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2024/11/08 No.534米国第二次トランプ政権で予想される閣僚の顔ぶれ

木村誠
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

2024年11月の大統領選挙でドナルド・トランプ候補の勝利が確定した。事前の世論調査での接戦の予想に反して、激戦州や民主党地盤の州でも圧勝したほか、共和党は上院選挙でも過半数の議席を奪還した。トランプ氏は25年1月20日に第47代合衆国大統領に就任することになるが、一度再選に失敗した大統領が復活を果たすのは第22代大統領のスティーブン・クリーブランド以来132年振りとなる。カマラ・ハリス氏の敗因については、ジョー・バイデン政権のインフレ対策や国境管理の失策、そこにおけるハリス氏の連帯責任をトランプ氏が巧妙についたこと、ハリス候補が民主党の正式の予備選を経ずに大統領候補に選出されていて、民主党の選対本部内でも反発があったためとみられる(注1)。

トランプ次期大統領とその政権移行チームは、25年1 月 20 日の政権発足を目指し、今後閣僚の選任、ホワイトハウスや各省庁の政治任用職(1,200 人 以上の上院承認人事を含む)の人選、各省庁との引継ぎ協議を行う。政権移行を円滑に行うため、米国では1963 年大統領政権移行法(PTA)で、現政権と次期政権が行うべき様々な手続きが定められている。現在、政権移行作業は、金融サービス会社のキャンター・フィッツジェラルド最高経営責任者(CEO)ハワード・ラトニック氏と第一次トランプ政権で閣僚級の中小企業庁長官を務めたリンダ・マクマホン氏が指揮している。

第二次トランプ政権の政策の方向性をみる上で重要なのは、政権の主要閣僚に誰を据えるかである。大統領選挙と同時に行われた上院議員選挙では共和党が多数派を奪還したため、上院の承認が必要となる閣僚の任命に当たっては、トランプ次期大統領の意向がスムーズに反映されることになろう。しかし、課題も多い。バイデン政権では、閣僚の交代はほとんどなかったが、第一次トランプ政権では閣僚の交代が相次いだ。このためトランプ次期大統領は安定した政権をどう作っていくかが課題となる。また閣内での大統領権限継承順位は、国務長官、財務長官、国防長官、司法長官などであるが、バイデン政権では史上初めて女性を副大統領に据え、財務長官にもジャネット・イエレン氏を迎えるなど重要閣僚に女性を登用し多様性を重視する閣僚人事を行っている。第二次トランプ政権の閣僚候補と上級スタッフは主に白人、男性、ポピュリスト、そして当然のことながらトランプ氏に忠実な人物になるとみられているが、こうした点でもトランプ氏は閣僚人事でどのような新規性を発揮するのかも注目される。以下、米国のメディアでとりざたされている主要閣僚候補を追ってみよう。

国務長官

トランプ次期大統領は、第一次政権時に国務長官に当時エクソンモービルの会長兼CEOのレックス・ティラーソンを指名したものの、徐々に関係が悪化し、後任に中央情報局(CIA)長官のマイク・ポンペオを横滑りさせている。ティラーソンを国務長官に推薦したのは、ブッシュ政権で国務長官を務めたコンドリーザ・ライス氏とロバート・ゲイツ国防長官の二人だ。狙いはトランプ氏の「米国第一主義」を不安視する世界の政治・経済界のリーダー達に、ビジネス経験豊富なティラーソンを通じて安心感をもたせることだった。しかし結果的には政権運営でトランプ氏の個性が強く出すぎて、ティラーソン氏の足が掬われた形となった。

これに対して、カンザス州選出の連邦下院議員を経てトランプ政権入りしたポンペオ氏は閣僚任期中、忠実にトランプ大統領に尽くしており、第二次トランプ政権で再び国務長官に復帰する可能性もある。同氏はウクライナ擁護者のひとりで、現在保守系のシンクタンクであるハドソン研究所に属し、これまでトランプ氏再選に向けての選挙活動も行ってきた。USスチール買収を目指す日本製鉄は、ポンペオ氏をアドバイザーに迎えている。

このほか、国務長官候補として名前が挙がっているのは駐ドイツ大使、国家情報長官代行をつとめたリック・グレネル氏、国家安全保障担当の大統領補佐官としてトランプ氏を支えたロバート・オブライエン氏、元駐日大使で上院議員(テネシー州選出)のビル・ハガティ氏である。このうちグレネル氏は職業外交官として国務省に長く勤務した共和党員で熱烈なトランプ支持者だ。しかし駐ドイツ大使時代は現地の極右勢力との密接な関係で孤立し『シュピーゲル』誌などで「米国大使には友人がいない」と批判されている。また国家情報長官代行ポストも長官にジョン・リー・ラトクリフ下院議員(テキサス州選出)が任命されるまでの僅か3か月足らずで終わった。グレネル氏は24年9月トランプ氏がウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した際に同席しており、上院の承認が不要の国家安全保障担当大統領補佐官になる可能性も取り沙汰されている。一方、オブライエン氏はNATOの枠組みやウクライナ支援に熱心だが、ハガティ氏はウクライナ支援には慎重だ。いずれにせよ、誰を国務長官に指名するかで、トランプ第二次政権の外交方針が透けて見えてくることになる。

