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研究ノート
 
 

2020年の日本産業の姿

 
(財)国際貿易投資研究所
客員研究員
   篠井 保彦
 

要約
  当研究所の構築した産業連関ダイナミック・モデル(JIDEA(注1))により、2020年までの産業構造変化の長期予測を試みた。現下の世界経済危機による日本経済の著しい悪化に対しては、政府の経済見通しをそのまま2010年までモデルに外挿し、それ以降は緩やかに元の成長軌道に復帰するという仮定を置き、2011年から2020年までの日本経済の成長過程をシミュレーションした。その推計データにより、日本の産業構造が今後どのように変化するかを予測し、その要因を分析した。
  2020年の予測値で見ると、今後の実質生産額、労働生産性ともに高い伸びが期待でき、日本産業の牽引力となるのは、電子部品、鉄鋼、医薬品、一般・特殊機械、重電機器、電気・ガス・水道、非鉄金属、輸送機器などである。逆に対個人サービス、金属製品、石炭・石油製品、教育・研究・医療サービス、食料・飲料、木材・パルプ、金融・保険・不動産部門は生産の伸び、労働生産性の伸びともに平均を下回り、停滞傾向が続くと予測された。

1.日本産業の予測

1−1.モデルの要件
  長期の産業構造変化を予測しようとするとき、モデルが必要とする要件は何であろうか。産業構造が変化する基本的要因は技術革新であり、技術変化の非連続的性格を考慮すると、歴史データを基盤とする時系列計量モデルには限界がある。ただし、非連続な技術変化であっても、それが産業界の隅々までいきわたるにはある程度の時間を要することを考慮すれば、長期時系列データには技術変化が徐々に取り込まれ、反映していくと考えられる。また、技術の変化は特定の産業部門あるいは商品において発生し、その産業・商品の投入構造の変化として発現する。その産業が投入する原材料・部品の数量構成が変化することによってそれらを供給する他の多くの産業に波及することになる。そのような現象のシミュレーションを可能とするために、産業連関構造をビルト・インした時系列モデルが必要であると考える。
  産業構造の変化の要因としては、部門ごとの労働生産性の違いがあると考えられ、労働生産性の低い産業から高い産業へと経済の比重が変化することにより、経済成長が生じると考えられる。一方、また産業構造の変化を引き起こす要因には需要構造の変化があり、財別需要の変化がある産業をより大きく成長させ、また、ある産業を縮小させ、産業構造の転換となって現れる。モデルとしてはこれらの変数を包含し、それらができるだけ内生化できるモデルが必要である。そういった観点から現状におけるデータの得やすさ、推計方法の便宜などを考慮すると、産業連関表をベースにおくモデルが最適であり、これらの観点をかなりの部分まで総合的に取り入れた分析が可能となるといえよう。
  以上の観点から、当研究所は永年にわたり日本の産業連関表をデータベースとして産業連関ダイナミック・モデル、JIDEAを開発してきた。このモデルを使用して、このたび日本産業の長期予測を行うこととした。もちろん、産業連関・ダイナミック・モデルであっても、技術革新、海外市場の変化、エネルギー転換など既存の歴史的データから逸脱した現象をモデルに内生化することは不可能である。もしそれらのシミュレーションを行おうとするなら、これらは一定の仮定に基づいた外生値として与えざるを得ない。
  したがって、本来モデルは過去の実績(観測値)から把握されるその趨勢的動きを未来に投影することが出来ればよいと考えられる。過去から現在に至るまで、経済活動に働いた諸力を時系列に沿って測定し、それを未来に投射することによって、未来の姿を予測する。そのシミュレーションは、それらの諸力を生み出した環境に大きな変化がない限り、それがそのまま続くものとの仮定に立つことになる。もちろん現実においては、未来は単純な過去の延長ではない。現実の経済においては、過去からのトレンドを変更しようとする諸力、あるいはモデルに組み込まれていない諸力の登場、あるいは予想も出来ない突発事項、政策変更などが生じるためである。それでは、このような過去のトレンドを延長するだけのモデルはまったく意味がないのだろうか。むしろ、現状に働く諸力を不変と仮定して、過去の傾向をそのまま延長したとき、5年後、10年後の経済がどのような姿となるかを一つの仮説として提示することによって、現在の状況をよりよく理解でき、また、今後直面するかもしれないさまざまな問題を考えるためのヒントを得ることが出来ると考える。

