フラッシュ503
2022年1月14日
 

RCEPを中心とした2022年の中国の通商政策

 
真家 陽一
(一財)国際貿易投資研究所 特任研究員
名古屋外国語大学 教授

 

はじめに

「中国は地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の義務を全面的かつ十分に履行し、質の高い協定を実施し、貿易と双方向の投資を拡大し、産業チェーン・サプライチェーンを強化し、ビジネス環境を持続的に改善していく」。中国の通報政策を担う商務部は2022年1月1日午前0時ちょうどにウェブサイトでこうした声明を公表した(注1)。

この声明に示されるように、中国は2022年1月から発効したRCEP協定に高い関心を寄せている。この背景には、2022年が5年に1度の共産党大会が開催される政治的に重要な年であることを考慮して、2021年12月8~10日に北京で開催された「中央経済工作会議」において(注2)、例年にも増して安定第一が強調されたことを踏まえ、通商政策においても貿易の安定的な成長が求められており、それに資する政策措置の一環として、RCEPに注目していることが考えられる。

それでは、中国はどのように2022年の貿易安定化を図ろうとしているのであろうか。本稿はこうした観点から、RCEPを中心とした2022年の中国の通商政策について、中国政府の発言などを基に検証していくことを目的とする。

1.国務院常務会議で貿易の安定的発展を討議

李克強総理が2021年12月23日に主宰した「国務院常務会議」では、中央経済工作会議の要求に基づき、貿易の安定的発展の推進に向けた政策措置や、RCEPに関わる取り組みについて討議が行われた(注3)。

会議では「2021年の中国の貿易は急速に増加し、経済成長の安定に重要な貢献を果たした。しかし、現在、貿易は不確定、不安定、不均衡要因の増加に直面している」との認識が示された。

こうした認識を踏まえ、会議では「中央経済工作会議の要求に基づき、市場開放をさらに拡大し、困難に対する対応措置を打ち出し、貿易の安定的発展を促進しなければならない」との方針が打ち出された。

また、会議は「RCEPは2022年1月1日、正式に発効する。企業がこの契機を捉え、国際市場への参入競争力を向上させ、貿易と投資の水準を高め、国内産業の高度化を図ることを支援しなければならない」ことが指摘された。

2. 2022年の通商政策の基本方針

国営新華社は2021年12月27日、「商務分野の『安定したスタート』の実現に努め、質の高い発展で工夫をこらす」と題して、商務部の王文濤部長(大臣)へのインタビュー記事を配信した(注4)。

(1)商務部の2022年の活動方針
インタビューにおいて、王部長は「(中央経済工作会議で中国経済が直面しているとの認識が示された)需要縮小、供給ショック、期待低下という『三つの圧力』は、2022年の商務分野でも明確に感じられるだろう」と率直に指摘した。

その上で、王部長は商務部の2022年における全般的な活動に関して「(中央経済工作会議で提起された)『安定第一、安定の中で前進』を求めるとは、商務分野から見れば、あらゆる手段を講じて消費回復の勢いを安定させ、貿易・外資の基盤を安定させ、国民経済への貢献を安定させることだ」との見解を示した。

「安定」について、王部長は政策・主体・市場・サプライチェーンの4点に重点的に取り組むと強調した。

  1. 政策の安定:関連政策の連続性・安定性を維持するとともに、新たな政策措置を推進する。
  2. 主体(主に企業)の安定:市場主体、特に中小零細企業に焦点を当てて、苦境緩和のための支援を強化する。
  3. 市場の安定:国内消費市場の安定を維持するとともに、国際市場開拓を強化し、内外市場の協調発展を促進する。
  4. サプライチェーンの安定:国際輸送力の逼迫を緩和し、グローバル産業チェーン・サプライチェーンの円滑化を維持する。

他方、「前進」について、王部長は質の高い発展に工夫をこらし、以下の5点を推進していくと述べた。

  1. 消費の高度化を加速し、消費の潜在力を発揮させる。
  2. 貿易の革新的発展を推進し、貿易の総合競争力を強化する。
  3. 対内・対外双方向の投資レベルを向上させ、科学技術、デジタル、グリーンなどの分野の投資協力を拡大する。
  4. 多国間・二国間の経済貿易関係を深化させ、有利な外部環境を醸成する。
  5. 発展と安全保障を一体的に捉え、各種リスクを正確に識別し、適切に防止・解消する。