国防長官

第一次トランプ政権の国防長官は、代行も含め7人と目まぐるしく変わった。最初国防長官に就任したのは、海兵隊出身のジェームス・マティス大将で、統合戦略軍司令官、NATO変革連合軍最高司令官、中央軍司令官などを歴任した。国防長官就任後はNATOとの同盟関係を重視する立場をとったが、同盟国にも応分の負担を求めるトランプ大統領との関係が徐々に悪化し、辞任に追い込まれた。後任には、パトリック・シャナハン(ボーイング副社長、国防副長官)、マーク・エスパー(軍需部品企業レイセオン副社長、陸軍長官)、リチャード・スペンサー(海軍長官)の3人の長官代行を経て、マーク・エスパー氏が正式に国防長官に就任した。しかし2020年ジョージ・フロイド事件に端を発したブラック・ライブズ・マターのデモ鎮圧でトランプ大統領と対立し、エスパー氏は2020年11月の大統領選挙直後に解任された。その後国防長官代行となったのがクリストファー・ミラー氏(国家テロ対策センター所長)である。

現在国防長官候補にあがっているのは、ティム・コットン上院議員(アーカンソー州)とマイケル・ウォルツ下院議員(フロリダ州)で、2人とも陸軍に勤務経験がある(注2)。コットン氏は2020年、ジョージ・フロイド氏殺害後の抗議活動を鎮圧するために軍隊を派遣すべきだと主張し、批判をあびた。またウォルツ下院議員は、対中強硬派の一人として知られている。このほか、トランプ次期大統領はウェストポイント卒業生で、中央情報局長官や国務長官としてトランプ政権を支えたポンペオ氏、第一期政権末期に国防長官代行を務めたミラー氏も候補に挙げている。

財務長官

閣僚の交代が頻繁に行われるなかで、スティーブン・ムニューシン氏は4年間財務長官としてトランプ氏に仕えた。このため、安定性のあるムニューシン氏の再登場に期待する向きもあるが、現在新財務長官として有力視されているのは、ヘッジファンドマネージャーのジョン・ポールソン氏とスコット・ベセント氏で、2人ともトランプ氏の資金調達に貢献している。実はムニューシン氏も就任当時トランプ氏の最大の資金調達者で、ワシントンでの経験がほとんどないゴールドマン・サックスのパートナーだった。このため、今回の財務長官も資金調達に貢献したビジネスマンから選ばれる可能性が高いとみられている。このほか、第一次トランプ政権の関税政策を推進し、中国、カナダ、メキシコとの通商交渉に尽力した元米通商代表のロバート・ライトハイザー氏も財務長官候補として名前が挙がっている。同氏は現在ワシントンのシンクタンク、アメリカ第一政策研究所(以下、AFPI)のアメリカ貿易センター長をつとめている法律家であり弁護士だ。ライトハイザー氏はトランプ氏と同様、貿易懐疑論者であり、関税政策を強く支持しており、通商代表に復帰する可能性もある。

新財務長官の課題は、2025年末で期限切れを迎える17年共和党税制(法人減税、個人所得税の減税)の扱い、バイデン政権時代に拡大した財政赤字への対応だ。バイデン政権で国家経済会議(NEC)の議長を務めるラエル・ブレイナード氏は、すでに17年共和党税制の撤廃を表明している。またトランプ次期大統領が、大統領選挙期間中に言及した大衆迎合的な高関税政策に、新政権が実際どこまで踏み込むのかも注目されている。産業界は新政権による規制撤廃や法人税減税に期待をかける一方で、高関税政策には反対している。

司法長官

トランプ次期大統領の最大の関心人事のひとつは、司法長官に誰を据えるかである。不法移民の取り締まり、自身が抱える刑事訴訟の扱いなどで、トランプ次期大統領の意向を組んで動いてくれる司法長官を指名することになる。トランプ次期大統領は選挙期間中、政権復帰後最初の日にジャック・スミス特別検察官を解任すると明らかにしている。スミス特別検察官は、退任後のトランプ次期大統領を2回起訴している。ひとつは2020年大統領選の結果を覆そうとした事件、もう一つは機密文書の持出しに関する違法行為である。トランプ次期大統領はこの二つの連邦刑事訴訟を中止することができる。2020年ジョージア州での大統領選挙結果への介入と16年ニューヨーク州での口止め料詐欺の隠ぺい事件での訴追については、トランプ次期大統領の弁護団は判事に対し凍結するよう求めるとみられる。

