一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2014/06/30 No.196激減しているフィリピンにおける委託加工貿易輸出

増田耕太郎
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

フィリピンの委託加工による貿易額が減少している。委託加工の貿易は、「委託加工用の原材料で製造した完成品」の輸出と、「委託加工用の原材料」輸入からなる。

2013年の委託加工の輸出額は総輸出額の約4%、委託加工の輸入額は総輸入額の約13%であった。ところが、2006~2007年には、総輸出額の1/3以上の約35%、総輸入額の約25%を占めていたので、委託加工貿易の減少が際立っている。

特に、委託加工輸出の減少が顕著で、2010年から3年連続して。総輸出に占める割合は低下している。 ただし、フィリピンの貿易そのものが減少しているわけではない(図-1 参照)。

図-1  フィリピンの委託加工貿易額の推移
【輸出】単位:100万米ドル(左目盛)、%(右目盛)

出所: フィリピン貿易統計 (以下の図表を含む)

【輸入】単位:100万米ドル(左目盛)、%(右目盛)

1. 委託加工貿易を98類に計上するフィリピンの貿易統計

フィリピンの貿易統計では、委託加工による貿易を本来のHS分類の統計番号の貿易額と区別し98類に計上する。【注-1】。

このため、委託加工による取引が大きい品目の貿易額は、本来のHS分類に計上している貿易額だけをみると“実際の貿易額”より過少となる。ただし、委託加工貿易による貿易額を別掲するようになったのは2006年以降である。

(注-1)フィリピンの貿易統計の商品分類はHS分類に準拠したPSCC分類(Philippine Standard Commodity Classification)である。2006年から、「委託加工」契約の輸出入額を各国が自由に定義できる特殊取扱品目の98類に計上し、「普通貿易」による取引と区別している。

(統計表の表示)
DTI(貿易産業省)公表の貿易統計は、HS98類の輸出入額を該当する品目別にHS分類のSub Groupに置づけ、その下位分類(Sub- Sub Group)に“Special Transaction”の項を設け公表している。

(GLOBAL TRADE ATLASにおける扱い)
Global Atlas 社が提供しているGLOBAL TRADE ATLASサービスを利用してフィリピンの貿易統計を検索すると、98類は“Special Classification Provisions, Nesoi”、 98類の細目分類の品目名は“Special Other. Detail Unknown”と表示されている。

98類に分類する「委託加工用の原材料で製造した完成品」の輸出額は、2013年の総輸出額(539.78億ドル)の3.7%に相当する20.21億ドルであった。2007年には総輸出額の34.7%を占める175.1億ドルだったので、98類が占める割合は1/8以下に減少している。

一方、2013年の「委託加工用の原材料」の輸入額は、総輸入額の618.31億ドルの13,2%に相当する81.85億ドルである。2006年には総輸入額の25.3%(131.21億ドル)と比べると、98類が占める割合は半減に近い(図-2)。

2006~2007年当時と比べると、98類に計上している貿易額は減少しているものの、輸出品目(HS2桁レベル)でみると電気機器(HS85類)、一般機械(HS84類)、木材・木製品(HS44類)、鉱石(HS26類)、鉱物性燃料(HS27類)に次ぐ第6位。輸入では鉱物性燃料に次ぐ第2位にある。

2. 委託加工貿易は、電気機器(HS85類)の貿易額に影響

HS2桁レベルでみると、委託加工貿易が大きい品目はHS85類(電気機器類)、次いでHS86類(一般機械類)に該当する(別表-1)。

このため、委託加工貿易分を特掲するために98類を新設した2006年のHS85類(電気機器)の貿易額は、輸出入ともに対前年比で40%を超える減少結果になっている(図-2)。

しかし、電気機器類の貿易額が減少したわけではなく、従来はHS85類に計上されていたものの一部が、98類に委託加工貿易分として計上されているのに過ぎない。HS85類のなかでは大きく変動したのは半導体関連品目である。

注-2 2006-08年当時の状況は、「フィリピン貿易統計における委託加工貿易」(季刊「国際貿易と投資」第80号 p.100~102)を参照(http://www.iti.or.jp/kikan80/80stat.pdf)

図-2 フィリピンの主要品目の貿易
(1) 輸出 単位:100万米ドル(左目盛)、%(右目盛)

(注) HS分類のうち、84類、85類、98類のみ表示。他の「類」は割愛 ((2)輸入も同様)

(2) 輸入

3、委託加工貿易として取引されている主な品目

委託加工貿易を活用している品目の細分をみると、貿易額が大きいのは輸出・輸入ともに半導体および関連商品である(別表-1)。

輸入額が大きく、しかも減少が最大なものはダイス(98.02.21)である。輸入額が最高であった2007年当時と比べると、2013年は38億ドル減少しほぼ半減(54%)の水準に落ち込んでいる。輸入先でみると、アイルランド、米国、シンガポールがいずれも10億ドルを超える減少である、なかでも、アイルランドは2007年の約6%台のレベルにまで落ち込んでいる。

それに対応し、半導体デバイス(98.03.18)の輸出も激減している。半導体デバイスは2006-07年当時には委託加工の原材料で製造した輸出品の56.1%、2012-13年でも28.9%を占める最大輸出品目である。2013年の輸出額は最盛期の2007年の5%程度の水準に落ち込んでいる。

2008年を境に大きく減少した背景には、半導体不況を受けインテル、テキサス・インスツルメンツ(TI)などのフィリピン国内の事業所での生産調整が進んでいた時期と重なっている。半導体製造がASEAN諸国から中国にシフトしていることが影響していると、推測しても間違いではなさそうである。

その結果は、図-3の輸出先が、中国、香港、シンガポール、マレーシア向け輸出の推移からも推し量ることができる(図-3)。同様のことが98.03.24(ダイオード)にもいえる。

図-3 半導体デバイスの輸出額の推移(委託加工貿易分)

表-1 98類に分類している主な品目と貿易額
(1) 輸出 

(注) 構成比(%)は98類の輸出額に占める品目別割合。(06-07)は2006~07年の平均値、(12-13)は2012~13年の平均値を示す。
名称(英語表記)は、フィリピンの貿易統計に用いている商品分類表(PSCC分類)の表記を仮訳した。

 (2) 輸入

(注) 構成比(%)は98類の輸入額に占める品目別割合。(06-07)は2006~07年の平均値、(12-13)は2012~13年の平均値を示す。
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