一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2014/04/28 No.186アフリカ消費市場展望(3)課題は山積するが魅力的なナイジェリア市場

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

ナイジェリアの人口は、2010年に1億5,842万人、サブサハラ全体の18.5%を占め、サブサハラでは最大である。イスラム教徒人口もサブサハラでは最も大きい。ナイジェリア人の平均寿命は、1990年から1999年までの間に45.64歳から45.83歳に増えたにすぎないが、2010年には51.41歳に達し、2000年よりも5歳以上伸びているとみられる。

経済規模(GDP)も、ナイジェリア連邦統計局によれば、名目GDPが2011年に63兆2,586億ナイラ(4,088億ドル、円換算では約39兆8,529億円、1ナイラ=約0.63円)を超え、南アフリカ共和国(4,043億ドル、IMF統計)を抜いてアフリカ最大の経済大国となった。

ナイジェリアの経済は、1990年代を通じてGDP成長率は穏やかであり、1990年代半ばから後半にかけて地域内で特に目立ったものではなかった。しかし、2000年代初頭にはGDP成長率が大幅に加速し、2003年には10%、2004年には11%を上回った。IMFは2014年のナイジェリア経済の実質GDP成長率を、2013年の6.2%を上回る7.4%と予測している。経済成長は石油に大きく依存し、2000年代のナイジェリアの経済成長への寄与率37%~47%は石油輸出である。石油産業はGDPの20%、外貨収入の95%、予算収入の65%を占めている。

ナイジェリアの農業はGDPの42%を占め、65%以上を雇用しているにもかかわらず、生産性は低く、時代遅れの機器やインフラが問題である。また、国土の約66%が農地に適しているにも関わらず、その約半分は開墾されていない。

経済成長にも関わらず人口の約3分の2は1日1ドル以下で生活する貧困層であり、この割合は2011年には63%と、2010年の61%から増加している。また、2011年の失業率は前年より2.8%増の23.9%であった。特に若年層の失業率が高く、15~24歳では38%となっている。

インフレ率は、2010年には13.7%であったが、2011年には10.2%となっており、これは、2012年には10.1%、2013年には8.4%となることが見込まれている。

ナイジェリアの投資環境は、世界銀行のビジネスランキングで、2013年は2012年と同じ131位、サブサハラでは46カ国中14位につけている。2012年のサブサハラ平均が139位であったことから、地域では平均よりは高い。具体的には、「信用取引」の項目で特に成績が良く、世界で23位、サブサハラで4位である。しかし、「電気の取得」で178位と、これらの項目は世界185カ国中最低水準となっている。ナイジェリアは、ガス埋蔵量も大きい国であるが、約4,000MWの発電容量しかないため、住民や企業は発電機に依存しているのが実態である。

アフリカのガバナンスを指数化して発表しているモ・イブラヒム財団のイブラヒム指数をみると、2012年には、ナイジェリアはアフリカ52カ国中43位で、スコアは42(0~100)であった。このスコアは2006年から大きい変化がないが、最下位10位に含まれている。項目別にみると、「安全性と法治」が44位で特に悪く2006年より3ポイント悪化、「政治参加と人権」が37位で2006年より3ポイント悪化、「持続可能な経済機会」は37位で2006年より2ポイント改善、「人間開発」は39位で2006年より4ポイント改善となっている。

ナイジェリアでの治安を見ると、外出禁止令は、騒動などがあった後などに頻繁に発令され、短時間の通知で実施されるため、現地の情報を常に注意して見る必要がある。2006年以降、200人以上の外国人が誘拐されている。

マスマートはナイジェリア市場をどう見ているのか

老朽化したインフラをはじめとして様々な課題を抱えたナイジェリアであるが、南アフリカの大手小売業、マスマートは、ナイジェリア市場をどのように見ているのか。同社の幹部は、5年、10年前にラゴスに来たことがある人が今ラゴスを訪れたら、それは全く異なる様相に驚くのではないかとしたうえで、次のような見方を披露した。

まず第1に、インフラ。ナイジェリでの電力事情は芳しくない。電力については、ナイジェリアに限らず、アフリカ全域で最も大きな課題である。ナイジェリアも経済成長のために電力供給は不可避な課題だろう。ナイジェリアの店舗では、営業時間の85%は電力がこない。ジェネレーターで店舗の電力をまかなっている。政治家と話し合ったこともあるが、この状況を是正する政治力はなさそうである。

また、道路のネットワークも課題の一つである。ナイジェリアでは広域にわたる国道ネットワークを開発したが、その大半は舗装されていない。これは、流通の観点からも課題だ。

ナイジェリアの港湾システムはその乏しいパフォーマンスと高い費用から、経済の発展を抑止してきた。2006年の時点で、ナイジェリアの港湾の能力基準は世界的に見て大変低く、アフリカ内の水準にも達していなかった。コンテナ船の滞在時間が、世界水準が約7日間なのに対して、ナイジェリの主要な港では30日から40日間かかる。同様に、コンテナクレーンの稼動数は世界基準が25回なのに対し、2006年時点でナイジェリアでは12回だった。

第2が、不動産価格の上昇である。ナイジェリアにおいて新規事業を立ち上げることは、不動産価格の観点からもはや不可能といえよう。

第3が都市化の問題。ラゴスは巨大な都市であり、混沌としており、常に人口過剰である。犯罪も多く、インフラは乏しい。国の成長を阻害する要因のひとつとして、不十分なインフラがしばしば言及される。豊かな人々はガーナのアクラに引越し、そこからナイジェリアに通勤する。このような不自然な状況は続かず、是正されるべきである。

第4が行政の問題。当社が北部ナイジェリアに所有する店舗を閉店することを検討していた際、いろいろと横やりが入った。マスマートはナイジェリアに進出する際、投資と資産を守ることが約束され、後押しされた。今後、他社がナイジェリアに進出することは困難だと思われる。

ナイジェリアで事業を続けていくための費用は多大である。しかし、ナイジェリアはアフリカで最も人口が多く、利益率が高い市場である。ナイジェリアの市場の潜在性を教えてくれる具体事例は、インドミーの即席ラーメンである。ナイジェリアで最も売れる製品のひとつで、1995年から事業を開始し、市場占有率が7割超、ナイジェリア人は自分たちの国のブランドだと思っている。インドミーは、ナイジェリアに工場を持っており、250の自社店舗を展開し、今後3,600店舗まで拡大することを計画している。マスマートも、1,000店舗まで拡大することを検討している。この数字を見るだけでも、ナイジェリア市場の巨大さが見て取れるだろう。インフラにおける様々な課題はまだあるが、マスマートはアフリカを成長機会の大陸と捉え、こうした課題を克服して行くという強い決意で語っていた。

次回はマスマートのサブサハラ事業展開

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