一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2007/03/29 No.94最近のドイツの協同組合の動向〜中小企業のネットワーク化に大きな役割

田中信世
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

欧州においては企業の組織化、ネットワークという点で協同組合が大きな役割を果たしている。欧州における最初の協同組合とされているのは、1844年、英国の北部イングランドにおいて28人の綿紡績労働者によって創設された購買組合「ロッホデール・エクイタブル・パイオニアズ・ソサイティ」(Rochdale Equitable Pioneers Society)である。労働者個人では高いお金を払っても劣悪な品質の食料品しか買えないという状況を改善するために、共同で食品を購入することによって市場への影響力を行使し、安い価格での購入を実現しようとするものであった。この協同組合が取り扱った食料品は、発足当初においては、小麦粉、バター、砂糖およびオート麦のフレークのわずか4種類だけであったという。

それから3年後、ドイツ語圏ではフリードリヒ・ヴィルヘルム(Friedrich Wilhelm)とヘルマン・シュルツェ(Hermann Schulze)の2人が同じ年に、しかしお互いに何の関係もなく最初の協同組合を創設した。1847年、フリードリヒ・ヴィルヘルムがヴェイヤーブッシュ(Weyerbusch)において、生活苦にあえいでいる農村の人々を支援するためにライファイゼン(Raiffeisen)を創設した。そして1862年に、今日的な意味での最初の協同組合とされる「ヘデスドルファー(Heddesdorfer)貸付金庫組合」を設立した。

同時にデリッツ(Delitzsch)においてヘルマン・シュルツェが生活苦に陥っている手工業者を支援するために救済事業を立ち上げた。1847年、シュルツェは自助、自己責任、自己管理の原則に基づき指物師および靴職人のための最初の「原料組合」を創設し、1850年には、「原料組合」を発展させた形で、今日のフォルクスバンクの前身である「貸付組合」を創設した。

こうして、ドイツにおいてはライファイゼン銀行、フォルクスバンク、スパルダ銀行など協同組合系の銀行が発達していったが、協同組合の設立は銀行の分野だけにとどまらず、小売業における仕入れ協同組合(Edeka、REWE、ドイチェブルネンなど)、消費協同組合(Coop)、住宅建築協同組合、農業協同組合(ライファイゼン、酪農協同組合など)、林業協同組合(入会協同組合)、手工業協同組合、サービス協同組合など様々な分野で協同組合による企業や個人のネットワーク化が進んでいった。ドイツの協同組合の上部組織である「ドイツ協同組合・ライファイゼン組合連合会」(Deutscher Genossenschafts-und Raiffeisenverband e.V=DGRV)のホームページ(http://www.genossenschaften.de/)によれば、ドイツにおける登録協同組合の数は2005年末現在で5,279を数え、消費協同組合を除く協同組合の組合員数は1,740万社に達している。

一方、ドイツにおける企業の団体としてはドイツ商工会議所(IHK;industrie-undHandelskammer)やドイツ手工業中央組合(ZDH;Zentralverband des deutschenHandwerkese.V)の存在がよく知られている。

このうち商工会議所については、ドイツ国内に81の商工会議所が組織されている。この上部機関がドイツ商工会議所会議(DIHT;Deutsche Industrie-und Handelskammertag)である。IHKには製造業企業が(後述の手工業会議所の会員になっていない限りにおいて)会員になることが義務づけられており、現在の会員数は360万社である。商工会議所は、それぞれの管轄地域において、①立地政策への助言、②創業支援、企業活動の促進、③従業員研修、④技術革新と環境に関連したコンサルティング、⑤国際活動(原産地証明書および自動車の国境通過許可証の発行、外国貿易研修等)などの活動を行っている。また、手工業者の組織であるドイツ手工業中央組合は、その下部組織として、①54の手工業会議所(HWK)を束ねるドイツ手工業会議所会議(DHKT;deutscherHandberkskammertag)、②38の中央専門組合(Zentralfachverbaende)を束ねるドイツ手工業企業組合(UDH;Unternehmensverband Deutsches Handwerk)、③手工業関連の重要施設を傘下に置いている。手工業者はDHKTの会員になることが義務付けられており、2005年現在の登録企業数は85万である。DHKTの主な活動は、①個々の手工業者や手工業者組織の利益の増進、②手工業促進策について提案や意見具申、③手工業の動向についての定期的な報告書の作成、④職業教育の実施と職業教育関連規則の制定、⑤法律相談や企業相談を通じた会員支援などである。

