の私用メール問題で新証拠を発見し再捜査すると発表した。それまでヒラリーは支持率で共和党候補のトランプを大きく上回っていたが、発表後に一気に劣勢に立たされ敗北した。また2020年大統領選挙直前の10月初めには、ホワイトハウスで新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生し、コロナ禍を過少評価していたトランプ大統領が感染し入院、自らコロナウイルス感染症対策の不備を露呈することになった。さらに今後投票日直前のオクトーバー・サプライズとして懸念されるのは、ロシアやイランなどからの揺さぶりで、対応を間違えるとバイデン・ハリス政権の大きなマイナスとなる。

大統領選挙は、11月第一月曜日の翌日火曜日、従って今年は11月5日に実施される。勝敗は多くの州で投票日の翌日には判明するが、接戦州では投票の再集計が行われることがあること、特に最近は郵便投票が多いので、結果判明には時間がかかる。2020年にバイデンが勝利宣言したのは投票日の4日後になった。しかし、正式には、各州で選ばれた選挙人が投票を行い、選挙人538人の過半数(270人以上)を得た候補者が大統領になる。しかし手続き的には、州ごとの集計結果は連邦議会へ封書で届けられ、翌年1月6日に召集される上下両院合同会議で副大統領のもと開封され、全体の集計結果を確認の上、第47代の合衆国大統領が正式決定となる。ハリスは来年1月6日に召集される上下両院合同会議では副大統領の身分であるので、その場で自身の当選もしくは落選を発表することになる。前回大統領選挙では共和党のマイク・ペンスが副大統領としてその任に当たったが、選挙戦の結果を認めないトランプからの横やりが入り、暴徒が連邦議事堂に乱入する騒ぎになった。2024年の大統領選挙で仮に、トランプが敗れた場合、同様の事態に発展するかはわからないが、ペンスの場合と違って、今回はハリスが対戦相手だけに混乱がより大きくなる可能性はある。

「もしハリ」にも備える

ハリスを民主党の大統領候補に据えたことで、一部のメディアでは「黒人女性で、アジア系初の大統領候補者」として絶賛する向きもあるが、2020年の大統領選挙でバイデンがラニングメイトにハリスを選んだのは、そもそも民主党中道穏健派のバイデンが、サンダース、ウォーレン、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスら民主党急進左派の協力を取りつけるためだ(サンダース議員は無所属だが、民主党と統一会派を組んでいる)。ハリスはホワイトハウス入りしてからは、副大統領としての3年間特段の実績がなく、移民や国境管理など対応が難しい職務を任され、本来の急進左派の政治スタイルをバイデン大統領に封じられていた。

今回、大統領候補に躍り出ることで、ハリスはようやく本来の左派色を存分に発揮できる。バイデンは基本的にワシントンの伝統的な民主党政治家であり、政策的にはアメリカ中西部と労働組合に重点を置いているが、ハリスの政治スタンスはカリフォルニアのリベラル派としての色彩が強い。ハリスの目線は、常に社会的弱者に注がれており、このためヘルスケア、住宅、教育分野での政府の助成に積極的だ。またバイデンは常に反対してきたが、ハリスは大麻の連邦レベルでの合法化を支持している。

59歳のハリスはカリフォルニア州の元司法長官(検事総長)で弁舌はきわめて鋭い。ハリスはインタビューや質問に答えるのは苦手のようだが、一方、相手に積極的に自分の質問を投げかけ、論破していくタイプだ。2020年の民主党大統領予備選では、人種差別撤廃の手段としての公立学校でのスクールバス通学にかつて反対していたバイデンをハリスはTV討論会で激しく非難し、バイデンを立ち往生させたこともある。また州司法長官時代には、ウォール街と激しく対峙するとともに、2015年パイプライン破損による原油流出事故を起こしたエクソンを何度も法廷に召喚し糾弾するなど反化石燃料の急先鋒だった。また上院議員時代は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や、原油ガス掘削の水圧破砕法(フラッキング)に強く反対し、他方、サンダース上院議員が提出した民間医療保険を違法にする法案を支持した。

副大統領就任後は、穏健派のバイデン大統領の下でこうした左派色を封印してきたが、「バイデンの呪縛」から解き放たれたハリスが、今後は本来のリベラル色を全面に出していく可能性がある。その意味で、仮にハリスがトランプを選挙戦で打破する場合、大統領就任後の政策が中道路線を堅持したバイデン政権時よりも左派色を強める可能性もある。産業界は「もしハリ」にも備えておく必要がある。

(本稿は2024年8月12日時点の情報をもとに作成した)


注1. Real Clear Politics、 (https://www.realclearpolling.com/polls/president/general/2024/trump-vs-harris
注2. Psychology Today (July2,2024),
(https://www.psychologytoday.com/intl/blog/thinking-socially/202407/why-biden-wont-step-down)
注3. FiveThirtyEight, (https://projects.fivethirtyeight.com/polls/generic-ballot/2024/)
注4. FiveThirtyEight, (https://projects.fivethirtyeight.com/polls/approval/kamala-harris/)
注5. 270toWin, (https://www.270towin.com/2024-presidential-election-polls/
注6. 世論調査(8月8日)、(https://www.ipsos.com/en-us/ipsos-2024-us-swing-state-election-survey-august-2024)
注7. ギャロップの調査、(https://news.gallup.com/poll/15370/party-affiliation.aspx
注8. Real Clear Politicsによる最新の好感度調査、(https://www.realclearpolling.com/polls/favorability/political-leaders

フラッシュ一覧に戻る