2025/03/12 No.150トランプ大統領が仕掛けた関税の網から日本はいかにして逃れるか~その2 国別の個別対応や実際に適用する関税率等で実務的な課題を抱える相互関税~
高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
世界一律10~20%の関税に先んじてカナダ・メキシコ・中国に追加関税を発動
ドナルド・トランプ大統領は2024年大統領選挙において、世界一律10~20%のユニバーサル・ベースライン関税の賦課を公約に掲げた。世界一律であるから、当然のことながら、日本もその対象になる。ユニバーサル・ベースライン関税は、米国通商代表部(以下、USTR)の元代表であったロバート・ライトハイザー氏が示唆したもので、国際緊急経済権限法(以下、IEEPA)などに基づき、就任早々にも実行するのではないかとの観測があった。
しかし、トランプ大統領は実際には就任早々のユニバーサル・ベースライン関税の発動は行わず、その代わりにIEEPAを根拠として、米国への麻薬(フェンタニル)の流入阻止のために中国からの輸入品に10%の追加関税を2025年2月4日から発動した。そして、移民・麻薬の流入阻止を目的としたカナダ・メキシコからの輸入への25%の追加関税を、3月4日から発動した(詳細は、本稿の前編である「本稿シリーズのその1」を参照)。
こうしたトランプ大統領の早め早めの関税賦課は、言うまでもなく2026年11月に控える中間選挙を意識したもので、その日程から逆算した結果であると考えられる。
初の日米首脳会談直後に鉄鋼・アルミへの25%関税の発動を表明
トランプ大統領は25年2月7日、ワシントンのホワイトハウスで日本の石破茂首相と初の首脳会談を行った。両者は会談後に共同記者会見を開き、自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)での協力の堅持、日本企業の対米投資を1兆ドルまで引き上げること、日本製鉄のUSスチールへの投資、アラスカの石油・天然ガスの日米合弁事業、人工知能(AI)や先端半導体における開発協力、相互関税の導入、などについて話し合ったことを明らかにした。
この日米首脳会談では、トランプ大統領の関税政策については多くの時間は割かれなかった模様だ。ところが、トランプ大統領は日米首脳会談直後の2月10日、日本を含む世界の鉄鋼・アルミの主要輸出国に対して、これまでの25%の追加関税の適用除外措置の撤廃を表明した。
トランプ第一次政権では1962年通商拡大法232条に基づき、鉄鋼には25%、アルミには10%の追加関税を発動したが、カナダ・メキシコ・オーストラリアには関税を適用除外した。その後、バイデン前政権では、日本やEUには一定の輸入量までは無税とする関税割当制度が適用された。
トランプ第二次政権における鉄鋼・アルミへの25%関税は、それまでの適用除外措置を停止し、いずれも25年3月12日から発動することになった。日本は再び適用除外を求めているが、それをトランプ大統領が受け入れるかは3月初めの時点では不透明である。
なお、トランプ大統領は2月25日、覚書に署名し、銅製品の輸入が米国の国家安全保障を損なっているかどうかの調査を開始するよう商務省などに命じた。
注目される日本の非関税障壁に厳しいナバロ上級顧問の動き
トランプ大統領は2025年2月13日、外国が米国製品に課している関税と同水準まで米国の税率を引き上げることを可能にする「相互関税」の導入に関する覚書に署名した。具体的には、商務省と USTRなどに、米国の全貿易相手国との「非相互的な貿易関係」や米国が被る損害状況を調査し、救済措置の勧告を含む報告書を大統領に提出することを指示した。すなわち、付加価値税を含む外国の関税障壁や非関税障壁を調査し、相互関税に繋がる可能性がある勧告を行うよう命令を下した。4月以降に発動の可能性がある。
