一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2005/08/18 No.82中国の環境問題をみる米国の視線と戦略〜制度改革、ビジネス拡大につなげるソフトアプローチ

佐々木高成
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

中国の台頭または大国化がもたらすグローバルな影響についての米国内の議論は始まったばかりといってもいい。例えば中国の膨大な資源消費について、また中国、地球環境に与える負の影響等にも強い関心が向けられている。

World Watch In stituteは中国の急速な経済成長による資源消費によって世界の資源が枯渇する恐れに直面しているという報告書を発表した。また、レスター・サローが創設したEarth Policy Instituteによれば中国は穀物と肉、石油、石炭、鉄鋼という基礎的資源・原材料の消費では今時点でも世界最大の消費国になっており、石油は米国に次いで2位である。中国が現在の先進国のような資源消費パターンを追随すると仮定した時の資源消費需要は到底充たせない。中国人の一人当たり石油消費量が現在の米国人と同じになったとすると中国だけで日量9,900万バレルを必要とするが、これは今の世界全体の生産量7,900万バレルを遥かに上回る。よってサローは中国が欧米のような成長パターンを追随することは不可能だという。

昨年9月、下院外交委員会アジア太平洋小委員会(James Leach委員長、共、アイオワ州)は中国を中心とするアジアの環境問題と米国の対応についての公聴会を開催した。「中国では急速な経済成長に伴って深刻な環境問題が発生している。それは中国国内の問題に止まらずグローバルなリスクとして捉えるべきだ」というのが議会の問題意識である。中国の石炭火力発電所などから大気中に排出される水銀が米国ニューイングランド地域にも達しているという研究報告も米国で紹介されている。

「川は黒く流れる」(The River Runs Black:The Environmental Challenge to China’s Future)という本を著した外交評議会のElizabeth C. Economy 上席研究員によれば、中国の環境汚染は「環境大災害」とでもいうべき状況にあるという。経済的にみても環境汚染のコストは中国GDPの8%から12%に相当し、山西省ではこの環境汚染コストは過去10年間の経済成長を全て帳消しにするほど大きいと同省の役人自身が認めている。

<環境問題で手をつなぐ中国政府、NGOと外資系企業>

Economy氏の証言で興味深いのは、中国が経済発展において外資系企業を活用したように、環境保護問題でも世銀や二国間援助を活用しているほか、多国籍企業の力もうまく取り込んでいることだ。例えばロイヤルダッチシェルは中国でのガスパイプライン建設に当たって環境影響調査を導入。これによって中国での環境保護に対する認識を高めることに貢献したと言われる。また、中国ではすでに環境保護のNGOが立ち上げられていて、単なる啓蒙活動にとどまらずダム建設への異議申し立てなども積極的に行っており、その活動には民主化推進も含まれているという。「中国の開発問題に関与していくことは環境保護という目的だけでなく中国における民主化、透明度の高い法制度、米国の商業機会拡大など米国の中核的な外交目標に合致する」と同氏は述べている。

米系企業は本国では企業の社会的責任(CSR)として海外でも環境問題等に取り組まざるをえないし、中国内では政府やNGOも資金と知識を有する外資系企業と組むことにメリットを見出しているという構図になっている。米国が提示するモデルや社会行動規範に中国のNGOや政府も関心を寄せているのが実態である。これは米中貿易摩擦にみる米中政府の応酬やレトリックとはかなり異なるイメージであり、米国はここでは社会的影響力を与えるソフトパワーを発揮しているのである。言い換えれば、米国の官民は日米経済摩擦で取ったアプローチに似て、相手国の中で自分と利害や価値観を共有するセクターや勢力と協力して影響力を行使する方法をとっているように見える。

振り返って日本の対応はどうか。実は日本企業では中国の規制を上回る排水対策や拝ガス対策を自主的に実施しているケースもあり、中国でかなり環境保護等「多彩な社会貢献活動をおこなっているが、一般の中国人には殆ど認知されていない」(経団連CBCC)という状況にある。省エネルギーでは世界の模範とは言えない米国が日本と比べ得点すべきところはしっかり得点している。

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