次期司法長官として名前が挙がっているのは、ミズーリ州の司法長官を務めたエリック・シュミット上院議員(共和党、ミズーリ州)、テキサス州のケン・パクストン司法長官、元司法省次官補のジェフリー・クラーク、マイク・リー上院議員(共和党、ユタ州)、ジョン・ラトクリフ元国家情報長官などだ。このうち、クラーク氏は、トランプ次期大統領による2020年大統領選挙の覆しの試みを支援し、コロンビア特別区で弁護士資格2年間の停止勧告を受けている。また、マイク・リー上院議員もトランプ次期大統領に対する刑事訴追を声高に批判してきたひとりで、トランプ氏の評価が高い。

商務長官

商務省は、産業振興、経済安全保障、貿易振興、標準化や知的財産、国勢調査など幅広い分野を所管しているが、次期トランプ政権下で商務省は「アメリカ第一主義」の中心的な役割を担うことになる。第一次トランプ政権では、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、経済安全保障の観点から鉄鋼とアルミニウムへの関税引き上げなど保護主義的な措置が相次いだ。第二次トランプ政権でも関税政策を積極的に活用していくものとみられるが、その商務長官候補に挙がっているのは、第一次トランプ政権で通商代表を務めたロバート・ライトハイザー氏や、現在は政権移行を指揮しているマクマホン氏などがいる。このほか、上院議員のハガティ氏や、バージニア州知事グレン・ヤンキン氏(共和党)、第一次トランプ政権で経済成長・エネルギー・環境担当国務次官を務めた実業家のキース・クラック氏なども候補に挙がっている。このうちハガティ氏は、トランプ大統領の信頼が厚く、一時期、副大統領候補として名前があがったこともある。同氏は商務省、通商代表部、国務省、財務省など多くの閣僚候補として名前を連ねている。ハガティ氏は2017年8月から約2年間駐日大使を務めていて、日本の政財界に知己が多く、日本にとっては第二次トランプ政権にアプローチしていく際には、大きな橋渡し役となると期待されている。

大統領首席補佐官

ホワイトハウスの要となる首席補佐官は、上院の承認を必要としない閣僚級のポストである。第一次政権では、ラインス・プリーバス、ジョン・ケリー、ミック・マルバニー、マーク・メドウズの4人が務め、国防長官ポスト同様、目まぐるしく変わっており、第一次トランプ政権内の混乱を象徴していた。今回トランプ次期大統領は、スージー・ワイルズ氏を次期政権の大統領首席補佐官に指名した。女性の首席補佐官起用は初めてとなる。ワイルズ氏はレーガン大統領のスケジュール担当秘書からのたたき上げで、前回トランプ大統領が退任した後も、フロリダ州の私邸マール・ア・ラーゴを拠点に事実上の選対本部長として活動してきており、共和党内からの人望が厚い。11月7日大統領選の大勢が決まった時点でフロリダ州の集会でトランプ次期大統領が行った「勝利宣言」で、トランプ次期大統領はJ・D・ヴァンス次期副大統領の次に「今回の大統領選挙戦の最大の貢献者」としてワイルズ氏を紹介している。トランプ次期大統領は2016年の大統領選挙勝利後、共和党全国委員会のプリーバス委員長を首席補佐官に、また選挙対策最高責任者のスティーブ・バノン氏を首席戦略官に任命するなど、大統領選勝利に貢献した人々に報いる傾向がある。今回ワイルズ氏の首席補佐官起用も同様の意向が働いたものとみられる。ワイルズ氏はトランプ政権一期目に欠けていた秩序と規律を取り戻してくれると期待する向きもある。

(本稿は2024年11月7日時点の情報をもとに作成した)

  1. 木村誠「民主党は、ハリス候補で11月の大統領選挙に勝利できるのか」
    (ITIフラッシュ2024/08/15 No.533)(https://iti.or.jp/flash/533
  2. 上院議員ポストに欠員が生じた場合、通常次の下院選のタイミングで補欠選挙が行われるが、その選挙までの間の臨時の後任は上院議員の選出州の知事が指名することになる。アーカンソー州知事は、現在サラ・ハッカビー・サンダース(共和党)なので、仮にコットン上院議員が閣僚になった場合、後任は共和党から選ばれるので上院の勢力図には影響しない。
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