2005/04/11 No.77NPOがだんとつの信頼度−イタリアの世論調査に見る−
長手喜典
(財)国際貿易投資研究所 欧州研究会委員
釧路公立大学 非常勤講師
昨年末から本年はじめにかけて、ローマの民間調査研究所、Eurispesが、労働、経済、公共機関、司法、社会など各分野にわたってイタリア国民の信頼度等についての世論調査を実施した。各項目について、それぞれ性別、年代にばらつきを持たせて、1,000人程度を対象にインタビューを中心とした聞き取り調査を行ったが、以下はそのうちの主要項目だけを拾い出したものである。
一方、この種の調査として、筆者の手元にいまから20余年前、80年代にイタリアの代表的政治経済週刊誌、Espressoの実施したアンケート調査結果が残っているので、これとの比較において、世論の変化を垣間見てみたい。
イタリア人の信頼度調査(%)
信頼している | 信頼していない | |
---|---|---|
89.9 | NPO | 10.1 |
84.2 | 憲兵警察 | 15.8 |
81.2 | 一般警察 | 18.8 |
79.0 | 大統領 | 21.0 |
72.3 | 財務警察 | 27.7 |
68.3 | カトリック教会 | 31.7 |
52.4 | 司法官 | 47.6 |
50.7 | 学校 | 49.3 |
36.5 | 議会 | 63.5 |
33.6 | 政府 | 66.4 |
32.1 | 組合 | 67.9 |
31.2 | 企業家 | 68.8 |
28.7 | 公共機関 | 71.3 |
信頼が集まるイタリア大統領
まず注目されるのは、従来型の社会機構の中で、あらたにNPOに対し90%ちかい圧倒的な信頼が寄せられている点である。20年前にはまだこの種団体の活動が、社会的な脚光を浴びていなかったせいもあるが、個人的な営利を目的とせず、愛他主義に基づく社会貢献が、イタリアでも最も評価されているのであろう。
20年前は60%台にとどまっていた警察への信頼度が急上昇しているのは、特筆に価する。特に憲兵警察(カラビニエーリ)は、国防省直轄の軍隊組織を持つ警察だけに、マフィアなど組織暴力に断固たる対処を示してきた実績が評価されたのだろう。また、財務警察による脱税の摘発等も近年、厳格さを増しており、信用を高めているようだ。
2001年の第2次ベルルスコーニ内閣の発足以来、首相をめぐる度重なる裁判沙汰もあって、政界への国民の目はますます厳しくなっているが、そんな中、大統領への信頼だけが80%に迫っているのは救いである。現チャンピ大統領〈元イタリア中銀総裁〉は、昨年、ベルルスコーニ首相のメディアに対する寡占的支配に待ったをかけ、ガスパッリ法への署名を拒否したが、この際の正義を貫こうとする大統領の反骨精神に国民が喝采を送ったのを思い出す。
カトリック教会への信頼度は、20年前には54.8%であったが、先ごろ、法王在位25周年を迎えたヨハネ・パウロII世のお膝元だけに、その間の現法王の活動や人徳の積み重なりが、今回の68.3%につながったと思われる。同研究所の分析によると、教会への信頼度は、性別、年齢などへのリンク度が高く、女性は男性より、老人は若者より、高学歴より低学歴者の方が、信仰心の厚い傾向があると指摘している。
司法と政治のせめぎあい
検事、裁判官を含む司法官については、以下の点が指摘できる。このところベルルスコーニ首相と司法界との間で、司法制度改革法案をめぐって先鋭な対立が生じ、数度にわたる司法官のストライキにまで発展したので、司法官の日常が国民の目によりさらされるようになった。このことが20年前には60%にちかかった、司法官への信頼度を52.4%へと下げる結果になったように思う。それにしてもイタリアの裁判所はあまり信用されていない感じがする。
もうひとつ信頼度を下げたものに学校がある。かって、64.7%と比較的高かった水準から、50.7%と14ポイントも下降しているが、これにも理由がある。それは近年の学校教育法の改革であり、下は小学校から上は大学まで、EU(欧州連合)のシステムにあわせるべく諸改革が実施されつつあるが、なかなか新制度が定着せず、教育界が混乱しているのが原因であろう。たとえば、数多くの問題点のうち義務教育年限を8年から10年に延長する、大学の年限を4年から3年に短縮する、大学教員の半数近くを占める非常勤講師の待遇改善や資格の引き上げ等について、新制度がうまくワークしておらず、担当大臣のスタンスも定まっていないように見受けられる(注1)。
どこの国でも議会や政府の信用度はえてして低いものであるが、イタリアも20年前と同様、あいかわらず30%台に低迷している。その間の事情を若干説明してみよう。
イタリアでは1992年司法界による「清潔の手」作戦(注2)で、いったん浄化が図られたかに見えた政界であるが、その後も汚濁が一掃されたわけではなく、イタリアのウエブサイト、societacivileには、上下両院あわせて950人前後の現職の議員中、本年1月現在で有罪判決を受けて禁固または上告中の者74人(地方議会議員5人を含む)のリストが、アンドレオッティ元首相から始まって、アルファベット順に列記されている。
要するに、犯罪や不法行為の一角に数多くの政治家が名を連ね、さらに、組合活動家や企業家〈大手食品企業パルマラットの社長逮捕等〉のほか、公共機関の役職者や職員の不正、汚職への関与が頻発している。したがって、表後半の信頼度パーセンテージは、むしろ甘いくらいにも感じられる。
Eurispesのファーラ会長は、今回の世論調査の中で次のようにコメントしている。イタリアでは政治が法律の無力化や裁判秩序の弱体化に力を貸している。国法の前に個人の利害や政治の都合が立ちはだかり、正義が曲げられようとしている。コンドーノ〈違法建築赦免税〉のように、フルボ(抜け目なく、ずるがしこい)者が得をする社会が、法律遵守の精神をスポイルするのだ、と。
以上、わが国にとっても耳の痛い話ばかりで、もって他山の石とすべきであろう。
(注1)イタリアの教育の現状については、(財)世界経済情報サービス(ワイス)発行、ARCレポート2004「イタリア」、P114〜115参照。
(注2)1992年にミラノ地検特捜部が開始した政実業界構造汚職の一斉摘発のことで、当時、1年余りの間に逮捕者が1,000人を超え、閣僚の辞職も相次いだ。
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