(2)貿易安定化に向けた政策措置
こうした4つの「安定」と5つの「前進」という基本方針を踏まえ、商務部はどのように貿易安定化を図ろうとしているのであろうか。

王部長は「中国の2021年の貿易は比較的高い伸びを実現し、1~11月の貿易総額は前年同期比22%増となったが、2022年の貿易を取り巻く不確定・不安定要因は増加している」と強調。具体的には「国際需要の回復の勢いが鈍化していることに加えて、『巣ごもり消費』製品の輸出など一時的な特需も弱まっている。また、貿易企業が直面している原材料価格の上昇、輸送力の逼迫、運賃の高騰、労働コストの上昇などの問題もまだ緩和されていない」と分析。その上で王部長は「これらのリスクに加え、2021年の貿易水準が比較的高かったことも重なり、2022年の貿易安定化への圧力は決して小さくない」と危機感を露わにした。

こうした現状を踏まえ、王部長は貿易安定化に向け、商務部は①貿易安定化政策の着実な実行、②貿易の革新的発展の推進、③産業チェーン・サプライチェーンの安定化・円滑化、④貿易企業の市場開拓支援という4つの業務に重点的に取り組む意向を表明した(表1)。

 

表1. 2022年の中国の貿易安定化に向けた政策措置

 

項目

概要

貿易安定化政策の着実な実行

地方政府や関係部門と共同で、貿易安定化に向けた関連措置を着実に実行し、企業が十分に活用するよう指導。

貿易の革新的発展の推進

貿易の革新的発展を優先的な位置に置き、国際競争における新たな優位性を育成。
この一環として、越境電子商取引(EC)総合試験区の範囲拡大に取り組む。また、貿易のデジタル化のレベルを向上させ、グリーン(環境関連)貿易の発展を促進。

産業チェーン・サプライチェーンの安定化・円滑化

貿易企業の産業チェーン・サプライチェーンを強化し、加工貿易の安定的発展を支援。
貿易企業の国際物流の圧力を緩和し、決済の円滑化を持続的に推進。

貿易企業の市場開拓支援

すでに締結した自由貿易協定(FTA)を活用し、貿易企業の国際市場開拓を指導。
輸入博覧会、広州交易会、サービス貿易会などの展示会の機能を発揮させることで、内外市場の相互接続を促進し、国内・国際の双循環を円滑化。

資料:新華社「商務分野の『安定したスタート』の実現に努め、質の高い発展で工夫をこらす」(2021年12月27日)を基に筆者作成

 

なお、王部長は「次の段階として、全世界に向けたハイレベルのFTAネットワークの構築を加速する」と表明。RCEP協定の質の高い実施も含め、地方政府、産業および企業が協定を活用する能力を持続的に向上させ、加盟国とともにRCEPのメカニズムを着実に推進していく方針を示した。

この他、2021年9月16日と11月1日にそれぞれ加盟申請を行った「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP協定)」、「デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)」(注5)への加盟交渉に関わる関連業務に取り組むことも指摘した。

3. 通商政策におけるRCEPの意義

ここまで、2022年の商務部の全般的な活動方針を確認してきた。それではこうした方針を踏まえて、中国は今後、RCEPをどのように活用していこうとしているのであろうか。

国務院新聞弁公室が2021年12月30日に開催した「定例政策ブリーフィング」において、商務部の任鴻斌副部長(副大臣)はRCEPに関して「党中央、国務院はRCEPの発効を極めて重視している」と強調。また、任副部長は「RCEPは我が国が新たな発展構造を構築する上で重大な意義を持つ」との見解を示した上で、中国にとって①対外開放の新たな一里塚、②国内と国際の双循環を結ぶ絆と架け橋、③経済成長の新たな原動力という3つの意義があると指摘した(注6)。

また、任副部長は「次の段階として、商務部は地方政府、関連部門とも協力し、的を絞った支援措置を打ち出すことで、貿易企業が政策の配当を確実に享受できるようにし、国民経済の安定成長に新たな貢献をする」と述べ、RCEPの推進に意欲を示した。

また、記者からの「RCEPの発効は貿易および外資の安定にどのような役割を果たすのか」との質問に対し、商務部・国際経済貿易関係司(司は日本の局に相当)の余本林司長は「RCEPは対外貿易と外資を安定させる有力な手掛りであり、協定発効は多くの積極的な効果をもたらし、中国の貿易と外資の基盤をさらに安定させ、産業の質の向上と高度化を推進し、市場を活性化する」と指摘。

