2009/04/23 No.122一部主要国の自動車販売に好転の兆し−政策による刺激が販売を促進−
吉岡武臣
(財)国際貿易投資研究所
世界的な経済危機による景気低迷の中、各国の自動車販売は大きく落ち込んだが、2009年3月の販売台数を見ると、前年同月を上回った国が出始めている(表参照)。各国の販売台数は基準が異なるため単純に他の国との比較は難しいが、米国・日本では依然として販売が落ち込んでいる一方、中国・ドイツ・ブラジルなどは販売が増加傾向にある。
表主要国の2009年の自動車販売台数(単位:台、%)
1月 | 2月 | 3月 | ||||
台数 | 前年同月比 | 台数 | 前年同月比 | 台数 | 前年同月比 | |
米国 | 655,226 | -39.4 | 687,356 | -38.9 | 855,358 | -34.2 |
中国 | 735,900 | -14.3 | 827,600 | 24.7 | 1,109,800 | 5.0 |
日本 | 174,281 | -27.9 | 218,212 | -32.4 | 323,063 | -31.5 |
ドイツ | 189,385 | -14.2 | 277,740 | 21.5 | 400,965 | 39.9 |
イギリス | 112,087 | -30.9 | 54,359 | -21.9 | 313,912 | -30.5 |
イタリア | 158,392 | -32.2 | 166,110 | -24.1 | 214,218 | 0.2 |
フランス | 149,372 | -7.9 | 152,066 | -13.2 | 204,018 | 8.0 |
ロシア | 116,899 | -33 | 134,912 | -38 | 135,446 | -47 |
ブラジル | 197,454 | -8.1 | 199,366 | -0.7 | 271,442 | 16.9 |
(出所)米国:Ward Automotive Group、中国:中国汽車工業協会、日本:日本自動車販売協会連合会、ドイツ:VDIK、イギリス:SMMT、イタリア:ANFIA、フランス:CCFA、ロシア:AEB、ブラジル:ANFAVEA
(注) 1.前年同月比でプラスになった国を網掛けにしている。
2.各国の台数は以下の数字を掲載した。米国:軽トラック含む、中国:乗用車・商用車合計、日本:軽自動車除く。登録ベース、ドイツ:乗用車。登録ベース、イギリス:乗用車。登録ベース、イタリア:乗用車。登録ベース、フランス:自家用車。登録ベース、ロシア:軽商用車含む。
販売が増加した国では、政府による販売促進策が大きな要因となったと考えられる。
<中国>
2009年1月から排気量1600CC以下の小型車の取得税を10%から5%に引き下げた。また、農業用三輪車を廃棄し、1300CC以下の小型車に乗り換える場合、新車代金の10%を支給。この結果、1月から3月までの1600CC以下の小型車販売は141万台と前年同期に比べ21.9%増加した。
<ドイツ>
2009年1月から9年以上使用した車を排ガス基準に適応した新車に買い替える際、2500ユーロの補助金(スクラップインセンティブ)を支給。この結果、販売が大きく増加したため、2009年末まで制度の延長を決めた。
<ブラジル>
2008年12月から工業製品税(IPI)に関し、1000CCの乗用車では7%を0%にするなど、小型車を中心に減税。2009年3月までの措置が6月末まで延長された。
<イタリア>
2009年2月から、1999年末以前に登録した自動車を廃車し排ガス基準適合の新車を購入、または天然ガス、LPGなどクリーンエネルギー車を購入する際の補助金を拡大した。2009年末まで実施の予定。
その他、オーストリア、ルーマニアではドイツやイタリアと同様に新車への買い替えのための補助金を支給、スペインでは低利融資を拡大している。フランスは補助金のほかCO2排出量による新車登録税の割り増し・割引制度を導入している。欧州委員会では各自動車メーカーに対し2012年からCO2排出量による罰則を設けており(参考:フラッシュ118「EU、自動車CO2排出規制で妥協成立」)、こうした政策は販売の促進だけでなく、低CO2排出車の導入促進にも繋がると考えられる。
深刻な売り上げ不振が続く米国や日本でも他国に倣い、政府による販売促進策が発表された。米国ではオバマ大統領が3月30日に新車購入時の取得税の免除、環境に配慮した低燃費車購入のためのスクラップインセンティブ導入を検討するなどといった内容の対策を発表した。さらに、経営が不安視されているメーカーに対する買い控えを防ぐため、購入後の保証は政府が行う一方、政府機関の公用車として米国製の低燃費車を17600台調達することを発表した。
日本では新車登録後13年以上経過した自動車を廃車し、燃費基準を満たした新車を購入する際に普通車で25万円、廃車を伴わない新車購入も基準を満たせば普通車で10万円が補助されるスクラップインセンティブが実施されるのに加え、4月からの「エコカー減税」によりハイブリッド車や電気自動車の購入には自動車取得税や重量税が減免されることになった。
こうした販売促進策については、その効果が一時的なものである可能性が指摘されている。ウォールストリートジャーナル(4月15日付ヨーロッパ版)では、ドイツの新車販売の急増に関し、2007年1月のVAT(付加価値税)引き上げ時の新車販売の駆け込み需要に非常に良く似ており、将来の消費を現在に移動しただけであると論じた。
しかし、たとえ販売増が一時的なものであっても、各国の販売促進策は自動車の主流をより低燃費で環境に配慮したものに変えていく大きな契機となるであろう。イギリス政府は4月16日に超低CO2排出車の導入促進プランを発表した。それによると、電気自動車などの購入に最大5000ポンドの補助金を2011年から支給するほか、充電設備などのインフラ整備、メーカーに対しての技術開発支援が盛り込まれている。将来的に低CO2排出自動車の技術開発および製造において世界の主導権を握りたいという戦略を描いている。
日本の自動車販売促進策がどの程度国内の販売を刺激するかはまだ不明だが、ハイブリッド車のトヨタの新型プリウス、ホンダのインサイトは好調な受注が続いている。また、将来的な技術開発においても、電気自動車やハイブリッド自動車などの次世代自動車技術の特許出願件数は日本が最も多く(注)、技術的な優位性も高い。今後は目下の経済対策としての販売促進だけでなく、景気回復後の自動車産業を勝ち抜くための技術開発と政府の支援がますます必要とされるであろう。
(注)特許庁の調査によると「電気推進車両技術」分野では1995年〜2006年の日米欧中韓への特許出願合計において日本勢が全体の72%を占め、最も出願件数が多い。
追記:イギリスでも2009年の予算案にスクラップインセンティブが盛り込まれた。10年以上前に登録された自動車を新車に買い換える際、2000ポンドが割り引かれる。期限は2010年3月、または計上された3億ポンドの財源が尽きるまでとなっている。
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