一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2014/04/08 No.17激変する貿易構造と輸出競争力に必要な視点(1/2)

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

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日本の貿易収支は大震災の発生した2011年以降に赤字へ転換した。天然ガスなどの輸入が大きく拡大したためだ。輸出も海外への生産移転などにより構造的に数量が伸びなくなっている。こうした日本の貿易構造の変化は断片的に目や耳に入ってくるが、その進化のスピードが速いため、往々にして我々の認識を上回ってしまう。貿易構造が激変している背景とその対応を探ることにしたい。

4か月連続で経常収支が赤字

日本の経常収支は大幅な黒字を続けてきたが、ここ数年で急速に黒字幅を縮小させている。その主因は貿易収支の赤字転換である。日本の経常収支は2010年には2,176億ドルの黒字を達成していたが、2011年には1.264億ドル、2012年には586億ドルと大きく低下し、ついに2013年には343億ドルにまで黒字幅が縮まっている。つまり、2013年は2010年よりも1,833億ドルも経常収支が少なくなっているのであるが、そのほとんどが貿易収支の赤字拡大で説明できる。

図1  日本の輸出入差引の推移(ドル建て)

資料)ジェトロ J-Fileより作成

貿易赤字拡大の原因は、言うまでもなく輸出が低迷する中で輸入が急増したためである。図1は日本の貿易動向(通関実績)をドル建てで見たものである。輸出はリーマンショックから2009年には大きく減少したが、2010年から増勢に転じた。2011年には8,208億ドルのピークを迎えたものの、その後は低下している。輸入は2009年に落ち込んだ後、エネルギー輸入増から拡大基調にある。その結果、図1の折れ線グラフのように、輸出入差引は2011年から赤字に転換し、2013年には1,198億ドルの赤字となった。

経常収支においても、月ベースでは、2013年の10月から2014年の1月まで4か月連続で赤字を記録した。この傾向が続けば、2014年全体で経常収支までも赤字転落の可能性がある。

しかし、2014年2月の貿易動向を見てみると、輸出数量は前年同月比で5.4%増と1月の0.2%減からプラス転換している。一方、輸入数量は0.5%減と1月の8%増からマイナス転換となっており、輸出数量への円安効果と輸入数量拡大の一服が見られる。輸出数量の動きに円安効果が現れ始めると、今後の月ベースの経常収支は黒字を回復する可能性が高くなると思われる(実際に、4月8日発表(速報)の2014年2月の経常収支は、6,127億円の黒字であった)。

なお、図1のように、2013年の輸出はドル建てでは前年比10.2%減、輸入は5.2%減となり、ともに2012年から下落した。しかし、円建てでは逆に輸出入とも増加しており、輸出は9.5%増で輸入は15%増であった。これは2012年には1ドル79.8円だった円が、2013年には97.6円の円安になり、18.1%も下落したことが背景にある。つまり、円安から2013年の輸出での円の手取りが前年より1割も増加しており、輸出企業の収益拡大に貢献したと考えられる。

テレビ・パソコン・スマホの輸入価格が輸出価格を上回る

図1のように、各年の輸出入の動向を見るだけでは、何が原因で日本の貿易構造が急速に変化しているのかが明確には理解できない。変化の結果、2011年からの輸出入差引が赤字に転落していることを読み取れるだけである。

図2は、2014年2月の主要商品別の輸出入差引(円建て)をリーマンショック前の2007年2月と比較したものである。総額ベースでは、2007年2月には9,615億円の黒字であったが、2014年2月には8,003億円の赤字に転換している。

その中身を見ると、図2のように、一般機械は2007年2月よりも2014年の方が黒字幅を1,000億円強、輸送用機器は3,000億円強も縮小している。それ以上に輸出入差引を大きく変化させているのは、鉱物性燃料と電気機器である。

鉱物性燃料の輸出入差引は2014年2月には2.3兆円の赤字を記録したが、2007年よりも1兆円も赤字幅を拡大している。つまり、2014年の2月には、7年前よりも1兆円も多くエネルギーの輸入代金を支払っているのである。年換算で12兆円となるので、日本のGDPを480兆円とすれば、7年前よりもGDPの2.5%相当を海外に流出していることになる。

電気機器の2007年2月の貿易黒字は5,846億円であったが、2014年2月には1,061億円の黒字に縮小している。黒字幅の減少は4,785億円であり、鉱物性燃料の赤字増の約半分になる。電気機器の中でも、半導体電子部品の黒字減は約1,500億円、カラーテレビを含む音響映像機器は約800億円であった。また、元々輸出入差引が赤字であった通信機器は約1,300億円の赤字増であった。

図2  主要商品別輸出入差引(円建て)

(資料)財務省貿易統計より作成

鉱物性燃料の輸入拡大は震災による原子力発電の停止が原因であるが、電気機器の黒字縮小は主に国内生産の海外移転による影響と考えられる。日本企業はリーマンショック以降、海外への生産移転を急速に進めた。カラーテレビ、通信機器や半導体等の電子部品はもちろんのこと、自動車用ガラス、汎用内燃機関、銅・アルミなどの非鉄金属においても例外ではない。

この結果、カラーテレビにおいては、電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば、輸入数量は2013年1-11月において560万台で、1台当たりの輸入単価は28,000円であった。これに対して輸出数量は101万台で輸出単価は16,500円であった。つまり、輸入品は輸出品よりも数量で上回っているだけでなく、価格が高いのである。電子計算機の輸入数量は1,529万台で単価は71,054円、輸出数量は472万台で輸出単価は24,065円であり、カラーテレビ同様に輸入品の価格が輸出品よりも高い。日本電機工業会(JEMA)の統計では、ルームエアコンの輸入数量(2013年4月~2014年1月)は574万台となっており、輸出数量の7万5,000台をはるかに凌ぐ。

なお、携帯電話の輸入数量は、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の統計では、2013年には3,458万台に達しており、1台当たりの輸入単価は46,613円であった。輸出数量は34万台にとどまり、輸出単価は19,708円であった。携帯電話のほとんどは中国からの輸入であり、輸入台数は輸出台数の100倍に達している。

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