1−2. 経済全体の動き:ベースラインの設定
  推計された未来の産業構造から種々の考察を行うにあたり、その未来の産業構造における変化がどのような要因によって生じたものかを説明できれば、その産業の未来の姿から多くのことを学ぶことが出来る。
  まず、今後約10年間、2020年までに日本経済がたどる道筋を想定し、それに基づいて未来の産業の姿をシミュレーションし、それをベースラインとする。今後の人口の縮小、労働力人口の縮小は織り込まれている。政府は4月27日、世界的な景気減速の影響を受けて2009年度の実質GDP成長率はマイナス3.3%と大きく低下する見通しであると発表した。モデルにはこれら直近のGDPの動きは取り入れたものの、現在審議されている景気浮揚策については採り入れず、政府投資は2006年レベルのまま2020年まで変わらないと仮定している。米国の旺盛な国内消費に牽引されてきた世界経済は、今回のサブプライム・ローン破綻を契機にその成長要因を失い、世界の市場構造は大きく変化するとの見方もあるが、ベースラインではそのような世界市場の変化(注2)は織り込んでいない。危機を脱する2010年以降、家計消費、民間設備投資は緩やかにもとのレベルを回復していくと仮定した。すなわち、経済危機を脱した後においても経済成長が急速に拡大する要因は見当たらず、2020年まで日本経済は1%以下の低い経済成長率が続くというのが、モデルのベースラインで描かれる予測である。輸出入に関しても、世界経済に大きな構造変化はなく、2008、2009年の落ち込みの後、再び従来の成長軌道にゆるやかに復帰すると仮定している。なお円の対米ドル為替レートは2007年値で固定している。
  モデルは1985年から2006年までを観測値として内部に持ち、2007年以降2020年までを予測期間としているが、以下の説明では便宜上、1985年から2005年までを実績値、2006年以降2020年までを予測値として5年おきに提示(以下の図表は明示しない限りすべて2000年価格)することにした。
  表1、表2からも分かるとおり、GDPの支出構成では2000年以降、民間投資、純輸出(=輸出−輸入)の比重が増える傾向にあり、逆に政府投資、政府消費は縮小すると予測される。国民所得構成比で見ると、雇用者所得の比重は減少傾向にあり、一方、営業余剰、資本減耗引き当て、間接税の比重は増大することが予測されている(図2)。

  表1  ベースライン:GDP支出項目別実績と予測(実質) (単位:兆円)

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  表2  ベースライン:GDP支出項目別実績と予測の構成比 (単位:%)

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

図1

図2

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

1−3.産業全体の構造変化および将来像
  このベースラインをもとに、第1次、第2次、第3次産業に分けた産業構造がどのように推移するかを生産額構成比で見ると、2005年までの観測値では、変化は微々たるものであるが、第1次産業、第2次産業の比重が減少し、第3次産業の比重が増えている(表3)。2010年以降もおおむねその傾向は持続するものの、その変化のスピードはより緩やかになると予測される。

  表3  第1〜3次産業生産額構成比推移 (単位:%)

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  このベースラインのもとに各産業の生産額がどのように推移するか、モデルの推計する66部門の産業を13部門に集約して表示したのが図3.である。生産額の2010年における低下は世界的金融危機の影響である。2020年時点で生産額の一番大きいのは金融・保険・不動産部門であるが、不動産には帰属家賃(注3) が含まれるため、通常理解される「金融・保険・不動産部門」とはやや異なっている。特徴的な動きを示すのは土木・建築部門、軽工業部門であり、1990年以降縮小に転じている。1985年から2020年まで一貫して伸びが大きいのはビジネス・サービス部門であり、電子・電気機器部門は2000年までは高い伸びが続いたが、その後伸びは鈍化すると予測される。

  図3

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  産業を13部門に集約し、その生産額構成比を示すと図4のとおりである。生産の比重が増大傾向にあると予測されるのは電気・電子機器、商業、金融・不動産、運輸・通信、ビジネス・サービス部門であり、重化学工業、機械工業、電力・ガス・水道、公務・教育・研究・医療はほぼ横ばい、比重が低下傾向にあるのは農林水産・鉱業、軽工業、土木建設、対個人サービスである。