その上で、余司長はRCEPが中国の貿易および外資の安定に果たす役割として、①中国製品の輸出拡大、②原産地累積規則の恩恵、③加盟国との相互投資の増加を挙げた(表2)。

 

表2. RCEPが中国の貿易および外資の安定に果たす役割

 

項目

概要

中国製品の輸出拡大

RCEP加盟国の貿易額は中国の貿易総額の約3分の1を占め、ASEAN、日本、韓国は第1位、第4位、第5位の貿易パートナー。
日中両国は初めてFTAを締結。機械設備、電子情報、化学工業、軽工業・紡績など多くの分野で互いに大幅に関税を引き下げ、特に2022年に中国が日本に輸出する製品の57%は直ちにゼロ関税を実現。
貿易円滑化から見ると、税関手続き、検査検疫、技術規準などにおける高いレベルの約束は、物流通関の効率向上や輸出の増加促進に資する。
ECから見ると、ペーパーレス貿易の促進を約束し、電子署名の効力を承認したことは、インターネット取引の展開に制度的保障を提供しており、企業が越境ECを利用した輸出拡大に資する。

原産地累積規則の恩恵

生産者が地域内の原材料を使用することを奨励し、加盟国が共同で協定のゼロ関税待遇を享受することを容易にし、地域内で緊密で強靭な産業チェーン・サプライチェーンを構築することに資する。

加盟国との相互投資の増加

サービス貿易分野で高水準の開放が約束され、投資分野で外商投資(外資)参入基準がさらに緩和され、政策の透明性が大幅に向上。
モノ、サービス、投資の開放承諾が重なり、貿易・投資の円滑化が制度的に保障され、産業チェーン・サプライチェーンがより融合し、地域内の投資が活発化。

資料:国務院新聞弁公室「定例政策ブリーフィング」(2021年12月30日)を基に筆者作成

 

むすびに代えて

中国の外交政策を担う外務部の汪文斌報道官は1月4日の定例記者会見において、「RCEP加盟15か国の人口、GDPおよび貿易総額はいずれも世界全体の約30%を占めている。世界最大のFTAとなったRCEPは質の高い地域経済統合を促進する」との見解を示した(注7)。中国では、通商当局のみならず外交当局もRCEPの意義を高く評価している。

他方、中国はRCEP加盟時に条件となっている義務にどのように対応しようとしているのであろうか。2021年11月2日にRCEPが発効条件を満たした後、商務部国際司は11月6日、「協定の拘束的義務の履行準備は完了した。商務部は関連部門と共同で、通関手続の簡素化、製品基準、サービス貿易の開放措置、投資ネガティブリストの承諾、電子商取引、知的財産権保護など、協定に関わる701条の拘束的義務を整理した。現在、701条の義務に関わる各部門において、履行準備が整っている」と表明したが(注8)、具体的な対応については説明されていないのが現状である。かかる状況を踏まえ、RCEPに関わる中国の義務の履行については、今後の動向を注視していく必要があろう。

 

注1. 商務部「RCEP 、2022年1月1日から正式発効」2022年1月1日(http://www.mofcom.gov.cn/article/xwfb/xwrcxw/202112/20211203233822.shtml
注2. 中国共産党と政府が翌年の経済政策の基本方針を決定する重要会議で、例年12月に開催される。
注3. 中華人民共和国中央人民政府「李克強が国務院常務会議を主宰、貿易の安定的発展の推進などを確定」2021年12月23日(http://www.gov.cn/premier/2021-12/23/content_5664167.htm)。
注4. 新華社「商務分野の『安定したスタート』の実現に努め、質の高い発展で工夫をこらす」2021年12月27日(http://www.gov.cn/xinwen/2021-12/28/content_5664868.htm
注5. DEPAとはシンガポール、チリ、ニュージーランドの3カ国が2020年6月に調印したデジタル分野の協定。
注6. 国務院新聞弁公室「質の高いRCEPを実施し、貿易の安定した発展を促進」2021年12月30日(http://www.scio.gov.cn/32344/32345/44688/47665/tw47667/Document/1718358/1718358.htm
注7. 外交部「定例記者会見」2022年1月4日(http://www.gov.cn/xinwen/2022-01/04/content_5666401.htm
注8. 商務部「商務部国際司の責任者、まもなく正式発効するRCEPの関連状況について語る」2021年11月6日(http://www.mofcom.gov.cn/article/xwfb/xwsjfzr/202111/20211103215226.shtml