一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2015/05/13 No.230_3FTAを利用できる品目が少ない日本(3/7)~低いミャンマー・カンボジアのFTA利用率~

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

(3/7ページ)

目次

  1. FTAの利用率とは何かを考察する
  2. FTAを利用できる品目を母数にしたFTAの利用率
  3. ACFTAやAFTAを利用できる品目の割合は7割~8割台
  4. 日本が中国とのGSPを利用できない品目数は7割強相当の6,500品目
  5. 関税率差が20%以上もある品目でFTAを利用できる割合が高いタイ
  6. 関税削減効果がなく日本のEPAを利用できない品目の割合は5割
  7. ミャンマー・カンボジアのFTA利用拡大を妨げる国境貿易と経済特区

3.ACFTAやAFTAを利用できる品目の割合は7割~8割台

表2や表3では、FTAの利用率の計算において、分母にFTAを利用可能な品目の輸入額を用いた。FTAを利用可能な品目とは、関税率差(MFN税率-FTA税率)がある品目のことを指す。関税率差があれば、FTAの関税削減の利益を享受できるわけであるから、FTAを利用できる品目となる。もしも、関税率差が0であれば、FTA利用による何の利益も発生しないので、FTAを利用できない(FTAのメリットがない)品目となる。

図1は輸出入国別のFTAを利用できる品目数と輸入額を描いたものである。ここでの輸出入国とは、中国のASEANからの輸入、インドネシアの中国・ASEAN・日本からの輸入、タイの中国・ASEAN・日本からの輸入、日本の中国・ASEAN・タイからの輸入、の10通りの組み合わせを指している。図1はこの10通りの輸出入国別に、FTAを利用できる(関税率差がある)品目数と輸入額を計算した結果を描いている。そして、図2は、輸入額と品目数の割合を求めたものである。

図1 輸出入国別のFTAを利用できる品目数と輸入額

中国、インドネシア、タイ、日本の輸入品目の総数は、各国とも8,200品目~10,000品目の間にある。その中で、FTAを活用できる輸入品目数(すなわち関税率差のある品目)は、図1の点線のように、中国、インドネシア、タイでは6,500品目から8,500品目となる。日本においては、EPA利用したインドネシアとタイからの輸入の場合は4,300~4,400品目、GSPを利用した中国からの輸入では2,500品目となる。

このFTAを利用できる品目数の全輸入品目数に対する割合は、図2の点線のように、中国、インドネシア、タイでは大体60%台後半から80%台半ばの水準となる。大雑把にいうと、ACFTAやAFTAを利用できる品目の割合は、7割から8割台である。これに対して、日本の輸入にEPAを活用できる品目の割合は点線で示されているように約5割で、日本の中国からの輸入でGSPを利用できる品目の割合は約3割ということになる。

図2 輸出入国別のFTAを利用できる品目数割合と輸入額割合

ところが、図2の棒グラフで示されている各国のFTAを利用できる輸入額の割合は、10通りのどのケースでも点線の品目数の割合よりも低い。中でも中国のASEANからの輸入では、棒グラフのようにFTAを利用できる輸入額の割合は36%であり、インドネシアのASEANからの輸入額割合は43%であった。インドネシアの中国と日本からの輸入や、タイの中国・ASEAN・日本からの輸入では、FTAを利用できる輸入額の割合は50%~65%の間であった。

日本のインドネシアからの輸入でのEPAを利用できる輸入額の割合は13%、日本のタイからの輸入額割合は28%であった。そして、日本の中国からの輸入において、GSPを利用できる輸入額の割合はわずかの5%であった。

このように、FTAを利用できる品目数の割合の方が輸入額の割合よりも高い理由は、FTAを利用できる品目の1品目当たりの輸入額がFTAを利用できない品目の1品目当たりの輸入額よりも小さいからである。

例えば、インドネシアが中国からA、B、Cの3品目を輸入するケースを想定する。AとBがFTAを利用できる品目でCができない品目であり、Aの輸入額を30ドル、Bを30ドル、Cを40ドルとする。このインドネシアの中国からの輸入で、FTAを利用できる品目数の割合は、[66.7%=2品目/3品目]である。FTAを利用できる輸入額の割合は、[60%=(Aの30ドル+Bの30ドル)/( Aの30ドル+Bの30ドル+Cの40ドル)]となり、品目数の割合よりも低い。

これは、FTAを利用できる品目の1品目当たりの輸入額が[30ドル=(Aの30ドル+Bの30ドル)/2品目]であり、FTAを利用できない品目の1品目当たりの輸入額[40ドル=Cの40ドル/1品目]よりも小さいからである。

もしも、FTAを利用できる品目の1品目当たりの輸入額とFTAを利用できない品目の1品目当たりの輸入額が同じであれば、FTAを利用できる品目の品目数割合と輸入額割合が等しくなる(図2の点線と棒グラフが重なる)。

例えば、上記例において、Bの輸入額を50ドルに変更すると、FTAを利用できる品目の1品目当たりの輸入額が[40ドル=(Aの30ドル+Bの50ドル)/2品目]となり、FTAを利用できない品目の1品目当たりの輸入額[40ドル=Cの40ドル/1品目]と同じになる。そして、FTAを利用できる輸入額の割合は [66.7%=(Aの30ドル+Bの50ドル)/( Aの30ドル+Bの50ドル+Cの40ドル)]となり、品目数の割合と一致する。

また、FTAを利用できる品目の1品目当たりの輸入額が、FTAを利用できない品目の1品目当たりの輸入額よりも大きければ、FTAを利用できる品目数の割合が輸入額の割合よりも低くなる(図2における点線が棒グラフの下になる)。

したがって、FTAを利用できる品目の1品目当たりの輸入額が、FTAを利用できない品目の1品目当たりの輸入額よりも小さければ小さいほど、FTAを利用できる品目数の割合の方が輸入額の割合よりも高くなる(図2の点線と棒グラフの差が広がる)。

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