  図4

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  さらにこの推移を製造業に限ってより詳しく見ると(図5)、2005年に土木建設の低下は底を打ち、世界経済危機の影響を脱した後は緩やかな伸びに転じ、電気・電子機器、輸送用機器は世界経済危機以降、生産の伸びは鈍化するものの緩やかな伸びを継続するとみられる。農林水産、繊維部門は引き続き減少傾向を続けると予測される。木製品・パルプ、石油・石炭製品、金属製品、ガラス・セメント、非鉄金属、精密機器部門は2007年以降の予測期間を通じて横ばいか微増にとどまるだろう。

  図5

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  サービス産業部門における業種別生産額の推移(図6)をみると、2008年の落ち込みが大きく、世界経済危機の影響は製造業より顕著に現れている。大きな比重を占めているのは金融・保険・不動産部門、商業部門、教育・研究・医療部門、対事業所サービス部門であり、これらの部門は世界経済危機の落ち込み以降は順調な伸びを続けると予測される。対事業所サービス部門は、リース、人材派遣、広告宣伝、機械修理、法務・会計サービスなどを含む部門であるが、1985年より大きな伸びを示す活発な部門である。そのほかの部門は比重が比較的小さく、通信部門、情報サービス部門(注4)の伸びは順調であるのに対し、公務、対個人サービスの伸びはほぼ横ばいと予測される。運輸は1996年以降2003年まで停滞が続いたが、その後は経済危機の期間を除き上昇を続けるとみられる。
  製造業、サービス業ともに、比重の大きな部門が比較的順調な生産拡大をつづけることから、日本経済全体もゆるやかながら順調な拡大を続けると予測される。

  図6

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  このような産業構造の変化が生じる要因の一つは労働生産性の変化という供給側の要因が挙げられ、また一方では消費、投資、輸出における需要構造の変化が挙げられよう。

2.産業構造の時系列分析

2−1.労働生産性
  経済発展の鍵となる要因のひとつに労働生産性がある。我々のモデルでは、国内生産額および従業者数データから労働生産性を計算するが、未来予測においては、産業連関分析の基本的手法として、まず国内生産額を推計し、それに労働力投入係数(=労働生産性の逆数)を掛けて雇用を推計する方法をとる。短期予測の場合は労働力投入係数を一定として計算するのが一般的であるが、長期推計の場合は、労働力投入係数が変化すると仮定したほうがより現実に近いシミュレーション結果が得られる。ただし、労働力投入係数が今後どのように変化するかを予測することは難しい。さまざまな関数形を考えて、過去の観測値による回帰計算を試みたが、モデル全体に組み合わせたとき、妥当な結果が得られた関数は少なかった。最終的にタイムトレンドにより過去の傾向をそのまま延長することにしたが、部門によっては過去の高い成長を今後も維持することは難しいと考えられる場合があり、多くの部門において経験的な補正を施した。すなわち、本モデルでは各産業の労働力投入係数を部門別にそれぞれ仮定したことになる。
  以上の経緯より、本モデルでは労働力投入係数、実質生産額、雇用者数の三者は一体化して考えるべきであり、ここでは分かりやすいよう労働力投入係数を通常の労働生産性に計算し直して、これら三者の変化率を1990年から2005年までと2005年から2020年までとに分け、対比してみたのが表4.である。この表は、2020年の労働生産性変化率の大きい順に並べ替えて見やすくしている。
  この表からいえることは、産業構造の予測において、労働生産性の変化率が大きい部門がおおむね生産額の伸びにおいても高いといえるが、土木建設部門のように、労働生産性の変化率が小さい部門でも2020年においてかなり高い生産の伸びを維持する部門が存在する。むしろそれぞれの産業の発展段階、成熟度に応じて、生産が高い伸びを維持しつつ、労働生産性が高まっている部門、生産の伸びは高いが生産性の伸びはそれほどでない部門などいくつかの特性に分類できる。それに伴って雇用の変化にもいくつかのパターンが生じることになる。

  表4  労働生産性、実質生産額、雇用者数の変化率 (%)

  注:太字は集計した項目
(出所:JIDEAモデルによる推計)