こうしたドイツ商工会議所やドイツ手工業中央組合と協同組合が根本的に異なる点は、商工会議所や手工業組合の場合、企業は会員になることが法律によって義務付けられているのに対し、協同組合の場合は、共同で活動したほうが有利であると考えられる場合には出資金を出すことによって任意に立ち上げることが出来るという点であろう。

協同組合は法的には登録協同組合(eingetragene Genossenschaft)としての法人格を持ち、協同組合を設立するための要件として、①1つの協同組合は少なくとも3人(社)の会員を持っていなければならない(協同組合法§4)、②協同組合は登記裁判所としての所轄の簡易裁判所の協同組合登記簿に登記しなければならない、③また協同組合は法律で定められた最低限の内容を盛り込んだ定款を作成しなければならない(協同組合法§§6ff)、などが定められている。

一方協同組合は、協同組合としての活動を容易にすると同時に、監査において国家の介入を防ぐために、すでに早い段階から協同組合連合会(監査組合)を結成し、今日では協同組合が連合会(監査組合)の会員になることが義務付けられている。すなわち、協同組合連合会(監査組合)の主な活動は、会員である個々の協同組合に対して法的問題、税金問題、企業経営上の問題についてコンサルティングなどの活動を行うとともに、協同組合に対する監査を行うことであるが、この監査に対するコストが特に組合員数の少ない小規模な協同組合には大きな負担となっており、今後の協同組合発展の上で解決すべき課題となっている。

ところで、ドイツの協同組合の法的基礎となっているのは、1898年5月20日に制定された協同組合法である。協同組合法は1973年10月9日に大幅な改正が行われた後、2006年に再度抜本的な改訂が行われた。

2006年8月18日に発効した「欧州協同組合の導入と協同組合法の改正に関する法律」(改正協同組合法)では、まずEUによる欧州協同組合指令の国内法化が実施された。今回新たに導入された欧州協同組合は、超国家的な法形態の協同組合であり、EU域内における協同組合の国境を超えた活動を容易にすることを目指したものである。また、改正協同組合法では、ドイツの協同組合について次のような幅広い変更が盛り込まれている。(マイセン法律事務所のホームページ「視点」(Blickpunkt);http://www.meisen.info/refoem-des-genossenschaftsrechts-1025)。

  1. 法改正によって協同組合の創設が容易になる。特に小規模な協同組合は官僚主義からもたらされるコスト負担が軽減される。例えば、協同組合の最低組合員数はこれまでの7から3に軽減された。また組合員数が20までの協同組合は監査役会を持たなくてもよいことになった。また、多くの小規模な協同組合にとって特に重要な変更点は、収支決算額が100万ユーロ以下、または売上高が200万ユーロ以下の協同組合は年次決算の監査義務から免れるという点である。
  2. 法改正によって、社会的または文化的な目的のための協同組合の創設も認められるようになった。
  3. 株式会社法で導入された企業統治の議論の一部が協同組合法においても盛り込まれた。例えば、監査役会の役割の強化、組合員に対する情報開示の改善、協同組合の義務的監査における独立性の強化などである。
  4. 協同組合の資本調達や資本維持が容易になった。例えば、現物出資による協同組合の創設が可能となった。また、最低資本(出資金)が導入されるとともに、純粋に投資を目的とした組合員の加入も認められるようになった。

もっとも、上記の変更点の一部は導入を義務付けられているわけではなく、例えば、投資を目的とした組合員を募るか、最低出資金制度を採るかは個々の協同組合が自由に決定できることになっている。

ドイツでは最近、金融、小売業、消費協同組合、農業、手工業といったこれまでの伝統的な分野における協同組合の設立にとどまらず、その他の分野でも各種の活動目的を持つ協同組合が登場してきている。例えば、エネルギー供給の分野では「グリーンピース・エネルギー」が設立されており、変わったところではドイツのインターネットの「de」ドメインを認可する協同組合も設立されている。また、創業者協同組合(Gruendergenossenschaft)も新しいタイプの協同組合として挙げられる。創業者協同組合は2004年4月にルール地方のヴィッテン(Witten)という町で女性創業者であるエヴァ・イーネンフェルトという人が立ち上げたものであり、現在、22社の創業者が組合員となって、これから創業する人に対してコンサルティング、ビジネスコンセプトの作成、税務問題、社会保険問題、会計処理、経営管理問題など企業の創業にかかわるあらゆる相談に応じるなどの活動を行っている(Gruendergenossenschaft Witten eGのホームページ;http://www.gruendergenossenschaft.de/GG-CMS/index.php)。

ドイツにおいては今後、2006年の法改正の効果もあって、社会的、文化的な活動を目的とする協同組合を含め、こうした多様な形態、活動目的を持つ協同組合の創設が増加するものと期待されている。

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