したがって、相互関税措置が発動されれば、ある品目に高い関税を課している貿易相手国に対して、米国は同じ関税率を賦課することが可能になる。この場合、米国は貿易相手国が高い関税を課している同じ品目に賦課するのが基本だが、覚書では相互関税の適用が各国別にカスタマイズされることになっており、別の品目に賦課する可能性もあり得る。また、ある国が米国から輸入する全製品に対して平均的に高い関税を課しているならば、米国もその国からの輸入品全体に高い平均関税率を適用することもあり得る。
そして、EUのように高い付加価値税を導入しているような場合は、その付加価値分を上乗せした関税率を相互関税として賦課することも検討している。つまり、域内の付加価値税が約20%に達するEUのような地域には、自動車への10%の関税に加えて、付加価値税の20%を合計した税率を賦課する可能性があるということだ。
したがって、EUの付加価値税と同様に日本の消費税も対象となり得るし、非関税障壁の調査も相互関税に関する覚書の中に含まれていることから、日本の非関税障壁も何らかの加工を加えて数値化し、相互関税に上乗せされる可能性がないとは言えないと思われる。
相互関税は、輸入品に対して相対的に高い関税を賦課しているインドやブラジル、そして高い付加価値税を導入しているEUなどが主な対象国になると考えられる。今後は、ユニバーサル・ベースライン関税と同様に世界全体に賦課することもあり得るが、国ごとに調査した上で個別に対応を図っていくものと見られる。
ホワイトハウスのピーター・ナバロ通商・製造業担当上級顧問は、CNNのインタビューに答えて、米国は相互関税を課す前に、まず相手国との関係を分析すると語った。ナバロ上級顧問は、対中強硬派として知られるものの、従来から日本の非関税障壁に対しても厳しい見方をしており、ナバロ上級顧問を含む商務省やUSTRの今後の対日要求の動きが注目される。
実務的に難しい相互関税の導入
一方、相互関税は関税賦課の際において、実務的に難しい問題を抱えていることは事実である。すなわち、第一に、広範な範囲をカバーする相互関税を発動するための根拠法を見出すのは、移民・麻薬流入でのカナダ・メキシコへの25%関税や鉄鋼・アルミへの25%関税の賦課の場合よりも難しいことが挙げられる。
ちなみに、前者(移民・麻薬流入)の根拠法は大統領が緊急事態宣言した場合に大統領権限を行使できる IEEPAであり、後者(鉄鋼・アルミ)の場合は国家安全保障に脅威を与えると判断した場合に適用できる1962年通商拡大法232条である。
つまり、相互関税を賦課するための根拠法として、1930年関税法338条(特定国が米国に不利益をもたらす差別的待遇を採用していると認定した場合、当該国からの輸入に最大50%の追加関税を賦課できることを規定)を選択すること、さらには1962年通商拡大法232条や1974年通商法301条(不公正な貿易・商慣行に対抗するための措置)などの適用を検討することも可能である。そして、複数の法律に依拠することも考えられる。
また、第二として、トランプ大統領が正確に相互関税を賦課しようとすれば、相互関税を適用する国に対してそれぞれ異なる関税スケジュールを要求することになるが、この個別対応は、実務的に極めて多くの作業を生むことになる。また、実務的な作業が煩雑になるだけでなく、その調整にも時間が必要と思われる。
第三として、相互関税の対象国の関税を確定する際に、その関税率が拘束関税率(bound rate: WTO(世界貿易機関)加盟国が特定の輸入品目に対して設定する最大関税率)を採用するか、実際に適用される関税率(actually levied tariffs)を採用するかという問題がある。通常は、実際に適用される関税率の方が拘束関税率よりも低くなっている。もしも、実際に適用される関税率を採用するならば、その関税率は常に変更されるため、その修正作業を続けることは実務的にかなりの負担となる。
すなわち、トランプ大統領が相互関税を施行するならば、事務方と十分な打ち合わせと調整を行わなければ、麻薬(フェンタニル)の取引に活用されているとして、中国からの800ドル以下の小包などの関税を無税とするデミニミス・ルールの一時的な停止を命じた時のように、予想以上の実務上の困難さから途中で撤回する可能性がないとは言えない。
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