  このパターン変化を図示することを試みた。実質生産額の伸び率と労働生産性の伸び率の関係を分析し、さらにこれらの関係から産業の活力を分析するために、2005年から2020年の間の各産業の労働生産性の変化率と実質生産額の変化率を全産業の平均(全産業の変化率)と比較し、その乖離を撒布図としてプロットしたのが図7である。
  この図において、第I象限にある産業(電子部品、鉄鋼、医薬品、電子・電気機器計、一般・特殊機械、電気・ガス・水道、重電機器、非鉄金属、輸送機器、運輸、商業など)は生産性の上昇、生産額の上昇共に平均を上回る産業であり、日本の産業の活力となる産業といえる。
  逆に第III象限にある産業(対個人サービス、石炭・石油製品、金属製品、食料・飲料、情報サービス、木材・パルプ、教育・研究・医療、通信・放送、金融・保険・不動産など)は、生産性上昇、生産額上昇、ともに平均を下回り、停滞傾向にある産業といえよう。
  第II象限にある対事業所サービス、化学品計、土木建設は生産性の伸びは平均以下であるが、生産額そのものは平均を上回る伸びを示すと予測される産業である。
  第IV象限にある農林水産、鉱業、精密機器、繊維、コンピュータ・通信機器、公務、その他製造、窯業は生産額の伸びは平均以下であるが労働生産性は平均を上回ると予測される産業部門である。

  図7
  (出所:JIDEAモデルによる推計)

2−2. 中間投入の変化
  上記@の労働生産性の向上が大きく、生産の伸びも大きい部門に分類された医薬品、鉄鋼、電子部品はについて、その中間投入構造にどのような変化があったか見てみよう。
  使用したモデルは、中間投入係数マトリックスを一定とせず、1985年から2006年までの行計(中間投入行合計)の観測値の変化をトレンドとして、2020年まで中間投入行計を延長し、その値に基づいてマトリックスを変化(注5)させていることに注意されたい。

2-2-1. 医薬品部門
  医薬品部門の投入構造を見ると、投入コストに占める営業余剰および賃金の比率が縮小傾向にあり、特に2005年以降賃金の比率は引き続き縮小、営業余剰の比率は横ばいないし微増に転じている(図8)。間接税の比率は増大している。
  中間投入のうち、情報関連コスト(通信、情報サービス、対事業所サービスの合計)教育・R&D・医療関連コスト、およびエネルギーコスト(石油、石炭、電力合計)が生産額に占めるシェア(%)で見ると、医薬品部門では研究開発コストの比率が2005年まで大きく拡大し、その後は微減に転じている。情報関連コスト、エネルギー・コストの比率は横ばいである(図9)。

  図8
  

  図9

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

2-2-2.鉄鋼部門
  鉄鋼部門の投入構造は中間投入が生産額の70%を超える大きな比率を占めているところに特徴があり、構造変化の大きな動きとしては資本減耗引当の比率が増大傾向にあることである。賃金の占める比率も2005年以降わずかであるが減少傾向にある(図10)。
  中間投入においてはエネルギー関連コストの比率が1985年以降大きく減少し、2010年以降横ばいに転じる。情報関連コストも2000年までは増大したがその後横ばいに転じている。運輸コストが比較的大きな比率を占めるので、その動きも図に加えた(図11)。

  図10
  

  図11

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

2-2-3.電子部品
  電子部品部門の投入構造は、中間財が60%以上と大きな比率を占め、かつそれが2005年以降増大していることが注目される。比率の縮小しているのは賃金の比率であり、営業余剰の変化はわずかであるが、やはり縮小傾向にある(図12)。
  特徴的ないくつかの中間財の動きを見ると、電子部品の中間財としての投入比率が大きく、電子部品部門はさらにその部門内で部品の相互投入を行っているものとみられる。R&D経費は2005年をピークに横ばいに転じる(図13)。

  図12
  

  図13

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

2−2.部門別生産額の伸び率に対する需要項目別寄与度
  産業構造の変化を推進した要因を探るため、部門別産出額の変化の要因となる需要項目別変化を消費(家計、政府、家計外の合計)、投資(民間設備、政府設備、在庫変動の合計)および外需(=輸出額-輸入額)、中間需要に分けて、計測を試みた。1990年から2005年の実質生産額(実績値)および2005年から2020年のそれ(推計値)の伸びを需要の上記4項目の寄与度に分解したのが表5.である。表は2005年に対する2020年の伸び率に基づいて産業をその高い順に並べ替えた。
  この表の2005/2020予測期間をみると、生産の伸びの高い部門(上位1位から7位まで)は総じて中間需要の寄与度の高い部門といえる。例外となっている一般・特殊機械部門は本来資本財であり、中間財としての需要は無い部門であるため、投資需要あるいは外需が大きな寄与度を占めるのは当然であろう。中間財の寄与度が高い部門が高い生産の伸びを示していることは、逆に言えばこれらの産業は日本の産業全体に緊密に組み込まれて日本経済発展の原動力となっている部門といえよう。
  表5に示した生産額を変化させる要因のうち、中間投入および輸入は本モデルでは生産額の大きさに直接依存する、いわば従属的な要因であり、むしろ生産変化を起こさせる主要要因は内需(=消費+投資)および外需(=輸出−輸入)にあるといえる。

  表5  生産額伸び率に対する消費・投資・外需・中間需要の寄与度  (%)

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

  2020/2005年の生産額の変化に対する予測において、この寄与度を内需および外需のみに限ってを取り上げ、x-y平面にプロットして比較したのが図14である。この図でみると、第I象限にある一般・特殊機械、輸送機器、コンピュータ・通信機器などは内需、外需とも寄与度が大きく、内需、外需の両方で今後の成長が期待できる部門といえる。重電機、窯業、鉄鋼は内需の寄与度はほとんどゼロで、その伸びはほとんど期待できず、今後の生産の伸びは外需の伸びのみにかかっているといえよう。また、この図の第II象限にある精密機器、その他化学品(=薬品を除く化学品)、電子部品は内需の寄与度はむしろマイナスで外需の伸びがそれを上回るため、生産増が生じると予測される部門である。

  図14

  (出所:JIDEAモデルによる推計)

むすび
  ここに紹介した産業構造の長期予測は、日本が未曾有の世界的経済危機の最中にある時期であるため、この経済危機をどのようにモデルに取り込むかに大きな困難があった。日本政府の危機対策、諸外国の危機対策は現在審議ないし実施過程にあり、その規模および実効性については不明の段階にある。そのため、本モデルでは、政府投資は2006年水準で一定とし、為替レートをはじめとして外需に関連する諸データにおいても、今回の経済危機の状況をモデルに取り込んでいない。家計消費、投資、外需が政府の予測するように2009年、2010年において大きく落ち込み、その後緩やかに元の成長軌道に復帰すると想定している。したがって、この想定に基づく推計結果については異論も生じよう。
  このような仮定の下で日本の成長の原動力となるべき産業部門がどのような部門であり、その成長過程がどのようなものであるか、ある程度プロジェクションできたといえる。産業を網羅的に概観したため、踏み込んだ分析は行っていないが、さらにこのような構造変化の下で今後のエネルギー需給、労働力需給など、多元的な分析を試みたい。


(注1)Japan Inter-industry Dynamic Econometric Analysis: 米国メリーランド大学名誉教授クロッパー・アーモン(Clopper Almon)が設立した産業連関ダイナミック・モデル研究所(INFORUM)の有するノウハウおよびコンピュータ・ソフトにより構築した日本産業連関ダイナミック・モデル。このモデル構築には筆者のほか小野充人(ITI研究主幹)、今川健中央大学名誉教授、長谷川聰哲中央大学経済学部教授が携わった。その概要については、クロッパー・アーモン著、篠井保彦、長谷川聰哲、今川健(訳著)『経済モデルの技法』(日本評論社 2002年4月)補論Iを参照。
(注2)海外市場の変化については、INFORUMが維持するBTM(バイラテラル世界貿易モデル Bilateral Trade Model,120部門・16カ国地域)より世界の対日需要、対日輸出価格が推計されており、これを外生値として取り込んでいる。この外生値は今回の世界経済危機以前に推計されたもので、その後修正されていない。
(注3)帰属家賃は持ち家の所有者が自らに家賃を払っているものと仮定して、国内総生産に算入する。その大きさは「金融・保険・不動産部門」の約4割強を占める。
(注4)情報サービスにはソフトウェア業、情報処理・提供サービス、映像情報政策・配給、新聞、出版、ニュース供給・興信所が含まれる。
(注5)計算方法は、基準時点たとえば2006年の中間投入係数を固定して過去の産出額を掛けて得られる中間投入(技術変化を固定)と係数を固定せず過去の各年のマトリックスに生産額を掛けて得られる中間投入(技術変化を反映)を比較し、その乖離率を指数化して、トレンドで回帰する。このとき各マトリックスは対角要素を取り除く。その得られたトレンド値を基準時点のマトリックスの各行に掛けることにより、マトリックス全体を延長推計する。得られたトレンド値をすべてそのまま受け入れるのでなく、各産業の特性を勘案しつつ、過去の急速な変化は今後は鈍化するものとして修正した。

 
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